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超えて行く者(異世界召喚プログラム)  作者: タケルさん
第二章 デスゲーム開始
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99話 出会いと別れ

 セレナが強いのはわかっていたんだ。

 だけど、ステータスはキラーマンティスの方が上だったんだぞ?


 あんなにも一方的に。


 やっぱり、スキルによる能力の上昇が凄いんだよな。

 デールもいきなり強くなるもんな。


 はぁ、超えられない壁か。


 ため息をつくと、当初の予定通りダンジョンから出で帰路に着いた。



 今日は討伐クエストを精算するために、弟子達もギルドまで一緒に行く。


 セレナのおかげで予想よりずいぶんと早くレベルが目標に達したわけだが、今日で弟子達とはお別れなんだよな。

 弟子達3人もそれがわかっているからか、帰り道は下を向きとぼとぼと歩いていた。


 ギルドに着いて採集品クエストの処理を終えると、俺はめでたくFランクからEランク冒険者になることができた。

 討伐クエストの精算はしばらく時間が掛かるという事なので、代表者のデールがギルドに残る。


 ちなみに、俺が代表ではないのは弟子達3人が最初にパーティ登録をしていて、俺がそのパーティに入るという形で登録したからだ。


 「デール、後は頼むぞ。ギルドの前の喫茶店で待ってるからな」


 「はい、僕に任せて下さい」





 達也がギルドから出て行った後、ギルドで精算を済ませるだけだったデールが大きな声を出していた。


 「どういう事なんですか?」


 「ですから、討伐数の数がおかしいのでお金の受け渡しができないと言っているのです」


 討伐数はクレイジーラットだけでも1000を軽く超えていた。

 登録した時のレベルは3人がレベル10で達也がレベル12である。

 これだけの時間で、これだけ大量の魔物を倒せるわけがないとの理由だった。


 デールが冒険者カードを取り出して自分のレベルを見せる。

 レベルは22まで上がっていた。


 しかし、逆にこの短期間ではおかしいと判断されてしまう。

 高レベルの冒険者に倒させてもらえば可能なのだが、そんな事ができるのは貴族やお金持ちの一部の富裕層だけだ。


 ようするに、ギルドカードの偽造を疑われているのである。


 「僕たちは確かに倒しました」


 「そうは言われましても」


 間の悪いことに、対応しているギルド員は新しく配属された新人だった。

 エミリーやナタリアなどのベテランならば、ギルドカードの偽造が事実上不可能だということは知っていただろう。


 現在のモニカは町の発展にともなって急激に冒険者の数が増加していた。

 そのため、ギルドも増築して2箇所しかなかった受付が今では10箇所に増えている。


 騒ぎを聞きつけて冒険者達が集まって来た。

 冒険者達が状況を確認するために雑談を始める。


 しばらくすると、集まった冒険者の中から片腕の無い冒険者が前に出てきた。


 「やっぱりそうだ! 俺はレギオンのダンジョンで命を助けてもらったんだ。この子の言ってる事は本当だ。あの時はそこら中魔物だらけで、ダンジョンに入る事さえ困難だったんだ。それをこの子達が蹴散らしたんだよ。俺はその時の怪我でこの様だ」


 そう言うと無くなっている腕を見せていた。


 「しかし、物理的にありえないといいますか」


 「私も助けてもらったわ。彼らが魔物を倒したことは私が保証します」


 「俺もそうだ。俺だって保障するぞ」


 新人のギルド員が冒険者達の嘆願を拒否しようとするも、デールを助けるために次から次へと助けられた冒険者達が名乗りを上げていた。

 普段なら決して面倒な事はしない冒険者達が、助けられたからと助け返すために名乗りを上げていた。


 因果は巡る。

 巡り巡って返って来る。


 「俺も助けてもらったんだ。大量のクレイジーラットが焼け死んでいたから、ひょっとして炎の魔法を使うんじゃないのか?」


 今度は違う冒険者が自分も助けられたと名乗りを上げるとデールに話しかける。


 「え? はい、確かに僕は炎の魔法を使えますけど……」


 「やっぱりな! そうだと思った」


 「え? いえ、ちょっと待ってください。僕ではないんです」


 デールが炎の魔法を使えると肯定すると、やっぱりあの大量の焼けた死体はこいつらだったと大騒ぎになる。

 デールは必死になって『大量の焼けた死体は僕の炎の魔法では無い』と否定するが、すでに誰も聞いてはいなかった。


 「名前はデールと言うらしい」


 「1000匹以上の魔物を焼き払ったらしいぞ」


 レギオンのダンジョンでは大量の焼けた死体が転がっていると噂になっていた。

 そのため、噂が一人歩きを始める。


 「サウザンドフレイムのデール」


 「とんでもない新人が現れたな」


 デールは火炎瓶の事は黙っていてくれと達也にお願いされていたため、強く否定する事ができず対処に困っておろおろするだけだった。


 「もう、何の騒ぎ? 眠れないじゃない!」


 「あ! エミリー室長」


 そこに、眠そうな顔を擦りながらエミリーが現れた。


 現在のエミリーは増えた新人をまとめる役職についていた。

 人を使わせると意外な才能を発揮したのである。


 そして、ナタリアの親友である事も考慮されて室長にまでなっていた。


 エミリーは騒ぎの原因となっている討伐クエストの書類を確認する。


 「どれどれ? あら? これは達也君がパーティにいるのね。なら問題ないわ。さっさと受理しなさい」


 「しかし、室長……」


 「聞こえなかったのかしら?」


 「はい、すぐに手続きを開始します」


 エミリーが腰に手を当てたポーズで睨むと、竦みあがった新人の職員はすぐに手続きを始める。


 「それにしても、凄い討伐数ね。達也君か……魔王を倒すとか言ってたけど、案外本当に倒しちゃうかも」


 エミリーは独り言を呟く。

 そして、自分で言って可笑しかったのかクスクスと含み笑いをした。




 コーヒーを飲んでくつろいでいると、デールが喫茶店に入ってきた。


 「おまたせしました」


 「おう、ごくろうさん」


 分け前の分配を終えると、なんと1人600万エルという大金だった。

 塵も積もればなんとやらというか、まあ、セレナのサポートもあったとは言え、本来は何十人で戦うところを4人でやったわけだから当然か。


 これだけの大金だと言うのに、お金の分配をしている時も弟子達は元気がないようだった。

 しょうがないか、もうすぐお別れなんだよな。


 喫茶店を出ると、弟子達を見送るために町外れまで歩いた。

 そして、俯いていた弟子達に別れを告げる。


 「師匠! 僕は辛いです」


 「お師匠様、私も辛いです」


 「おじじょうさま、おでもづらい」


 弟子達は俯いていた顔を上げると、泣き出しそうな顔でそれぞれ気持ちを伝えてきた。

 本当に別れを惜しんでいるようでこちらまで辛くなってくる。


 「出会いがあれば別れがあるんだ。別れを惜しむような出会いは辛い。だが、それは素晴らしい出会いだったのだから喜ぶべきだ」


 にやりと不適に笑って格好をつける。

 内心ではすでに泣きそうになっていたわけだがな。


 同じ飯を食い、共に戦い、苦難を乗り越えてきた戦友だ。

 俺の中ではすでに命を掛けてでも守る対象になっている。

 俺だって別れが辛いのだ。


 「師匠、ひっく、ひっく」


 「お師匠様、わた、私はひっく、泣きませ、ひっく」


 「おじじょうざまーうわぁあん」


 弟子達がぼろぼろと泣き出すと、セレナもびぃぇーと盛大に泣き始めた。


 「泣くな、別に今生の別れというわけではないんだ。会いたくなったらいつでも会える」


 俺が言葉を掛けると弟子達は泣きながら頷いていた。



 弟子達と別れて、セレナと2人でセリアの待っている宿屋に向かう。


 セレナはしばらくの間ぐずっていたが、いきなり抱きついてきた。


 「どうしたんだ?」


 びっくりしてセレナに尋ねる。


 セレナが俺にしがみつき、俺の胸元に顔を擦り付けてくる。

 そして、上目使いに見つめてくると目に涙を溜めて訴えてきた。


 「セレナ、たっつんとお別れするのは嫌なのぅ」


 「え? 何を言ってるんだ? これからはセレナ達と一緒に戦うんだよ」


 「どういうことなのぅ?」


 「前に言っただろ? 俺が鍛えて強くなるまでお別れだと。強くなったから、これからはセレナと一緒だ」


 「……ほんとぅ? 良かったぁ」


 どうやら、セレナは良くわかっていなかったらしい。

 きょとんとしたような顔になった後、心底ホッとしたような顔になった。

 そして、かわいい目を大きくまんまるに見開いて俺を見つめていた。


 宿に着きセリア達が泊まっている部屋に行くと、セリアはお茶を飲んでくつろいでいた。


 「あら、今日は早いのね?」


 「まあな、セレナのおかげでレベルも上がったからな」


 冒険者カードをセリアに見せる。

 セリアが怪訝な顔をするとセレナを見た。


 「セレナ、あなたが倒させてあげたの?」


 「セレナは倒してないよぅ。たっつんが駄目って言った」


 「そう……なら、相当な無茶をしたようね。達也、こんな戦い方をしていたら死ぬわよ?」


 セリアが俺を見つめてきた。

 そして、それは非難しているような目だった。


 俺が命を粗末にする事に対しての非難だろうか?

 わからない。


 「それでも、やらなければ確実な死が待ってるんだよ」


 ただ事実をそのままに伝えると、俺の気迫にたじろいだのかセリアは無言で目を見開いていた。


 お互いに無言のまま、静寂の時間が過ぎる。


 「そう、何か理由があるのね。ごめんなさい。考え無しに無謀な事をする人とは、パーティを組めないと思ったから。でも、お願いだから無茶だけはしないでね」


 「わかってるさ、俺だって死にたくないからやってるだけだ」


 俺の答えに満足したのかセリアの顔には笑みが浮かんでいた。

 

 「それにしても、良くこの短期間にここまでレベルを上げたわね。普通なら何年も掛かるわよ? それか、すでに死んでいるでしょうね」


 やっぱりそうだよな。

 銃がなければ何度死んでいたかわからないからな。


 「最低限のマージンは取ってるさ」


 「そう、それは何よりね。それより、達也は命中の伸びが異常よね。この命中はすでに上級冒険者達と大差無いわよ?」


 「へえ、そうなんだ」


 命中が高いと褒められても嬉しくないので、おざなりに返事をする。

 力や速度みたいな重要なステータスじゃないからな。


 命中が上がっても動体視力や反射神経が高くなるだけなんだ。

 時速10kmで突っ込んでくる車を秒速10cmくらいで避けるみたいな状態か?

 ほとんど回避行動が無意味で、速さがないからわかっていても動けなくて意味が無い。


 「それで、準備は整ったと考えていいわけね?」


 「ああ、俺はいつでもいける」


 「ふふ、頼もしいわね」


 前回と同じ様にパーティを組むと約束すると、粛々(しゅくしゅく)として宿を後にした。

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