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コロシタノダレ ~黒幕の脅威と地下学園脱出~  作者: まつだんご
―エピソードⅦ― 「救世主と首領崩し」
65/70

第七十話 『 首領崩しに向けて 』 3/3


 3/3 ゲーム7日目・午前1時41分


 ※おさらい

 ゲームオーバーになる条件

 ・30日経っても脱出出来なかった場合

 ・枠ミッションに失敗した場合

 ・脱出ルート内で死亡した場合

 ・禁止されている就寝時間の外出等、ルール違反した場合


 フレームデッドゲームのルール

 ・参加プレイヤーは計30名

 ・期間は1日16時間の計30日間

 ・就寝時間は22時~6時(就寝時間の間は個室待機・出入禁止)

 ・プレイヤーにはそれぞれ枠ミッションが与えられる

 ・脱出方法は脱出ルートを抜けるか枠ミッションをクリアする、もしくは黒幕ドン釈の正体を暴く

 ・30日経っても此処から脱出出来ない場合は、ゲームオーバーという事で永久監禁とする

 ・プレイヤーの中に黒幕サイドの人間と最終黒幕〝ドン釈〟が紛れている

 ・今後追加ルールは有り


 エスケープルート内は就寝時間外出禁止令の対象外エリアとされている。よって、熊田サイドはゲームオーバーの判定が出ない。対する夏男サイドは、就寝時間外出禁止令の対象内エリアに居る為、この時間はマイルームで待機しているしかない。


 右肩の負傷に加え、殺人ゲームに散々振り回されてきた夏男の疲労はピークに達していた。そのせいか睡眠中では酷く魘され、自身の叫ぶ声に何度も目を覚ましていた。


 上に着ている白のシャツが汗でビショ濡れ。荒い息を落ち着かせようと深呼吸。横になっているベッドから身体を起こして洗面所に向かう。


 鏡に映る自分の顔をマジマジと見て〝自分は既に正気を失っているのではないか〟と疑いを始める。


 夏男はこの実験現場に閉じ込められた数日の間に、この建物内と30人のプレイヤーに共通する1つのキーワードが完成されていた。それは真実だろうと認めざるを得ないと考えている。


 それは〝洗脳〟だ。


「俺達は記憶の一部を失っている。いや奪われたのか。でも一体ダレが何の目的で……」


 ダレが夏男らをこんな所に閉じ込めているのだろうか。ダレが殺人ゲームを主催しているのだろうか。実験は何の為に行われている。すみれの言っていたクライオニクスという人体実験組織の仕業か。


 そのダレとは〝ドン釈である〟と考えるべきであろうが、肝心なドン釈の正体がダレなのか分からない。黒幕サイドが明かしたドン釈の数少ない情報として、プレイヤーの中にドン釈が潜んでいると話していた。


 ドン釈の尻尾を追い掛けようとすればするほど頭がおかしくなっていく感覚。


「冷静に考えれば、ほとんどが分からない事だらけじゃないか。結局俺は連中に何を求められて此処にいる?」


 怒りを拳に込めて強く握り締めている。鏡に映る自分を睨み付けながら一言。


「〝お前は敵なのか〟」


 自分自身に問い掛けるようにして「お前は敵なのか」「自分は味方なのか」と呟く夏男。記憶の一部を抜き取られたのが事実として可能であるならば、抜き取られた箇所に自分以外の記憶を埋め込んで隙間を埋めているかもしれないと考える。


 よって、自分は本当の自分ではないのではないか。既に洗脳された状態でこのゲームに参加させられていたと考えた場合は何が見えてくる?


 何となく自分自身に何らかの答えが隠されている気がしてならない夏男は、自分自身さえも信用出来ないでいた。次の瞬間だ。


 鏡に映る自分自身を睨み付けている夏男の背後に何者かの気配を感じる。いや、鏡にハッキリ映っている。


 真っ白な布を頭に被せて〝ある場所を指さしている〟素顔の分からない人物。髪の長さからして女性のようだが、この人物何かがおかしい。


 ピクリとも動かない不気味な女がじっと一箇所を指さして立っている。いかにもこの世の者とは思えない雰囲気漂う布を被る女。鏡越しで見つけてしまった夏男は後ろを振り向けないでいる。


 しかしどうだろうか。何処かで見た事のある女の服装。


 女が指さす先には、夏男がダイニングルームから自室に帰る途中で路瓶孫から貰った〝探偵手帳〟だ。「捜査の役に立つか分からないが、これで良ければ使ってくれ」と言われ渡された手帳。


 次の瞬間。不気味な女の正体に気付いた夏男が慌てて振り返る。


「爾来也さんッ!」


 いない。振り向いたら鏡に映る布を被った女が消えていた。再び鏡を見ても女の姿は消えて何処にも見当たらない。


 爾来也が殺害された瞬間のトラウマがフラッシュバックした夏男。涙を流して床に倒れる。


 しかし直ぐに正気を戻した夏男。思い立って急いで女が指さしていた探偵手帳の中を見てみる。この中に何か隠されていると伝えに来てくれたのか?


 手帳の1ページ1ページを飛ばし飛ばしで一気読みする。手帳の前の方は、篠原姉妹が深く関係する〝有馬駅連続殺人事件〟についての捜査記録だった。


 有馬駅連続殺人事件。プレイヤー達は全員この事件に何らかの関わりがあり、実験を行う上でのプレイヤー人選の土台を目的とした洗脳事件だ。


 この手帳一冊には、路瓶孫の数日間が丸々把握出来るほど詳しく書かれた行動範囲と、捜査の成果が記されていた。


 篠原姉妹の足取りを辿っている間に〝未来〟という男の情報が詳しく書かれるようになった。此処に閉じ込められる前から篠原姉妹と路瓶孫が接触していた事は本人達から聞いている。


 しかし路瓶孫と未来が接触していたのは知らなかった。この中に未来の苗字が分かる手がかりがあるかもしれない。もしくは……


 探す手間もなく〝それ〟は直ぐに見つける事が出来た。


「え、こいつの本名……」


 4月11日

 有馬駅連続殺人事件の主犯格として〝神奈川留置場のSeatシートの間〟に留置されている未来の家宅捜査許可状を手にする警官と共に、未来本人の自宅捜査に踏み切った。まずは、未来の現住所に登録されている〝沖くるみコーポ301号室〟の取り外された苗字を記す表札を捜す。捜査開始から5分でそれは直ぐに見つかった。寝部屋の押入れに隠された表札には〝釈〟と書かれていた。


「釈未来……」


 捜査の途中で驚くべき事実が発覚した。報道者の誤認による誤報のせいだろうか。いいや本人がそのように名乗っていたせいで盲点を突かれてしまった。彼の名前は〝未来〟と書いて間違いないが読み方は〝みらい〟ではなかった。答えは全て、彼が小中学生の頃に作成された本人の卒業アルバムに載っている。彼の名前は〝釈未来〟と書いて〝しゃくひでき〟と読むようだ。


「しゃくひでき……」


 更に驚かされたのはその卒業アルバムに載っている彼の写真にあった。どこからどう見ても私の知っているあの未来とは離れた美貌。彼がブサイクと言っているのではない。事実、彼は世間で言われるイケメンに属する顔立ちをしているであろう。しかし答えとは少し違う。というのも卒業アルバムに写った彼はクラス写真も個人写真も〝女の子〟として写っているからだ。


「女の子!?」


 驚かされてばかりであるが、引き続き彼の身元捜査を続ける。


 少しページを飛ばして釈未来について書かれている捜査記録を辿ってみる。


 4月13日

 何が起きている。どうしてこうなった。何故彼の足取りが掴めないでいるのだ。私の知っている釈未来という人物がこの世に存在しない筈がない。それを認めてしまったら、私の知る彼は一体何者なんだという話に戻されてしまう。捜査記録を白紙に戻すのだけは簡便してくれ。彼が〝52歳〟の筈がない。しかも該当する釈未来の同一人物が2人も浮上してしまった。いよいよ意味が分からないでいる。私が追い掛けている未来と同一人物とは思えないが、今はとにかく〝釈未来の息子〟に会ってみるしかない。


「何だよこれ。誤捜査記録かよ、ん」


 4月14日

 釈快晴という人物に会ってきた。彼は……


「釈快晴!?」


 場面移動

―――――――――――――――――――――――

 エスケープルート【魔獣の巣・エリアK14】


 エリアK14廊下中に1発の銃声が鳴り響く。


 釈快晴が熊田から奪った拳銃の銃口から白い煙が出ている。横に倒れたまま静かに銃弾が放たれた先を見つめる熊田。立った状態で銃弾を放った拳銃を握り締めている釈。


 2人が見つめる先には、釈が放った銃弾が命中して胸から多量の出血をして倒れている未来だ。


「ぼ……くを……ころさ……ない……で……」


 数秒間震えて倒れていた未来。やがて意識を失い動かなくなっていく。


「良いか熊田。この事はアメダマの連中に教えるな。勿論お前の上部の連中にもだ。この事が奴に洩れれば俺もお前もただでは済まされない」


「分かっている」


「お前の行く末はくまぐるみに成り代わり、俺が責任を受け持って推し進めてやる。だから安心しろ。首領の首は俺が戴く」


「本当に信用して良いのか」


「これは信用の問題ではない。全てを捨てたお前はこれから苦渋の選択を迫られる事になるだろう」


 熊田の方へ振り返った釈が笑みを見せて更に一言。


「お前自身で決断する時が来たという話さンフフフ」


 場面移動

―――――――――――――――――――――――

 舞園まいぞのはじめのマイルーム


 プレイヤー全員に向けたメッセージを残す為、舞園が自室で手紙を書いている。その内容は……


 僕はこのままこの狂った殺し合いゲームを続ける気はない。僕は、僕が正しいと思うままに行動する事にした。少し時間を貰う事になりそうではあるけど、今のうちから君達に宣言をしておきたい事がある。僕は近いうちにドン釈本人と正面から闘うつもりだ。まだ奴の正体が分からない状況だけど、それでも昨日みたいに殺し合うよりは幾つかマシだろう。よって君達には〝最終裁判をかける〟と宣言させて貰う。


 場面移動

―――――――――――――――――――――――

 松本マツモト蕎麦子そばこのマイルーム


 部屋の中心には首吊りロープが天井からぶら下がっている。ロープの真下に椅子があり、その椅子に右足を置いているのは部屋に閉じ篭っていた松本蕎麦子。


「もうこんなの耐えられない。ダレかに殺されるくらいなら自分で死んだ方がマシ。お父さん、お母さん。最後まで迷惑ばかり掛けてごめんなさい。対人恐怖症になっても1人で強がってたけどさ、やっぱり根元は弱かったみたい」


 左足も椅子に乗っけてそのまま椅子の上に立ち上がる。天井に繋がった首吊りロープを首に通して深呼吸。


「でもダレも殺さなかったよ。私は、私なりの正義を貫いたよ。お父さん、お母さん。私を褒めて」


 命綱である足元の椅子を蹴り飛ばして首が吊られてしまう。その瞬間、松本の脳内から両親の声が聞こえてきた。


〝ダレも殺していないだと。嘘を言うな。お前は、お前自身という人間を殺したんだ!〟


 首が吊られるまでの一瞬の間だけ悲鳴が響いて止む。涙を流して倒れた椅子に手を伸ばそうとする。届く筈もなく首に巻かれたロープが静かに松本の生命力を蝕んでいく。


「い……や……まち……が……った……」


 場面移動

―――――――――――――――――――――――

 外の世界・東シナ海上


 アメダマネームである飴名で〝左釈〟と呼ばれる男が用意した船を使って東シナ海を日本列島に向かって突き進んでいる。


 行動を共にする舞園創の父親である舞園まいぞの敏弘としひろと、前回のフレームデッドゲームを脱出成功してみせた早乙女さおとめひかるは静かに次の指示を待つ。


 少し時間が過ぎて、舞園敏弘から口を開く。左釈がそれに答える。


「ゲームが始まってもう〝9日〟が経ちましたね。彼らは無事なのでしょうか」


「分からない。生放送は続いているようだが、こうして直接サイバーテロ組織に加勢されてしまえば確認の余地はない。もっとも、有馬に到着すれば全て確認出来る事なんだけどな」


 9日経過。


 場面移動

―――――――――――――――――――――――

 魔術街アセリコブタ・最上街道


 魔術街と呼ばれるアセリコブタ王国、その最上街に位置する一軒家の中にて。身長70cmの男と身長215cmの男のでこぼこ過ぎるコンビが実験の放送をノートパソコンで視聴している。


「ビッ君ビッ君。こいつはかなりマズイ事態になりそうだよ。被験者10番が〝凍障害を和らげる薬不足〟で細胞分裂の前兆が発生してるよ!」


「酷い発作に顔色も悪そうだねミニ君。薬の在り処は確かエスケープルートのブラックルームだったか。彼女1人で向かうにはあまりに険しい道のりだな」


「ダレか気付いてくれないと本当にこのまま死んじゃうよビッ君、あれ、ビッ君イケメン」


「何とかならないケメンとかないないないからからかわないでくれよビッ君!」


「嬉しいくせに~」


「嬉しくて何が悪い。耳とか舐めてほしいと思って何が悪いッ!」


「え……耳舐め? さすがにちょっと衝撃」


 相も変わらず仲が宜しいようで何より。いや、そんな事より篠原由香里の細胞分裂が始まろうとしているというのはどういう事だ。彼女は、クライオニクスの実験に参加した冷凍人間の被験者〝969-8E61〟であると過去に語られていた。


 場面移動

―――――――――――――――――――――――

 モレクの間レッドルーム


 ドン釈と直接闘おうと最終裁判の手続きを済ませる舞園創。受け取り口にはダレもいないようだ。当然だ。こんな窓口を担当していたら即プレイヤーにフルボッコだろう。夜時間に黒幕サイドが取りに来る手筈になっている。


「これで良い。後は〝こいつ〟をどうにかするだけだ」


 舞園創の横に居たのは最終裁判の手続きを阻止しようとする夏男だ。


「お前なに勝手な事やってんだよ。そんな事して俺達まで巻き込んで自殺願望でもあるのか」


「僕が狂っているとでも言いたいのかい」


「ああ狂ってるね。負けると分かっている試合に臨んで何が得られる。何を遂げられる。連中は手加減なんて言葉が理解出来るような相手じゃない。失敗したら殺されるかもしれないんだぞ?」


「おかしいね。まるで最終裁判を経験した事があるような、いや直接関係している詳しそうな物言いだ。このゲームのルール上では最終裁判に敗北したらゲームオーバーだなんて記述はなかった筈だろう」


「だから今みたいな情報が少ない状況で、無防備に突っ込む行動自体が命取りになるかもしれねぇって言ってんだよ。反逆者扱いされているプレイヤー達の生存すら確認出来てないのに、どうして今なんだよ。時期を待ちなさい!」


「僕たちに残された時間なんてない。こうしている間にいつ次の殺人事件が起きるか分かったものじゃないだろう。こんな所で共倒れする前に早めに手を打つ必要があるんだ。だって最初から僕達の敵はドン釈だってハッキリしているじゃないか。彼と闘わないで僕達は一体ダレと闘おうって言うのさ?」


「そんな事分かってんだよ。そうじゃなくて今じゃねーだろって言ってんだ」


「あーもう目障りだからハッキリ言わせて貰う。僕は君がドン釈なんじゃないかって疑って仕方がないんだよ」


「何だと!?」


 少し時間を進めて

―――――――――――――――――――――――

 〝王様の部屋〟ダレかのマイルーム


 室内の広さは他のプレイヤーと変わりない。用意されている物もさほど違いはなく、特別目立った物もない。ただ一点を除けば。


 室内の真ん中に置かれたテーブルの上には、無残に焼き殺されたダレかの死体が寝転がっている。その両脇に青い炎を灯したロウソクが1本ずつ立てられ、テーブル下に収納された黄金の椅子が目立って見える。


 黒く焼かれた死体の真っ黒な右手に白い紙、手紙だ。プレイヤーに向けたメッセージが残された手紙が握らされている。


 〝王様〟が残した手紙の内容とは……



 エピソードⅦは以上となります


 ※ドン釈を含めた重要人物全30人/生存者残り19人


 〝チェックポイント7〟へつづく


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