第七十話 『 首領崩しに向けて 』 2/3
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父親の事を思い出したのと同時に、釈の表情では中々見れない怒りに満ちた顔。眉間に血管を浮かべて悪い事を企んでいる笑みとは全く違った不気味な笑みを見せる。
釈の口から父親の正体を明かされた熊田が疑問を呟く。
「俺の記憶が正しければ、三代目ドン釈は〝釈未来〟という名の男。彼は、首領当時に右釈と呼ばれる右腕の仲間に殺され、殺害から2年後の1年前に有馬駅西門の地下水路で頭蓋骨の欠片が発見されたと聞いている」
「3年前。最も信頼を寄せる仲間に裏切られて殺害された父親は、強制的にドン釈の座を奪われ、余計な遺体は殺害した連中に消された。お前が言う三代目頭蓋骨の欠片は、詰めの甘かった犯人が残した抹消計画を辿る貴重な痕跡だ」
「お前が三代目の息子と。分からない。今すぐに俺を納得させるに十分な証拠は出せるか?」
「ん?」
「俺は、何よりも過去の時間を遡る作業が嫌いだ。悪に魂を売ろうと決意した時点で後ろを振り返る余地はない」
「お前が俺の話を信用しようがしなかろうが、それはもはやどうでも良い事だ」
クエッションマークを浮かべた熊田が、いつでも発砲出来る拳銃を構えたままじっと釈を見つめている。ここで釈が下手な動きを見せれば、熊田はまず引き金を引くだろう。
絶体絶命な状況の中で釈から話を続ける。
「話を戻そう。癒し系マスコットキャラみたいなゴミネーム下の組織にて、撒いた火種を誤魔化そうと必死に頑張る哀れな連中の哀れな操り人形として、ただいま絶賛大活躍中のお前が俺の背後から拳銃を向けて無様に現れた。バカの1つ覚えのように、今もこうして俺に拳銃を向けている状況だ。おかげで俺は一切の行動を封じられている」
釈のペースが始まった。回りくどく状況を説明し、じわじわと確信に近づいて最後は割り込む隙も与えず一気に攻め入るいつものやり方。熊田も釈のペースに乗っかってしまうのか。
「絶体絶命の俺は止むを得ず〝互いの利害が一致するからこの場は俺を見逃せ〟とお前に問うた。俺の問いに対してお前は、この場で両者利害の一致に置ける取引の意味をはき違え、言葉の意味と必要な物的証拠を求めてきた訳だ」
「…………」
「絶体絶命の俺は、面倒ではあるが説明を要すると判断し、父親の正体をお前に明かした。おかげで俺の、いや俺達家族の人生を滅茶苦茶にした三代目首領釈の無残な末路に触れるに至った」
話が進むにつれて、釈の眉間やこめかみから浮き出る血管が太くなっていっている。
「俺の父親こそが三代目首領釈であり、前の世代に右釈の席に座っていた人物が殺人犯であるのは間違いない。当然、組織のトップが消える事によって新たなトップ、つまりドン釈が決められる事になる。分かるな?」
拳銃を右手で握り締める熊田の右手握力が増す。その力で拳銃がメキメキいっている。
「結果はこうだ。三代目が死んだ事によって四代目の新たなドン釈、つまり現在のドン釈を選ぶ必要があり、結果として三代目首領の右腕として活躍していた右釈がそのまま位が上がって全てが決定した」
「…………」
「俺は驚いたぜ。まさかドン釈を殺した人間が計画的にも、自ら四代目に選ばれる手打ちを裏で済ませた上で三代目抹消計画を組み立てていたんだからな。一部の権力者の操作によって、三代目を強制退場させて四代目を選出していたんだもんなあ」
「その殺人犯がこのゲームを仕切るドン釈という訳か。言い換えればドン釈とはお前の父の仇でもある訳だな」
「右腕に信頼を寄せる人物に私欲事情で四の五の言わずに殺される気持ちってどんなものなんだろうな」
釈快晴の発言に寒気を感じた熊田は、目の先に立っている人物の見方がガラっと変わってしまう。
「じゃあお前は最初から……」
「ンフフフつ・ま・り・俺の実親であり、三代目ドン釈でもあった〝釈未来〟を殺した人物こそがこのゲームを裏で仕切る黒幕のドン釈となり、3年前の当時に右釈と呼ばれた人物と父親を殺害した殺人犯、そしてこのゲームの黒幕であるドン釈は全て同一人物という話だ」
一瞬で熊田の身体に触れる距離まで走って詰め入る釈。いつでも射殺出来る筈の熊田が引き金を引かない。どうした事か、熊田が射殺を拒んで震える手に引き金を引けないでいる。
一瞬の隙を見切った釈は、熊田の右手に持つ拳銃をかかと落としで床に蹴り落とす。拳銃を目で追う熊田の姿勢が前のめりになったところを足を引っ掛けて床に倒そうと釈が高度な足技を掛ける。
床に落下した拳銃がその反動で少しの間宙に吹き飛んでいる。反射的に手を伸ばした釈が拳銃をキャッチ。抵抗する間もなく熊田の頭部に押し当て射殺用意が完了する。
「お前にこの怒りが分かるか、ん? 自分の手を罪なき人の血に染めてまで、右釈と呼ばれる殺人犯の右腕の座に成り下がろうと決意をした俺の復讐心に満ちたこの気持ちが。父親が無残に殺害され、その犯人が俺達家族にとって最も身近な人物だったらお前はまず何を思う。ん? 何を成すべきだと考える。復習の為に殺人を幾度と繰り返したあの1ヶ月間。全てを犠牲に復習を果たすに至った俺の怒り哀しむ気持ちと、家族の為に我が身を死せる覚悟が。お前には分かるか、ん!?」
熊田が背中から床に倒れて拳銃を持つ釈が倒れる熊田の腹部に乗っかった。
「お前は、父親の仇であるドン釈に復讐をする為だけに自ら殺人を繰り返してドン釈の信用を得たのか。家族を思う純粋さが逆立てした復讐心がお前を右釈に変えたのか……」
「俺の父親は最も信頼すべき右腕の人物に抵抗する間もなく殺害された。父親が最期に味わった恐怖を全く同じ立場で、同じ酷を味わって貰おうと思ってなンフフフ。ドン釈は正体こそ明かしはしないが俺に信頼を寄せている。現に俺は正式な右釈に選ばれている」
「…………」
「命乞いの為にここまで話したんだ。ついでに俺の目的を教えてやろう」
抵抗する意思がない熊田の身体に乗っている釈快晴が、力を抜いてから白い歯を見せて微笑みを戻す。
「目的。言ってみろ」
「プレイヤーとしてこのゲームに参加する俺の最終目的は、この実験を滅茶苦茶に破壊し、終いには最も信頼を寄せる俺自らの手でドン釈を遺体も残さず抹消する事だ」
「なに……」
「こうしている間にも実験に残された時間が削れて零れ落ちている。その最後の一滴を目途に、俺が奴に死刑の判決を下す〝死の宣告者〟へと変わる日がやってくるンフフフッ!」
父親が殺された方法と同じ手段を利用しようと計画していた釈快晴。釈が犯した数々の不気味な動きの背景には、命を捨ててでも守りたい、又は無念を晴らしたい釈ファミリーの存在が隠されていた。
釈快晴はこのゲームを滅茶苦茶にして黒幕を抹消すると言っていた。その最終抹消対象は、フレームデッドゲーム内にて最も親しいと予想されていた今作の最終黒幕、殺人ゲームの王様ドン釈だった。
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