103話 優雅なる船上の旅?
「達也! 大変な事になったわ。魔大陸が陥落寸前だそうよ」
「どういう事だ?」
レーベンに到着して、セリアに話しかけた第一声がこれだった。
セリアは情報収集をしていたところ、魔大陸から帰ってきた商船団から話しを聞いて知ったそうだ。
現在は勇者バッカスが陣頭指揮を執り、最終防衛ラインであるミューズの港で最後の抵抗をしているらしい。
すでに、魔大陸の主要な町とは連絡が取れず、補給線もずたずたになっているそうだ。
そして、帝国などの主要国はすでに見切りをつけて撤退してしまったそうで、増援なども送らないとの事だった。
「まだ、陥落したわけではないんだろう?」
「そうね。なら、ハミルトンの港までは行ってみましょう。エル大陸の北端にある港ですもの。そこなら詳しい情報が入手できるはずよ」
セリアは渋い顔をしていた。
きな臭いとか言ってたから予想はしていたのだろうが、ここまで追い込まれているとは思っていなかったのだろう。
先行きが怪しくなってきたな。
しかし、ここで引き返すわけにはいかないんだ。
そして、俺達はエル大陸北端にあるハミルトンの港に向けて出発する。
「陸路より海路の方が早いわ。リトアの港へ行きましょう」
リトアの港はレーベンよりすぐ南にある。
陸路で北へ向かうより、海路で海岸線を北東に進んだ方が早いそうだ。
陸路なら60日は掛かる所を20~40日で到着する。
帆船なので航海日数はがらりと変わる。
すべては、波まかせ風まかせだ。
リトアの港から船に乗る。
そして、今は気ままな船旅の最中だ。
船に並走するように飛ぶカモメ
海だ~!
目が痛くなるほどきらきらと輝く波間。
ひゃっほい!
心が癒される優しい潮の香り。
おー、いぇす。
現在、おいらの気分は南の島なんだ。
うへへへ。
しかし、船上での優雅な船旅なのだが……とても暇だ。
余計な荷物は持って来れないから本とか何もない。
時間がもったいないよなあ。
船の自分の部屋でぼけーとしていると、セリアが訪ねてきた。
「達也、暇そうね」
「まあな」
「なら私達と剣の稽古をしない?」
「別にかまわないけど、俺は剣は使わないぞ?」
まあ、暇だったからちょうどいいな。
どうやら、船のデッキで稽古をするみたいだ。
セリアと話しながら甲板に向かう。
「達也は異常なくらい命中が高いのよ? 使わないのはもったいないわ」
セリアが怪訝な顔をして聞いてきた。
どういう事だろう?
「いくら見えていても、体が動かないのだから意味がないだろう?」
「やっぱり、勘違いしているようね」
俺の顔を見たセリアがため息をつきそうな顔で言ってきた。
勘違い? 何を?
甲板に着くとセレナが待っていた。
「たっつん~!」
セレナが手を振りながらこちらへ駆けて来た。
大きな声で相変わらず元気だよな。
「話すより試した方が早いわ。いいから構えなさい!」
「え? うぉ!」
ビュ! と風切り音を鳴らしてセリアが槍で突いてきた。
咄嗟に避けて後方に移動する。
「いきなりは、危ないだろ?」
びっくりした。
セレナを見てたから正直危なかったぞ。
「ふん、その割には余裕で避けたんじゃないかしら?」
「え? そりゃあ、最初の1回だけはなんとかな」
「なぜ? 最初の1回だけなのかしら?」
セリアがいつものポーズで覗き込むような仕草で問いかけてきた。
「どういう事だ? そんなの次の動作が間に合わないから……あ、なら動けるようにすれば」
「わかったみたいね。そう、次の動作のために無駄な動きを削ぐのよ」
「親父が、いや、武器屋の親父がクロスボウしか道はないと言っていたぞ?」
「ふ~ん、聞いた時はいつの話なの? 達也の命中はいくつだったのかしら? 達也の命中の上がり方は異常なのよ?」
「え~と、確かレベル2の時か? 命中は20だったかな? ……その後にレベル9の時にも見せたかな? そういえば親父も命中の異常な伸びに驚いていたな」
「やっぱりね。その時にはその判断でいいのよ。普通はあんなに命中が伸びる人はいないもの。でも、その後にも見せたのなら命中の異常な伸びを確認したわけよね? なら、遠まわしにでも剣を勧められなかったかしら?」
「あ! そういえば親父が……」
必要になるからと、剣を打ってくれると言っていたな。
そう言う事だったのか。
親父のやつ、後になって言い出しづらくなったんだな。
でかい図体をして、心はガラス細工のように繊細だからな。
そんな事気にしないのに。
「どうやら、心当たりがありそうね」
その日から、船上の甲板で剣の稽古が始まった。




