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コロシタノダレ ~黒幕の脅威と地下学園脱出~  作者: まつだんご
―エピソードⅥ― 「島村姫と罰シマス」
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第六十一話 『 島村姫 』


 一方その頃……


 場面は春子の部屋・特等席へ移る。時刻は米山&爾来也の公開処刑〝バツシマス〟終了から10分後の午後7時10分。


 辺り一面に崩れた天井や穴の開いた床のコンクリートで埋め尽くされている。焼失面積が大きく被害が甚大な大火が所々で広がる。


 特等席へと繋がる廊下に煙がもうもうとしている。山本カルロスと釈快晴と〝スロット〟3名の衝突によってこの辺り一面の崩壊が巻き起こった訳だが、滅茶苦茶になって火事まで起こして一体此処でどんな闘いをしていたのだろうか。


 特等席へと繋がる長い廊下の天井から悲鳴が聞こえてきてから大きな穴が開く。開いた天井の穴から身体中血だらけになっていた山本カルロスが落ちてくる。


 勢い余って床に落ちた山本は〝右肩〟を押さえて廊下の右側へと転がる。床に倒れた山本の出血は酷く、息を切らして何度も咳をしている。


 山本を追うように穴の開いた天井から1人の男が降りて来た。その男の名は〝シャク勇気ユウキ〟博打組幹部のスロットだ。彼の片手にはバメガンテに似た杖を持っている。彼が元々所持していた拳銃はどこにも見当たらない。


 よく見ると山本カルロスの右腕がない。切断されて筋肉が飛び出て出血している。何らかの武器でスロット達に切り裂かれたのか?


 ボロボロになった身体で尚起き上がろうとする山本に対して詰め入るように接近するスロット。山本が完全に立ち上がる前にバメガンテに似た杖を向ける。


 杖から空気砲に似た衝撃波を放出して山本にぶつける。その威力は凄まじいもので、山本の身体を百メートル以上先まで吹き飛ばす程であった。


 吹き飛んでいる最中に転がる自分の身体を止めようと、タイミングを計って切断されていない左手をピンと伸ばすが片腕の力だけで止められるものではなかった。


 廊下の壁にぶつかって床に倒れ込む山本の口から血が流れる。壁に衝突した勢いで一瞬意識を失いそうになったが、右腕の切断部分に生じる想像を絶する痛みが直ぐに襲ってきて苦しむ。

 

「おっさんや。そんなに無茶しないで良い加減楽になろうぜ。あんたの身体もそれを望んでる」


 スロットが楽になろうと言って山本に1歩1歩近づく。山本の表情を見るに、これはかなり厳しい状況のよう。


「まぁ一応あんたも実験に必要な被験者の1人である訳だが、しかるべき対応を取らなければ前回の失敗を繰り返す事態にもなり兼ねない」


 余裕の表情で話を続けるスロット。


 すると今度は廊下の奥からもう1人の足音が聞こえてくる。スロットが歩いて来る方向とは別の廊下の奥から山本を挟むようにして現れたのは笑みを浮かべた釈快晴。彼の右手に持っている物は小型通信機。


「ディーラー様。そろそろとどめを刺しても宜しいでしょうか。このおっさんにこれ以上拷問したところで時間の無駄です。死ぬまで命乞いを覚えないプライドだけの馬鹿な部類の人間でしょう」


「ん。そうか、時間の無駄か」


「はい」


「しかしどうだいスロットよ。ん。俺はお前に何の合図も送っていない。この数分間の出来事を思い出せ。俺はお前に何の合図も送っていないんだ」


「すみません」


「黙って続けろ。無意味であるかどうかは俺が判断する事だ」


 身体中付けられた無数の傷から出血している上に右腕を切断され、2人の敵に囲まれた絶対絶命の状況にも関わらず、左手を使って立ち上がろうとする山本の目は、まるで理性を失った猛獣のよう。釈快晴を睨んでいる。


 釈に言われた通りに拷問を続けるスロット。


「そういう訳だから俺はあんたを殺す事が出来ない。さぁ答えろ。あんたはどうしてバメガンテの杖で〝上位魔法〟が扱える。本来バメガンテを使って使用出来る攻撃魔法は〝火の玉〟のみの筈。それなのにあんたは地響きを起こしたり風をあんたの意識で動かしたり、大量の水まで生み出す事が出来た」


 スロットが答えろと何度命令しても聞く耳を持たない山本と、それをあまり見せない無の表情で観察している釈。このままでは山本が本当に殺されてしまう。


「レベルという国では密かに〝黒魔法サイサン〟を研究していると聞いている。その応用は、首領ドンの配下で行われている連携魔法開発グループ〝PPP〟の連中を超えた魔法の知識と長年の研究が必要とされる」


 魔法なんてものは本来常人の使用が不可能とされ、神秘的で超常的な力または行為、実現、非常識な能力である。現実的に考えればこの世に魔法なんて存在しないと考えるのが普通である。


 しかし2人の会話の中で何度も出てきた〝攻撃魔法〟道具を使うとは言え、実際に山本が魔法を使えたのも事実。そんな非常識な環境の中でもまた異質な上位魔法を見せ付けられた黒幕サイドの拷問は続く。


 バメガンテの杖とは、ドン釈の配下に存在する〝PPP〟と呼ばれる連携魔法開発グループが長年魔石の研究していた成果で生まれた魔力を秘めたアイテムの1つである。


 しかし、その効果は小さな火の玉を生み出す能力しか引き出せない物。数年前に世界で魔力を秘めた石〝魔石〟が発見され、石の一部を摂取していたPPPが研究を重ねて放出する術を完成させたその杖こそがバメガンテの杖。それを盗み持った山本が想像以上の力を発揮したという。


 予想以上の魔法の使いこなしに黒幕サイドは対応出来ず、彼を簡単に脱出ルートから抜けさせてしまう。訳あって引き返した山本を「次は絶対に逃がさない」と決心し、徹底的に彼の正体を調べた釈。


 山本カルロスの出身地はレベル王国と呼ばれる世界唯一の〝魔国〟として有名な魔術を扱う王国。魔国の王宮を守る役目を果たしているのがレベル王国軍。その軍隊長こそが山本カルロスであり、こちらサイドから山本を捕らえようと釈が動き出そうとした時に彼の方から先に接触して来た。


 山本の狙いは現レベル王妃の〝春子姫〟と呼ばれる人物を救出する事。そのためには今行われている

モレクの裁きを止める必要があるみたいだ。しかしこの状況を見るに山本が返り討ちに遭って絶体絶命の大ピンチになってしまう。


 少しの間黙っていた釈が静かに口を開く。


「魔法。それは人が人として維持する為に不必要とされてきたユダヤの教え。一定以上の力を持つ者は〝力が大きければ大きい程にそれを恐れて受け入れない〟ものだ」


 身体を震わせながら倒れている山本カルロスの表情が更に険しくなる。


「その逆も然りでぇあんたは何を考えている」


「成功者は結果から発想する。現実あんたは魔法を扱えて俺には一切の魔法が扱えない。それはレベル王国が魔術という未知さに掛けた時間と労力と信教普及の結果であろう。しかしこうも考えられる。結果なんてものは一時的な現実に過ぎないと」


「今ある現実を変えてしまえば、結果を覆した未来さえも存在し得るとでも申すおつもりですかい」


「俺の手を使って沢山の血を流させるつもりはない。あそこを見ろ軍人。1、2、3台の小型カメラが見えるだろう。あのカメラを通じて俺達を監視するアメダマならそれが可能だ。連中が束になって物事を考えていけば、現実なんてものは一時的なお約束として維持された対洗脳、情報操作分野へと放り投げるに容易い」


「聞き捨てなりませんな……あんたはレベル王国を滅ぼすつもりで、はぁはぁ」


「島村は今日此処で退場して貰う。それと同時に彼女の正体を晒して〝耶麻やま大国たいこく〟を王宮に向かわせる。そうだな、3日もあればレベル王国を消し飛ばせるに十分な時間だろう」


 中指、人差し指、薬指の3本指を立てて3日で山本の祖国を消し飛ばすと断言してみせる釈。その発言を聞いた山本は、右肩の痛みと釈への憎しみと怒りと祖国が狙われている焦りがそれぞれ入り混じり合って暴れている。


「向こうでは〝ジョーカー〟が次の手を打つ。裁きが続く限り全てが思い通りに事進む」


「死者を弄ぶのも大概にせい。彼らが春子姫に投票するとは限らぬわ」


 釈の思惑通りにはいかないと言う山本の発言に対して、お決まりの高笑いを聞かせてからそれを否定する釈。

 

「いいや。あいつらは必ず〝島村シマムラ佳奈かな〟を処刑する」


 島村佳奈を処刑? 春子姫に投票?


 島村佳奈と言えば、30人のプレイヤーの中で唯一未登場の被験者。所々の会話の中に出てくる島村佳奈という名前の女プレイヤー、その詳細は不明。しかしどういう訳か、夏男らが現在行っているモレクの次の裁判では、決まって島村佳奈を処刑人に選ぶと言い切る釈。


 次の裁判は亀谷妙子殺人事件だ。


 高笑いしていた釈の笑みが変化していく。冷酷さが見え隠れした不気味な笑顔へと変化しながら、自慢の白い歯を見せて次の捨て台詞を発言する。


「何故ならジョーカーは、この俺が認めた首領ドンの残骸を残しておきながら第三者に生かされている訳でもなく、自分の意思で生きようと足掻いているからだンフフフフ!」


 時同じくして

――――――――――――――――――――――――――

 エスケープルート〝紫鬼の道〟エリア


 エスケープルート〝魔獣の巣〟の先にある〝PPPゾーン〟を抜けた先の〝テストゾーン〟を更に進むと〝紫鬼しきの道〟と呼ばれるエリアに入る。その場所を走り抜ける1人の若者。彼の名は苗字を明かさない未来。


 未来が進んでいる方向は恐らく特等席のある場所だ。右手に通信機を持って全速力で向かっている。道中では辺りを警戒している様子。いや、背後を警戒しているのか。


 後ろを気にしながら紫鬼の道を突き進む未来。すると彼の持っていた通信機から男の声が聞こえてくる。


「俺達を確認出来たら適当な場所に隠れて様子を見ていろ。これからお前には兄貴を殺して貰うが、成功させるには〝ある条件〟と〝タイミング〟が重要になってくる」


「条件?」


「俺が右手を挙げた時が兄貴を殺す合図だ。忘れるな」


「分かった」


 壁や床等そこら中が紫色に染められた紫鬼の道を走り抜ける未来と、彼と同じ一定のスピードで後ろから尾行している〝巨体追跡者〟の姿。巨体追跡者の右手には拳銃が見える。


 釈の指令で特等席へ向かう未来を追跡するこの男は何者だ。その追跡者の存在に気付いているのか、何度も後ろを振り返っては拳銃を構えている未来。


 追跡者がいるかもしれない事を通信相手の釈に伝えるべきか迷ったが、躊躇して口を閉ざしてしまう。未来の実の兄貴であるスロットこと勇気を抹殺する計画を遂行するべく先を急ぐ。特等席までは目と鼻の先の所まで来ている。


 それとは別に未来が特等席へ向かう様子を、その場所その場所に設置されている小型カメラで監視しているフレームデッドゲームの監視者〝ルーレット〟


 ルーレットは未来を画面で監視しながら真っ赤な林檎を皮ごとかぶりつく。次にカットされたショコラケーキを素手で掴んで口へと運ぶ。見た目がワイルドなだけにお菓子やフルーツを頬張る光景に若干の違和感を覚える。


 彼の登場時に夏男から見たルーレットの第一印象は、黒のスーツに黒髪でパーマをかけているワイルドな大人の男。一見無表情の彼の目は冷たく、目が合うと心の中が覗かれているような気分になって、上から人を見下ろした感じ。そして一切の隙が無い。


 ここで小ネタを1つ。ルーレットは男らしい見た目とは反対に大のお菓子好きである。そしてそのお菓子好きは彼だけの秘密事なのだ。何故秘密にするかというと、お菓子好きなイメージとは程遠いキャラクターである事を彼自身が自覚してそれを恥だと思っているからだ。


 だからこうしてダレも見ていないところで気にせずお菓子を食べ続ける事が、彼にとって何よりも幸せだと感じられる一時だったりする。


「いよいよか。未来は生意気で大嫌いな糞餓鬼だったが、それでも長い間同じ道を歩いた仲。勝手だが〝最後の瞬間〟まで見届けさせて貰うぜ」


 ルーレットの視線を特等席を映し出す画面へ変える。


「後は旦那の〝合図〟を待つのみ」


 場面を特等席に戻す。


 山本カルロスの顔を何度も踏み潰しているのは釈快晴。〝魔石なくして魔法は使えない〟と言って魔石を出せと脅しているようだ。それに対し〝魔石は持っていない〟と返している山本。


 思い通りにいかない釈が次第にイライラしているのが分かる。


 何度も山本の顔や身体を蹴り飛ばしては踏み潰す釈に対して断固として魔石の在り処を答えない山本。このままでは彼が死んでしまうのも時間の問題だ。


「口を閉ざしていたってお前の為にはならねぇぞ。さぁ答えろ捨て駒。魔石を何処に隠している?」


「戯げ!」


「お前の目玉が実は魔石だったりするのかンフフ。それとも腹の中で消化出来ずに隠れているのかンフフ。今すぐにでもお前の身体をバラバラに刻んで解体実験でもしたいものだンフフフ」


「ぎざま、ざっきだれどばなじでいた。だれをごごに呼んだのだ?」


 釈の動きが止まる。何かを悟ったのか、表情が和らいでいく。山本に攻撃するのを止め後ろを向いてしまう。黙ったまま何かを考えている様子。


 釈の右上には小型カメラが1台。右後ろには倒れている山本カルロスと、奥で立っているスロットの2人。2人と自分の距離とカメラの位置を確認している釈。そして舌をペロっと出して自身の唇を一舐めする。


 未来が特等席へと通じる廊下に辿り着いた。曲がり角にある壁に隠れながら釈と山本とスロットの姿を確認する。持っていた通信機を後ろポケットにしまってから、胸元に入れておいた拳銃を取り出す。


 それを監視しているルーレットが、目の前に置いてある〝何かを発動させるボタン〟の上に手を置いた。画面を見ながら唾をゴクリと飲み込み、何かを狙っている様子。


 嵐の前の静けさのような静かな時が流れる。そして釈が口を開く。


「残念だよ軍人。出方によってはその力を利用してやっても良かったものを。魔法を除けば死を恐れぬだけのクズ以下の頑固者。本当に残念だよンフフ」


「ガルザを殺じだどころでレベル王国ば抑えられなびぞ」


「関係ねぇよ。終わりだ」


 釈快晴が笑みを浮かべながら右手をゆっくり挙げる。一瞬時が止まったような緊迫した空気が流れる。


 釈が右手を挙げるのを確認した勇気が後ろポケットに入れておいた拳銃を取り出し、山本カルロスに向ける。


 釈の右腕が半分以上挙がる。それを見ていた未来が遠くから拳銃を構えて実の兄である勇気に向ける。それを監視していたルーレットが目の前にある謎のボタンを押そうと手を動かす。


 釈の右腕が天井に向けてピンと手を挙げる。次の瞬間!


 事前に釈から山本を殺す合図を聞かされていた勇気が、釈の指示通りに山本カルロスを射撃する。1発で銃弾は山本の心臓を射抜いて山本の動きが止まる。その直後に遠くから〝次の銃声〟が響き渡る。


 その銃声を鳴らした人物は遠くで拳銃を構えていた未来。彼が射撃したターゲットは実の兄の勇気。未来が放った銃弾が勇気のおでこを射抜く。飛び散る血と共に意識を失う勇気。


 その直後に未来を監視していたルーレットがボタンを押して未来を目掛けて廊下に設置してあるショットガンで2発射撃。その弾は未来のお腹を射抜き、2発目で右足のすねを射抜く。


 釈が右腕を挙げた直後に計〝4発〟の銃声が響き渡る。


 〝パパパパーーン〟


 釈の周囲を3人の命を奪おうと放たれた4発の弾が交差する。パタパタと人が倒れていくこの廊下で1人、今まで以上に最高の笑みを見せ付けながら天井を見上げる釈。


「ンフフフフフフ!!」


 山本カルロスは勇気の射撃を喰らって即死した。勇気も未来の銃撃を喰らって後頭部から脳みそが弾けて倒れている。即死だ。


 一方未来は意識があるみたいだ。


 しかしお腹と右足の2箇所を撃たれて多量出血してとても立てる様子ではない。痛みに苦しみながら釈の名前を何度も叫んで呼ぶ。


「死、死ぬぅ。釈、ディーラー、何でよ、何で僕を裏切っだ。おび答げぉ」


 釈は後ろを向いたまま撃たれた3人の死に様を確認しない。恐らく、ここで釈が振り返ってしまえばその瞬間に山本カルロスの死体を発見し、結果としてプレイヤー死体発見アナウンスが流れてしまうからであろう。


 釈は初めから様々な人物に右手を挙げたら誰々を射撃しろと合図を決めていたのか? こんな不自然な銃撃が連続して起こる筈がない。


 未来にトドメを刺す訳でもなく振り向く事もない。ただお決まりの笑みを浮かべてその場を後にする。遠くから聞こえてくる未来の悲痛の叫びが虚しく響いて聞こえる。


「お前らは用済みだ」


 × 山本ヤマモトカルロスの死体が発見されました


 実験の裏に潜む闇


 エピソードⅥは以上となります


 ※ドン釈を含めた重要人物全31人/生存者残り25人


 〝チェックポイント6〟へつづく


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