102話 旅の準備
さて、これで問題ないかな?
旅の準備のために荷物の確認を行っていると、そこにロイドさんがやって来た。
「達也君、魔大陸へ行くんだって?」
「ロイドさん。はい、そうです」
「じゃあ、今月分の給料を先に渡しておこう」
そうか、3ヶ月経つんだなあ。
ロイドさんから給与を貰う。
500万エルという大金だった。
「ちょっと、ロイドさんこんなに貰えませんよ」
「そんな事はないさ。達也君がしてくれた事を考えたら、本当ならもっと渡すべきなんだ。しかし、これ以上増やすと、達也君は受け取ってくれないだろ?」
「はい、俺はもう特効薬やソーンを作っていません。だから、こんなに貰えないです」
「まあ、特効薬の製法の口止め料も入っていると考えて、受け取ってくれないか?」
「……わかりました、そういうことなら」
「ああ、あと達也君が作った特効薬なら売ってお金にして構わないからね。魔大陸には気をつけて行っておいで。そして、絶対に帰って来るんだよ」
そう言うとロイドさんは去っていった。
う~ん、特効薬をお金にできるのは非常に助かるのだが、何か悪い気がするんだよね。
本当に困った時だけにしよう。
それより、臨時で500万エルもお金が手に入ったのは助かった。
予備資金の真珠を使おうと思っていた所だったからな。
そうだ、親父の所で鋼の矢を購入しておかないと。
「親父! 鋼の矢を売ってくれ」
「おお、達坊。お前魔大陸へ行くんだってなあ。魔大陸はやばいぞ? まだ早いんじゃないのか?」
「まだ、早いのはわかってるんだ。だけど、どうしても行かないといけないんだよ」
俺が悲壮の覚悟をもって言うと、親父はそれ以上何も言わなかった。
そして、鋼の矢を受け取る。
「すまんな、本当なら達坊に打った剣を持たせてやりたかったんだが。間に合わなかった」
「気にしないでくれよ親父、強化ボウガンの改造やら装備の整備やら色々と頼んでいたからな。それに剣は基本的に使わないから問題ないよ」
「フフ、今はな。いや、なんでもない。いいか? 絶対に死ぬんじゃないぞ?」
「ああ、わかってる。じゃあ、行って来る」
「気をつけてな」
親父に手を上げて答えると武器屋を後にした。
工房に戻ると出発の挨拶をする。
ロイドさんは仕事があるので居ないが、先に挨拶は済ませてある。
そして、親方、ナタリアさん、ミュルリの3人にお別れの挨拶をする。
「達也、絶対に死ぬんじゃないぞ?」
「達也さん、気をつけて下さいね」
「お兄ちゃん。……何処か食事にでも連れて行ってくれるって、約束してたのに嘘つき」
ミュルリが俯いて駄々をこねていた。
珍しいな。
「すまん、時間ができなくて。帰ってきたら何処かへ行こう、約束する」
「なんてね! びっくりした?」
ミュルリが俯いていた状態から、がばりと顔を上げて笑顔で答えてきた。
しかし、ミュルリの目からはぼろぼろと大粒の涙がこぼれていた。
この世界では交通機関があまり発達していない。
今は大分安全になったと聞いているが、船で大陸を移動するのは命がけなのである。
移動にも時間が掛かるため、今生のお別れになってしまう可能性も高いのだ。
しかも、向かう先はあの魔大陸である。
ミュルリが泣きながら俺に抱きついてきた。
ミュルリは昔の心の傷が原因で、別れに対して過剰なくらいの拒否反応を示すんだ。
しっかりとしたお別れをして、また戻って来るんだという事を体験させてあげないとな。
必ず生きて戻ってくると心に誓う。
ミュルリが泣き止むまで頭を撫で続けた。
泣いてすっきりしたのか、ミュルリが名残惜しそうにゆっくりと離れる。
「それじゃあ、行ってくる」
「行ってらっしゃい」
ミュルリが笑顔で手を振っていた。
ナタリアさんは貰い泣きしていたようだ。
親方は腕を組み、目で行って来いと伝えていた。
手を軽く上げて答えると、レーベンへと向かった。




