第五十八話 『 3つの実験 』
焦った主人公の行方……
思わず一部の結論を発言してしまう夏男。しかし周りのプレイヤーに聞き取る事は出来ずに聞き直してきた。何でもないと言って夏男が議論を仕切り始める。
思わず感情を剥き出しにしてしまった夏男であるが、ため息を一回ついてから精神を落ち着かせる。この状況で彼が焦り出したら現場の空気が崩壊しかねない。
1つ1つ順を追って質問をしたいと落ち着いた口調で発言する夏男。黙って頷いてくれたプレイヤー達が口を閉ざして一旦夏男に議論の行方を預ける。
まずは事件の被害者である堂島快跳が既に死んでいたという事実確認をする。彼の死体を廃工場で発見していた鎌倉から既に事情を聞いていた夏男は、その内容を全て話してから舞園創に質問をする。
創もこのゲームが開始される前に堂島快跳の死体を廃工場で発見したと証言し、その現場は鎌倉と2人で向かった同じ工場に間違いなく、同時刻に見つけたとの事。
更には堂島快跳の父親である堂島和雄の証言によると、通信機で指示を出して息子を動かしていたが、鎌倉と創が息子の快跳を死体で発見した時刻くらいから音信不通になっていたとの事。
そして詰め入るように路瓶孫の証言にて、同じ日に黒幕サイドによって廃工場で監禁されていた際に自分の他に〝2人の人質〟が居た事を話す。その人質の片方が路瓶の目の前で射殺され、もう片方を彼が直接救出したとの事。
つまり射殺された人質が堂島であって、その瞬間を目撃していたのは監禁されていた路瓶孫である。その際に逆探知に成功していた警察サイドの情報を頼りに廃工場へ向かったのが、死体を発見した創と鎌倉という訳だ。
終いには路瓶と共に行動していた2人の女も拉致されていた事が分かった。
1人の女は上手い事逃げ切れたが、もう1人の女は逃走失敗に終わる。その2人の女とは、拉致されていた方が亀谷妙子で、逃走成功したのが〝戦場貞子〟の偽名で行動していた篠原すみれとなる。
何らかの理由で上記の拉致監禁に関与してしまった堂島快跳であるが、彼の動きは前作で語られている。
彼の前作のポジションといえば、父親である堂島和雄の指揮する組織〝ムチカク〟の任務を遂行すべく〝監視者〟として実験の関係者や被験者を調べる事を目的に特定の人物を尾行していたのだ。
路瓶ら3人が拉致される際に尾行していた目撃者の堂島快跳を更に尾行する〝監視者Ⅱ〟の人物によって第2の拉致が密かに行われてしまう。
路瓶と亀谷を拉致した人物の正体は、過去に失敗したフレームデッドゲームに強制参加させられていた〝小楽華雄〟という男。
同じく過去に同じ経験をしてゲームの経験がある人物で明かされているのは〝早乙女光〟と〝赤西堅也〟の2名。
通信機越しで堂島快跳に指示を出していた堂島和雄の証言と、拉致された路瓶孫と逃走に成功した篠原すみれの証言、死体を発見した舞園創と鎌倉雲人の証言を照り合わせて組み立てると真相がハッキリする。
〝堂島快跳はフレームデッドゲームが始まる数日前に既に亡くなっている〟
この事実を覆す事は出来ない。間違いなく堂島は廃工場で小楽華雄に射殺された。ゲームが始まる前に死んでいるのだ。
という事は、今回の事件も犯人自体が存在しないという事か?
ここまで話がまとまっても夏男の表情は険しいままだ。結論を出すにはまだ早いという訳か。
問題はここからだ。何故堂島快跳が今になって死体で発見されたと通知されたのか。そしてその死体はエスケープルートで爾来也に発見されている。
ゲームが始まる前日に見せしめで殺されてしまった菊池昭造には死体発見アナウンスは流れていない。つまり、ゲームが始まってから殺人事件が起きたというメッセージを含んだ死体発見通知であると考えられる。
しかし堂島快跳はゲームが始まる前に既に死んでいる。この異質な事件にはまだ隠された真相があるのかもしれない。
創への質問を終えた夏男は、ペル電子手帳に保存されているメールをプレイヤーに見直しさせる。
死体の発見者は爾来也伊吹の1名。しかし本人は堂島快跳の死体を発見した覚えがなく、更には一度も会った事すらないと言う。
堂島快跳が死体で発見されたのはゲーム開始1日目の15時9分。死体発見場所はエスケープルートエリア・PPP入り口付近。しかしこの場所に堂島の死体があるのか確認出来た者はいない。
それから計5日間〝トラップルーム〟に閉じ込められていた夏男と鎌倉、電田とすみれ、六条の5名。共に行動していた亀谷は死亡し、残りのメンバーは逸れてしまった未来と青田と爾来也の3名。
爾来也の証言から静寂の5日間の中で脱出成功した2日目までは青田と未来が一緒に行動していたが、爾来也だけは単独で動いていた。理由は夏男らの救出を優先に捜し回る爾来也に対し、未来と青田は脱出を優先するという目的の違い。
未来と青田はエスケープルートの外で待機していた協力者の手によって、入り口の扉を開けて脱出成功。脱出成功と言ってもただ単に元居た監禁場所に戻っただけの話。
上記の事実は青田の証言と、脱出成功した2人を目撃していた路瓶と青葉の証言一致で立証される。
という事は少なくとも青田と未来が堂島快跳を殺した可能性もなくはないが、そんなに単純なものだろうか。
死体発見時刻は夏男らがトラップルームで監禁された時刻1日目の15時9分であるが、殺害時間とは全く異なるもの。更には単独行動をして一足お先にエスケープルートに参加していた山本カルロスや釈快晴だって疑わしい。
エスケープルート参加者計11名の中に堂島快跳と亀谷妙子を殺した人物が居るのだとしたら、ダレにでも殺害が出来る状況である。
しかし本当に11人の中に犯人がいるのだろうか?
話を戻るが、そもそも堂島快跳が死体と発見された事実があるのにも関わらず、今となって事件が報告されたのは何故だろうか。
今も議論が展開されているリアルタイムディベートを一部公開しよう。
※ 議 論 開 始
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堂島快跳殺人事件
リアルディベートⅣ
電田「じゃあこの事件の真相は米山の1件と同じように〝犯人は存在しない〟って事で良いのか?」
夏男「いいやそうとは言い切れない。当然の事ながら俺達は堂島の枠ミッションが何なのか知らない。よって堂島自身が実は生きていて植物枠としてミッションを遂行している可能性はある。だが、死体を発見しているのもまた事実。他のミッションがあるのかもしれないという推理を視野に入れるべきだろうが、そんなミッションは存在しないと俺は考えている」
電田「お前。さっきの米山の件といい、ミッションについて詳しくないか。何で植物枠に似たミッションが無いと考えるんだ?」
夏男「それは、ある人物の情報提供がきっかけだ」
一同「??」
夏男「その話もしたいが、その前に爾来也さんに幾つか質問をしたい」
爾来也「うむ」
夏男「黒幕サイドから送られてきた死体発見通知メールによると、堂島快跳の死体を発見したのは爾来也さん1人になる訳だが、本当に死体を確認していないんだね?」
爾来也「うむ。どういう訳か、我が被害者の死体を発見した事になっているが……〝人間の死体〟と言えば、妙な隠し通路の先にあった大広間で亀谷殿の死体は見つけたが。貴殿らを探索していた時の話だ」
夏男「あそこには暴れ回る怪物も何体か居たな。爾来也さんの言う人間の死体以外で発見した死体もあったろう」
爾来也「ああ……あの怪物共の事か。あの者達は結局何だったのだろうな。言葉は通じず暴れるだけ暴れて我々を襲って来た」
鎌倉「怪物の正体についてはこのゲームと同時進行で行われてる〝3つの実験〟って言ったかしら。それに詳しいすみれガールが説明するのが良くなくない?」
爾来也「そうだ、丁度すみれ殿から此処で行われている実験について話を聞いているところへ、何者かが射撃してきて聞けずにいたんだ」
夏男「射撃してきた監視者の正体と、3つの実験についてはトラップルームですみれさんから全て聞いた。5日間閉じ込められた全員がすみれさんの実験の話を知っている」
路瓶「私もすみれさんから全て聞いている。この期に及んで隠す必要もない。皆に話してやるんだ」
すみれ「そうだな」
※ タイムストップ
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篠原すみれの知るこの脱出ゲームの裏事情〝3つの実験〟を再度まとめてみる。
まず最初に、何故篠原すみれが黒幕の計画する実験について詳しいのか。その答えは以前本人が明かした母親の正体と繋がる。
彼女の実の母親は行方こそ分からないが、その正体は裏の世界を仕切るドン釈のビジネスパートナーである最高実験組織〝クライオニクス〟のリーダーであるからだ。
実の母親より、実験の被験者になるよう依頼されたのがきっかけで篠原姉妹が実験に参加し、母親とすみれの生後過ごした少ない時をクライオニクスで送る。本編で明かされた母親の名は篠原優香。
母親の登場シーンで公開された情報として、母親はアメダマとしてこの実験の生放送を視聴する1人。実験に必要な資金集めを目的に行われているオープニングベット時には、被験者である篠原すみれに6000万円の大金を賭けている。
今もどこかで彼女を監視している実の母親。今頃画面の向こうで手汗をかいているに違いない。
最終的には母親とその上に立つ〝ドン釈〟の計画する3つの実験を止めるべく、クライオニクスから逃走した篠原姉妹。
以上の経験を踏まえて今回行われているであろう実験にも幾つか思い当たる節があるという事。
※3つの実験についておさらい
1人体冷凍保存計画
2空間記憶操作計画
3人造生物製造計画
3つ目の人造生物製造計画を発言しようとしたところで、特等席に潜む監視者に射撃された篠原すみれ。トラップルームで過ごした静寂の5日の間に3つ目の計画内容も全て聞いている夏男らであるが、本編では初公開となる。
3つの実験計画内容を簡単に説明しよう。
1人体冷凍保存計画
現在の医療技術で人体が蘇生出来る事を目的とし、遺体を液体窒素下で冷凍保存すること。その応用として解凍後にナノテクノロジーで細胞膜を補修、DNA複製するといった発展医療計画。
2空間記憶操作計画
感覚記憶、短期記憶、作動記憶、ワーキングメモリといった代表的な自伝的記憶を物理的に操作し、体感してきた空間の記憶を消去、入れ替え、私物化するといった記憶喪失医療計画。
3人造生物製造計画
人工生物は人間によって設計、作製された生命体。生化学やコンピュータ上のモデルやロボット、又は人間の遺体等を使って生命をシミュレーションすることで生み出されるといった新生誕生医療計画。
以上、3つの計画をこのゲームに盛り込み、実際に実験が進められている訳だが、そのほとんどが法的処置をとられるのが当たり前で、3つの実験を続行するには規制が厳し過ぎる。
裏社会だからこそ実現出来るのかもしれないが、最も問題視するのはそれに協力している裏社会を仕切る猛者共の〝投資〟だと言える。
こうして現代では実現不可能な人体実験を繰り返し、成功しては金を得て、投資した人間の一部が得をする裏社会の流れを見ていくと、その中心に立つ実験計画を実際に行っているクライオニクスと最高指揮官ドン釈の影響力がどれほどのものか分かる。
そして、この実験は日本国内だけで生放送、投資をしている訳ではない。各国の著名人がこの実験にお金を振り込み、実験成功を願っている。
しかし、問題なのはお金を賭けてそれが行われている事だ。その行いこそオープニングベットといった博打の真似事。
そうなれば、お金を賭けたプレイヤーを邪魔する別のプレイヤーが居る場合をアメダマ視点で見ると〝あの国の王が賭けた被験者が私の大事な被験者の邪魔をする〟といった国規模の小競り合いが起こる場合もあると言える。
少し話が逸れてしまったが、3つの実験のどれもが世界的に注目された行いで、沢山の金が動いているのも視野に入れつつ、今回起きた堂島快跳殺人事件と深く関係している実験を3つの中から考えてみよう。
後は爾来也伊吹の証言を頼りにそれぞれプレイヤーの動きを思い返せば犯人が絞り出せる筈だ。
犯人は11名の中にいる……
コロダレテスト3問目
1.六条冬姫が明かした亀谷と化け物の戦闘
2.電田龍治が明かした未来と青田の行方
3.鎌倉雲人が明かした堂島快跳の死体発見
4.篠原すみれが明かした3つの実験
5.爾来也伊吹が明かした静寂の3日間
3問目の答えは『3』『4』の2つ




