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18人目


 18人目、シャク快晴カイセイ


 豪雷雨の鳴り降る深夜。人気のない横浜のとある街、その路地裏にて呆然と立ち竦む一人の男の子。


 男の子の視界から時折雷の光に照らされて確認出来るのは、雨の水を無防備に浴びながら血を流して無残に倒れた男性の姿。ピクリとも動かない男性をじっと見つめる男の子。涙も流す事なくその場を動かない。


 男の子の名前は快晴。彼の目の前で血を流して倒れているのは快晴の実の父親だ。


 本編より数十年前のこの夜。快晴は、幼くして実の父親を失い、その殺害現場と父親の死体を第一発見者として見つける事となる。突然の出来事に、涙を流す余裕すらないまま形として発見。現実を受け止めざるを得ない光景が広がる。


 快晴の父親は、何者かに殺された殺人事件として世間を騒がせる事になる。既に父親と離婚をして離れていた母親が快晴を引き取った。


 この事件は後に、当時からニュースで何度も報道されていた横浜駅連続殺人事件と深く関係しているとされ、捜査上は快晴の父親殺人事件も横浜駅連続殺人事件の一件として扱われる。


 当時小学生だった快晴。物心がつく前から母親と離れており、父親には母親は事故で死んだと聞かされていた為、突然やってきた数年ぶりの再会に戸惑っている。


 母親が生きていた喜びと父親を失った悲しみが入り混じって心境は複雑で、今にも切れそうな糸で幾つも結んだ重たい心臓を無理矢理抱えているような状況。いや、やはり悲しみが圧倒して今にも泣き崩れてしまいそう。


 母に引き取られ、これから一緒に暮らす事になるが、その当時母親は快晴の知らない男と既に同居していた。母親と同居人の関係は〝恋人〟だ。


 複雑な気持ちを更に複雑にさせる真実。物心がつく前から会う事なく死んだと思っていた母親に向けて、実子とはいえ直ぐに甘えられるものでもない。釈はこの同居人はダレなのと、母親に聞く事が出来なかった。


 快晴の母親と恋人として同居していた男の名は〝しゃく未来ひでき〟この同居人が後に実母と結婚し、快晴の父親となって快晴と母の一家は釈の苗字を貰い受ける。


 母親に引き取られた初日の晩。子供一人には当然抱えきれるものではない、あまりにも残酷な経験を数日味わってようやく落ち着いてきた夜。


 母親に甘えたい。いや、とにかく今まで母親が何をしていたのか聞きたい筈の快晴。しかしどういう訳か、母親に用意された子供部屋で母親に構う事なくダレかと遊んでいる。


「良いか〝優ちゃん〟〝ドメちゃん〟よく聞け。俺たちはこれからこの街を悪の手から正義を守る為に戦う最強銀河戦隊〝ヒーローバスターズ〟を結成する。優ちゃんはブルーで、ドメちゃんはグリーンな」


 子供部屋で快晴と遊んでいるのは、先程紹介した母親の同居人である釈未来の娘〝しゃく優香ゆうか〟快晴がドメちゃんと呼ぶものは、優香が一番大事にしているぞうさんのぬいぐるみで人物ではない。


「じゃあかいせいくんはレット?」


「俺がヒーローバスターズのリーダーのレッドだ。俺がルールを考えるから、一緒に悪の怪物達を滅ぼそうぜブルー」


「ブルー男の子みたいでやだーゆうピンクが良いー!」


「ピンクは最強ヒーローバスターズにはいねぇ色なんだよ。いるのはレッド、ブルー、グリーン、イエロー、ブラックの5人な。イエローなら代わっても良いぜ」


「イエローやだーゆうピンクが良いー!」


「ピンクとかふざけんなよ。何であんな女の子みたいな色入れなきゃいけないんだよ。俺たちは超ミラクル最強ヒーローバスターズになるんだぜ?」


「だってゆう女の子だもん。ゆうピンクやりたい」


 釈未来が快晴の母親と結婚する事になるので、友達として遊んでいるこの優香が後に快晴の妹になる。兄妹が初めて出会って初めて遊んだ戦隊ごっこは、色決めから全く噛み合わずに喧嘩へと発展して幕を閉じる。当時を振り返る二人にとって、この時の喧嘩は印象に残る良き思い出の一つなのだ。


 父親を失った快晴の心の傷が全て癒える日がくるかは分からない。それでも、数年ぶりの再会を果たした母親と遊び相手の優香と過ごす事により、快晴は比較的早い段階で笑顔を取り戻していた。


 いつしか同居人の未来も交えた家族4人で過ごす時間や家の空間は、快晴にとっても家族にとってもかけがえないものへと変わっていく。


 大事な人を失った悲しみを、幼い頃から嫌という程味わった快晴にとって、新たに見つけた大事な人達への本気で大切に思う守りたい気持ちは、悲しみから喜びを数倍跳ねてみせ、家族の強い絆に深みを加速させるコーヒーでいうミルクのような役割を果たす。


 4人が一緒に住むようになってから2年が経った家族生活の光景を第三者が見てはっきり言える事は、彼らはあの時間違いなく本物の家族として共に喜びを分かち合い、悲しみを一緒に背負い、家の敷地内には万遍ない幸せな空間で完成されていた。


 それでもそれを保つだけの精神力と、個々のモラルが足りなかったのか、父親と関わる大人達が家族に接触する機会が増えていく6年前。数十年守ってきた家族の幸せな空間が、ここにきてじわりじわりと周りの環境を変化させていく。


 時を進めて4、5年前位から父親の未来の様子がおかしくなっていくのが分かる。それでも実態が分からないまま快晴にとって、まるで現実とは違った悪夢を見ている。そんな気がしてならない第2の殺人事件が起きてしまう。


 4、5年前当時の快晴には知り得なかった情報もあるが、本編で語られていたのは、釈未来が三代目ドン釈に選ばれ、首領当時に右釈と呼ばれる右腕の仲間に殺され、殺害から2年後の1年前に有馬駅西門の地下水路で頭蓋骨の欠片が発見されている。


 頭蓋骨が発見された1ヵ月後。電話越しで妹と話している当時の快晴。


「優香。有馬駅西門の地下水路で発見されたオヤジの頭蓋骨なんだが……妙な事に俺の実の父が殺された現場と同じ場所で発見された」


「そんな……」


「ふざけた話だよな。これが偶然だとは、何をどうひっくり返しても考えられないんだが。お前はどう思う。どうして父はあの場所で殺されなければならなかった」


「私には分からない。ただ一つ言える事は、私達のお父さんを殺した人物は私達が怒り狂うのを待っているのか、意識的に挑発をしてきたわ」


「そういう事だ。犯人は、目の前で父を失った俺のトラウマを思い返そうとあの場所にオヤジの頭蓋骨を残してきた。それは釈家に対する恨みからか、俺の実親に対する恨みから復習してきたのか、あるいは……親族とは無関係に、ただただ俺個人に対して強い恨みがあったのか。この3つしか考えられねぇ」


「どうしよう。私、えっとお兄ちゃん」


「全てはあのドン釈が実行した殺人の線を洗えば分かる事だ。オヤジは組織を抜けようとした為に連中から命を狙われていたんだ。間違いない。奴らが殺した」


「どうするつもり?」


「ヒーローバスターズを結成しよう」


「ヒーロー、え?」


「俺とお前で。当時の思い出を振り返れば、其処には母さんやお前の笑顔の他、オヤジの優しさを含めて初めて俺たちの思い出の画が完成されている。それをここにきて全て打ち壊してみせた犯人と、それを取り巻く組織をどんな手を使っても滅ぼす。俺達の手で正義ぶった生臭い復習を果たすんだよンフフフ」


「復習かぁ。ぶっちゃけ全然アリだね……てお兄ちゃんこんな時に何で笑っていられるのよ」


「おい、今更何を。知った事を聞くな。俺は実の父を目の前で失って……」


「あの時、もう二度と涙なんか出るかっていう位に大泣きしたのよね。ごめんごめん分かってるわ。今は。どんなに辛い事があっても笑ってみせる快晴のポリシー、好きだよ」


「さっそく明日から俺の家に連日泊まり込みをするつもりで来い。今後の作戦を話し合おう。そっちで頼れる奴を用意出来るのなら好きなだけ連れて来い。時間は後で連絡する」


 お兄ちゃん、完全に頭にきてるわね。お兄ちゃんがやると決めた事は、恐ろしい程ダレに何を言われようが絶対に実行してみせる信頼がある。どんな手であろうと、お兄ちゃんは目的の為なら手段を選ばない。それがお兄ちゃんの強みであるけれど、それと同時に欠点とも言えるかな。そんなお兄ちゃんが暴走した時こそ私の出番になりそうね。


 釈未来の頭蓋骨が発見されてから半年後の釈。博打組の幹部に選ばれ、大勢の殺し屋を部下にもつ釈。時には妙な動きを見せる部下の首を自らの手で絞め、ドン釈の妙な動きに探りをかけ揺さぶり拷問する。


「教えろ。奴がやろうとしている実験とは何だ。奴は、最終的に何を成し得ようとしている」


「じらなび(知らない)、でぶぉばなぜ(手を離せ)」


「だったら今此処でお前を殺すまでだ」


 当然、ドン釈本人に自分の不審な動きを勘ぐられたら計画も何も即おしまいだ。一度でも拷問した部下には、内通阻止の為にその日の内に必ず殺すと決めている。そうして組織の情報を集め、ドン釈に少しずつ近づいていく非道な道を選んだ快晴。


「首領の座る椅子には、俺達家族を裂いた殺人犯の腰を今も温めている。許す筈がない。直ちに全てを打ち壊してやろうンフフフ」


チェックポイントⅦは以上になります。


この時点でLockされていた未公開アクションページが開放されます(正式な公開日は、このお話を投稿した日の数日後になります)


↓Lock解除対象話↓

エピソードⅣ9部の第三十七話『冷凍人間3/3』

サイドストーリーⅥ51部の本編外『2人目』


次回は、最終戦に向けて幕を閉じた脱出編のエピローグと、続編になる全40話完結予定〝独裁編〟の本ページと情報を公開致します。


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