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コロシタノダレ ~黒幕の脅威と地下学園脱出~  作者: まつだんご
―エピソードⅣ― 「裁判枠と冷凍人間」
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第三十六話 『 キラーの挑発 』

 ゲームの切札枠ジョーカーに選ばれた男


 ゲーム開始前日の夜。それぞれのプレイヤーに与えられた、枠ミッションと呼ばれる脱出する必要条件を分配した夜。主人公である神崎夏男の枠は、何と他プレイヤー全枠のキーパーソンに成り得る〝切札枠〟に決まり、そのミッション内容は他のプレイヤーの全てのミッション内容を把握し、状況に応じて敵も味方も作る事が出来るただ一人の万能枠だった。


 ゲームの流れや進行等にある程度の予測がついた夏男は、一刻も早くプレイヤー達を説得させ、このゲームの恐ろしさを伝えようと大広間に戻るが時既に遅し。ゲームマスターであるチュリぞうの思惑によって各自個室に押し込まれてしまう。大広間に一人残った夏男と、大広間の隅に隠れて切札に選ばれた夏男の動き方を観察しているチュリぞうが姿を現す。


 以下、神崎夏男とチュリぞうの会話。


「お前達は何がしたいんだ」


『は?』


「俺らをこんな所に閉じ込めて、訳の分からないミッションを与えて、ふたを開けてみると脱出ゲームでも何でもない、ただのコロシアイゲームじゃないか」


『いやぁチュリ達がオ前ラにさせたい事はあくまで脱出ゲームだよ。でもさ?――ただ馬鹿みたいに入り口を探していたって退屈じゃない?――30日間も期間があるんだし、どうせなら命の一つや二つ、捨てる覚悟で挑んで貰った方が張り合いがあるじゃないか。それに……別に枠ミッションを実行しろと強制した覚えはないよ」


「言ってる事が矛盾してるな。こいつは脱出する上で必要不可欠な条件になる訳だろう。その内容が人を殺して2日バレなきゃ良いだなんて、そんなルールを作った以上、コロシアイを強制させられているとしか思えないのだが。こんな事をしたら、間違いなく殺人が起きる。必ずだ」


『かもねー。でもそれを止める方法はいくらでもあるんじゃないかなー。例えば君みたいな切札枠が全員を説得させるとか』


「簡単に言ってくれるじゃないか」


『…………』


「良いかお前ら。もしこのゲームで殺人事件なんて起こってみろ。俺は……俺はお前らを絶対に許さない」


 チュリぞうを睨み付ける夏男の目は、殺意にも似た狂気を感じさせる。


「俺が殺人を犯してしまうとしたらお前の首だ。覚えておくんだな」


『おー恐い怖い。そんな目で睨まれて殺人予告とか。今夜、オ前の夢とか出てきたらどうするんだよ!』


「ふざけるなよクズ野郎。どんな恐怖を植え付けられようが、どんな絶望を味わされようが俺は諦めない。どんな圧力をかけられようと屈しない。ただお前らを追い詰める。……こんな事が許されると思うなよ」


『……どうする気?』


「みんなを説得する」


『オ前に出来るのかな?』


「出来なきゃお前を殺すまでだ」


 溢れんばかりの殺意を小出しする夏男の目には、正義感とは違った悲しい目。これから起こるであろう未来を予知したようで、絶望的なそれと復讐に満ちた心を映し出すよう。期待の名探偵、神埼夏男は一人、ゲームマスターに従うつもりはないと言い捨て大広間を後にする。


 後の決戦に向けた伏線が広がる。切札枠の(ジョーカー)神崎夏男とGMゲームマスターチュリぞうの闘いが始まろうと……している……が?――が、このタイミングで〝ある人物〟が『ボクも混ぜてくれ』と言わんばかりの行動をとる。夏男の前に立ち塞がる。


「ボクはコロすよ」

「!!」


 夏男が大広間を後にする際にすれ違うピエロメイクの人物。その正体は「スマートリー」という通り名でこのゲームを操るもう一人の黒幕。彼が黒幕枠を引いたのか、元々黒幕と繋がりがあったのか。前部作の試験編から導き出せる答えは後者である。さっそくこのゲームを面白がるスマートリーが割って入って来る。


「ほう、あんたも黒幕サイドの人間か」


「さぁ、どうだろうね」


「プレイヤーなのか」


「一応こういう物は持ってるよ」


 スマートリーに見せられたのはペル電子手帳。その画面を夏男に見せる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 重要人物 路瓶ロビン 亮介リョウスケ(15)

 男性 身長173cm 体重60kg

 前作部【試験編】で神田病院に意識不明で入院していた

 【スマートリー】という通り名で正体を隠す

 ピエロメイクに赤髪アフロヘアー、カラフルな上下服

 3人目の被験者(初登場)

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「路瓶亮介?――お前が?」


「スマートリーもキミタチプレイヤーと〝オナじタチバ〟ってコト」


「…………」

 どういうつもりか知らないが、こいつは他人のペル電子手帳を持っている。ああ、間違いない。このスマートリーとかいうピエロメイクは〝女〟だ。理由は幾つも挙げられる。本人の生声にそのしぐさ。何と言っても奴の手を見てみれば一目瞭然とても男だとは信じられない。赤いマニキュアをしていて爪が長い。それから細身の体格をしている割には、手の甲に見える筈の血管が細くてよく見えない。


「ダマりコんでボクをカンサツかい?――タンテイでもキドってんのかな?」


「…………」

 それにこいつはこちらの方角から歩いてきた。俺の記憶が正しければ、ネームプレートの数と配置を調べている途中見つけた路瓶亮介のネームプレートが貼られた部屋は、こいつが歩いてきた方向とは反対方向になる。後で再度調べてみるが、こいつは間違いなくただの成り済ましだ。ピエロメイクをしてまで自身の正体を隠して、あえて黒幕サイドの匂いを漂わせておくこいつの本当の目的は……


「そんなにスマートリーのコトがキになるのなら、セキガイセンでコジンジョウホウをコウカンしようよ」


「赤外線?――ああ、ペル電子手帳か」


 ポケットからペルと取り出す夏男。路瓶亮介と名乗るピエロと個人情報を交換した(情報交換2人目)。夏男の所持するペル電子手帳のプレイヤー名簿4人目の覧に路瓶亮介の細かい情報が載せられる。


「ふーん、おマエタンテイになりたいんだ?」


「既に幾つか事件の依頼がきている。俺がなりたいのはただの探偵じゃない。日本一の名探偵だ」


「ふーん」


「何だよ?」


「おマエってショウジキなんだな。こんなジョウキョウだというのに、カンタンにタンテイだとイってしまうカンじ。キキカンがタりないんじゃないかなー」


「どういう意味だ」


「これからダレかをコロすつもりなら、まずはキミのメをアザムくヒツヨウがあるんだね。ていうコトはいっそキミをコロしちゃったホウがコウリツがイいのではないかなー」


「…………」

 ふ、脅しているつもりかマヌケめ。それよりも……どういう訳か、此処に閉じ込められているプレイヤーの関係は必ずしも〝初対面〟ではないようだ。こいつが路瓶亮介なのかどうかは怪しいところだが、路瓶という苗字はもう一人存在する。ネームプレートの数を数える際に覚えた彼らの名前。思わず本人達から聞いてしまおうか迷ってしまったんだが、色々と分からない事だらけだったために安易な行動だと判断してやめたんだったな。だが、こいつが路瓶という苗字を持つなら話は簡単だ。プレイヤーの中に居るであろう路瓶孫から情報を引き出せば良い。


「あんまりメダつようならボクもヨウシャしないからそのつもりでいてね。キミがこのゲームのキリフダになる〝ジョーカー〟であるならば、ボクはこのゲームをクルわせる〝キラー〟にでもなってみせるよ」


「!!」


「おタガいベストをツくそう。イーッヒッヒッヒッヒッヒッヒ……」


 君の正体は知っているよと言わんばかりの捨て台詞。夏男が切札枠と気付かれるボロでも出していたのか。高笑いをしながら自室へ引き返す路瓶亮介。


「…………」

 特に印象の強い同姓、もしくは同名は〝路瓶〟〝未来〟〝篠原〟後は……もう1、2組居たような気がしたが覚えていない。そしてこの未来枠と呼ばれる占いの能力を持った枠ミッション。それを受け取る権利を初めから持っていた〝未来〟の2人。以上の事から、名前や苗字が一致する2人の関係性等は、今後のゲームを進行していく上で重要になってくる〝キーワード〟もしくは〝ヒント〟になっているのかもしれない。黒幕サイドが俺達をこのゲームのプレイヤーに選んだ動機や思惑にも繋がるのかもしれない。この件も視野に入れながら、さっさと人集めを行いたいのだが……


 ※前作にて一部ネタバレされた同姓同名の関係性は以下の4件。

 兄弟確定1件・親子確定1件・親子疑惑1件・兄弟疑惑1件


 自分の枠ミッションがバレたのにも関わらず冷静に推理を進める夏男。そもそも彼は、ただ一人の切札枠として、自分の枠ミッションをプレイヤー全員に公開しようとしている。


 ピー……

 校内放送。


『お知らせするぞオ前ラ。一度しか言わないからよーーく聞いておくように★』


 夏男が行動を起こそうとしたタイミングで、とっさに思い付いたようなお知らせを校内放送するチュリぞう。


『これより枠ミッションの書かれたくじの回収に取り掛かる。校内放送を切ってからジャスト3分後に個室の全ての鍵をロックする。オ前ラは自室で待機をしているんだ。鍵が閉まると外には出れなくなるんでそのつもりで宜しく。自室で待機してさえいれば後は特に縛られる行動はないのだけれど、このボクが夜中にオ前ラの部屋を一人ずつ訪れるから、すぐに枠ミッションの書かれたくじを渡せる準備をしておいてくれ』


「ま、待てよオイ!」


 校内放送を止めようと急いで大広間へ引き返す夏男。しかし既にチュリぞうの姿は見当たらない。


「あのヤロー!」

 今からでも遅くない。早くみんなで協力して枠ミッションの書かれたくじを公開し合うんだ。くじに書かれた内容さえ確認出来れば、全てのプレイヤーが嘘を付けない。殺人枠の連中は拒否するかもしれないが、消去法で推理していけば何て事はない!


 プレイヤー達が待機している個室が並ぶ廊下に入る。大広間に一番近い部屋に貼られたネームプレートには『赤西堅也』と書かれていた。


「赤西さん、赤西さん!――聞こえますか、聞こえますか赤西さん!」

 ん……この扉!――分厚い壁に厳重な防音システム。ドアポストの投函口が見当たらない。


 自分の声が赤西に届いていない事に気付き、慌ててドアノブに手を掛けたその時!


 パアアアアン!

 銃声。


「お、おい……そんなぁがぁ……」


 何者かが引き金を引いたその銃弾が、夏男の右肩に直撃。その場で倒れてしまう。


 銃声の響いた方を見てみると、先程菊池昭造の死体を車椅子で運び込む際に現れた〝ルーレット〟と呼ばれるこのゲームの監視者だ。拳銃をこちらに向けて立っていた。そして一言。


「ゲームはまだ始まっていない。これよりプレイヤーとの接触を禁止する」


 苦しそうな表情を浮かべ、右肩の出血を左手で押さえる夏男。そして目を閉じる。その時間経過は約5秒。


「そういう事は……先に言って欲しかったな……ゲーム開始前に……プレイヤーと接触してはいけないなんて……お前等が楽しみにしていたジョーカー枠の動きが面白くないのだろう……あ、後付したような勝手なルールで人の肩撃ってんじゃねーよ!!」


「さっさと自室へ行け、さもなくば」


「俺がお前らの言う事を聞くと思ってるのか?」

 14……13……12……まだ間に合う。


「あの世で後悔しろ」


「待て、撃たないでくれ!」

 11……10……9……8……


 辺りを見回す夏男。


「まだ確認が終わっていない」

 何かの確認が終わっていないと言い、赤西の部屋の入り口ドア下を覗く。


「隙間は……ない」

 7……6……5……


 急いで起き上がって全速で自室へ向かう!

 4……3……2……


 自身の記憶を辿りながら自室へ一直線。廊下を右に曲がってネームプレートを確認する余裕すらなくドアノブに手を掛ける。ゼロカウントギリギリのところでダレカの部屋入り口ドアが口を開く。カウントが終わろうとしたところで部屋に入室した夏男は急いで入り口のドアを閉める。しかし、個室へ入室した夏男の目に映る物は、見覚えのない女性の靴が丁寧に置かれた玄関だった……


 部屋を間違えた!?


 ※後書き・ヒント


 ピエロメイク〝スマートリー〟の台詞には特徴があります。


 成り済ましの得意な人物になりますが、同じ特徴の人物が後に現れたら、彼女で間違いないでしょう。


 ちなみにチュリぞう登場シーンより、チュリぞうの台詞で表現された特徴とは法則が異なります。

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