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コロシタノダレ ~黒幕の脅威と地下学園脱出~  作者: まつだんご
―エピソードⅥ― 「島村姫と罰シマス」
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第五十四話 『 返り討ち 』


 重たい空気が流れる


 本日18時に行われる〝モレクの裁き〟について一通りの説明を終えたチュリぞう。


 逸れた話で続ける〝プレイヤーが実験に選ばれた理由〟が想像以上に大規模であると知ってしまったプレイヤー達は、その絶望さ余りに涙が溢れてそれを零す。


 チュリぞうの言う選ばれた理由が真実のものであるならば、此処に監禁されたプレイヤーは鳥カゴに閉じ込められた小鳥も当然であるからだ。カゴの外に出ようともその先に広がる風景全てがドン釈の所有する土地である事から、彼等の住む横浜市全体が鳥カゴであるというもの。


 逃げ場など最初から存在しない。


「闘うしかないって訳だな」


 夏男が小声で呟く。


『んー何か言った?』


「つまり、俺らプレイヤーの過去を何らかの方法で調べ上げて、それが重たい程にお前らの言う実験が遂行しやすいと」


『こちらの用意してある生命体の記憶を埋め込めるだけ埋め込んで上手いこと洗脳したいからね。辛い悲しい過去って普通は忘れたいものでしょ。記憶を入れ替える第一段階として必ず〝いつかの記憶を丸々消去する〟必要があるからネ』


「お前等の話はよーく分かった。分かったんだよチュリップ、もういい」


 夏男がチュリぞうを殺意に満ちた目で睨み付ける。


「闘うしか手段がないと分かってもう話はついた。お前らをぶっ潰す他に俺らの未来を切り開く方法がないという事は、逆に言えばお前らを倒す事が出来ればこの悪夢が全て終わる訳だ」


 夏男がチュリぞうに近づいていく。夏男がチュリに暴力を振るおうと察知した他のプレイヤー達が、夏男を止めようと名前を連呼する。


「止めてくれるな。俺は以前このふざけた人形に断言したんだ。このゲームで死者が出た場合はこの俺がお前を殺すと」


『殺されちゃうあわわわわ』


 チュリぞうに向かって歩く夏男のペースが速まる。拳を握り締めてチュリに向かう殺意に満ちた夏男を止めようと1人の男が動き出す。


 手を伸ばせばチュリぞうに触れる事が出来る距離まで接近したところで、怒り爆発の夏男がチュリぞう人形を目掛けて怒りの鉄槌を下そうとした、その時。


 〝キーーーーン〟


 人形を殴る音にしては随分と違和感のある金属がぶつかったような音が響く。いや、よく見ると夏男の拳がチュリぞうの身体にヒットしていない。チュリぞうの顔面の前にあるのは金属の棒、いいや何者かの所持する剣。この剣がチュリぞうと夏男のぶつかり合いに横入れしていてそれを殴ってしまったようだ。


「落ち着け、夏男」


 赤西堅也が剣を使って夏男のパンチを止めている。この剣はこの建物の倉庫で手に入れたのか?


「何でお前が邪魔をする!」


「良いからこの人形から離れろ」


「こいつをかばっているのか?」


「良いから早く、くそ間に合わない、伏せろ!」


 伏せろと叫んだ赤西が夏男を抱き抱えて床に飛び込みその場に伏せる。と同時にチュリぞう人形内部に仕掛けられた爆破装置が作動して大爆発を引き起こす!


 目の前で爆発した勢いに飲まれて吹き飛ぶ赤西と夏男。その爆発により赤西の使った剣が真っ二つに折れて吹き飛び、付近の天井からはコンクリートが崩れ落ちる。強風が吹き荒れて、爆発した場所から黒い煙があがり現場であるホール一面にたちこめる。


 周りに居たプレイヤーも爆破の勢いに飲まれて床に倒れ込む。爆破した場所から飛び散るコンクリートの破片がプレイヤー達の身体をランダムに切り刻む。


 吹き飛んだ夏男が赤西から離れて床に倒れる。赤西は更に奥まで吹き飛び、豪快に転がる。


 崩れたコンクリートが天井からパラパラと落ちる音が聞こえるだけで、辺りは静まり返る。何が起きたのか把握出来ないプレイヤー達が伏せたまま周辺を見回している。


「ううぅ……」


 20メートル先まで吹き飛ばされていた夏男に意識はあるようだ。どうやら吹き飛ばされただけで爆発による怪我はない様子。一方夏男をかばって背中からもろに爆破を直撃した赤西はというと……


 30メートル先まで吹き飛んでいた。しかも動く気配がない……彼の右腕から背中にかけて流れ出す血が尋常ではない量。


「あか……にし……」


 赤西の無残な姿が視界に入って間もなく……夏男の意識がなくなる。ゆっくりまぶたを閉じると、そこに広がる黒色の世界。孤独な空間に身を置いて完全に意識を失ってしまう夏男。


 場面移動

―――――――――――――――

 春子の部屋(特等席)


 特等席と呼ばれる薄暗い一室に2人の人影が見える。辺り一面に設置されたモニターの明かりに照らされて素顔がちらちら見えているのは釈快晴。対するもう1人の人物は……


『な、何でチュリに何も言わずに人形を爆発させたのヨ。ちょっとディーラー、説明してくれないとチュリ納得出来ないッ』


「見せしめだ。他にな・に・が・あ・る?」


『見せしめって……チュリ達に一方的な暴行をくわえようとすると痛い目に遭うと教えたかったから?』


「そうだ」


『あんな事して、もしもジョーカーが死んだりしたらどうするのよ!』


「赤西に預言書を一筆して送っておいた。だから何の問題もない」


『チュリの立場はどうなるの。チュリが操作するキャラクターが無くなっちゃったじゃない。みんなに素顔を見せるつもりはないからね!』


「お前の事などどうでも良い。それより〝A2〟を見てみろ」


 釈快晴の言うA2と呼ばれるモニターに映し出されていたのは。校庭を裏から回って緊急通路の階段を最上階まで上った舞園創ら3人。屋上で何やら爆破装置のような機具を設置して、その場を離れる3人。


『ちょっとこの映像って特等席の上じゃ……』


「隠れ家がバレていたみたいだンフフフ」


 特等席の天井が大爆発を引き起こして穴が開く。それから数秒も経たない間に天井に開いた穴から飛び降りて来た〝3人の戦士〟に囲まれる釈快晴とチュリぞうを操作していると思われる人影。


「動くな釈!」

「大人しくしろ!」

「おい、もう1人居るぞ!」


 拳銃を向けられた釈は、手に持っていた〝無線機〟を床に投げ捨て、両手を挙げてこちらは抵抗する気がないことをアピールする。ゆっくりと2人に近づいて行き、とりあえず釈のポケットや上着や靴などを触って武器を仕込ませていないか確認する3人。


 狙いの釈が武器を所持していないのを確認してから2歩下がっていつでも射殺出来る体勢をとる3人。釈とチュリぞうを襲った3人の戦士の正体は堂島和雄と舞園創、素顔を隠した虎の覆面。


 フレームデッドゲームの舞台に到着した素顔を明かしている2人のプレイヤーと、素顔を明かさない1人の覆面。以下の2人はこの時点でゲームの行方を映像で追う〝アメダマの監視下〟に置かれる立場となる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 前作の主人公 舞園マイゾノ ハジメ(15)

 男性 身長体重データなし

 生まれつき記憶障害を抱える

 石川奈津と路瓶亮介とは幼馴染

 父親は創が生まれた年に亡くなっている

 ムチカクに命を救われ、行動を共にする

 ※1人目の被験者(第一話初登場)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 重要人物 堂島ドウジマ 和雄カズオ(42)

 男性 身長180cm 体重72kg

 息子である堂島快跳は死亡している

 黒色のサングラスとスーツを着用

 裏で様々な人物に指令を出している

 その正体はアメダマに対抗する組織のボス

 ムチカクを立ち上げて黒幕側に闘いを挑む

 ※24人目の被験者(第七話初登場)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 ムチカクと呼ばれ、アメダマを駆逐する事を目的とした反アメダマ組織のボスである堂島和雄。そんな彼と創が手を組む事になったきっかけは、黒幕サイドが30人の被験者を捕獲しようと送り込んだ暗殺集団の博打組に追撃されていた創と、創を追撃する博打組を更に追撃していた堂島が出会う。


 結果的に堂島に救われるようにして博打組から逃亡成功した創は、事件の内情を知る堂島に敵の情報を聞く。聞き出した情報により、堂島とそれを取り巻く組織の目的と、自身が今どういう立場に置かれているのかを知る創は、堂島率いるムチカクサイドに協力する事を決意する。


 ムチカクには部下が多数居たので、しばらく黒幕サイドの目を離れる事が出来たが、創の幼馴染である石川奈津やクラスメイトの高橋未来が黒幕サイドの手中に渡っている事を知り、彼女らの救出と黒幕サイドを倒す事を目的に動く。


 後に創の予想外な〝切り札〟によって、ドン釈と直に関わったり博打組を指揮する目立った人物の名が挙がる。その人物の名はディーラーこと、釈快晴だ。


 様々な戦略を立てては行動に移してきたムチカクサイドの3人。当初の釈快晴ぶっ潰し計画こそ失敗したものの、ここでようやく釈快晴との接触に成功する。


 更には優位な立場。このチャンスを逃す手はない。釈快晴さえ完全に捕らえる事が出来れば監禁された石川奈津の救出の他、恐らく30人全員の被験者救出が成功する。


 さっそく本題に入ろうと虎の覆面が釈に問う。


「よーし動くなクズ野郎。余計な事は考えずに俺の質問にだけ答えろ。石川奈津はどこだ。いや、その前にそこに〝座っている女〟は何者だ?」


 爆破した事により天井に開いた穴から射し込める陽の明かりに照らされ、見えてくるチュリぞうを遠隔操作していたと思われる人物の素顔。


 それは椅子に座って動く気配がない。下を向いているせいで長い髪が顔を覆い隠している。


「おいそこの女。顔を上げろ」


 虎の覆面が顔を上げろと命令するが、女が動く気配はない。


 一番近くに居た堂島和雄が女の頭部に銃口を当てる。が、それでも微動だにしないどころか、頭部に銃口を軽く当てただけで身体丸ごと椅子から床に倒れてしまう。


 倒れた勢いで髪に隠れた素顔があらわになる。この人物は……前作で何度も登場した女の顔と全く一緒。


 倒れている女の顔を見たことがある舞園創と堂島和雄は、思わず動揺して拳銃を釈から女に向き変える。しかし、倒れた女をよく見ると、おでこの真ん中には乾いた血と銃弾で撃たれた痕がある。まさか死んでいる?


「死体!?」


 女の正体が死体である事を確認すると同時に無線機からチュリぞうの声が流れる。


『ディーラー、いまの爆発音どうしたの、ねぇ、3人に殺されちゃったの、ねぇ、お願いだから何とか答えてヨ!』


 無線機から室内中にチュリぞうの声が響き渡る。釈はチュリぞうと無線機で話していたという事か。つまり特等席に居た人物は釈と死体の女という訳だが。


 死体の女に見覚えのある舞園創が小声で呟く。


横峯よこみね悪魔あくまの死体だ……」


 虎の覆面が創に疑問を投げる。


「この女を知っているのか?」


「ああ、見た事がある」


 やはり創の削ぎ落とされた記憶内に残された〝手術室〟に現れた女は、横峯悪魔で間違いないようだ。という事はこの女も釈と繋がる黒幕側の人間で確定か。


 すると堂島和雄が口を開く。


「この女は俺も知っている。こいつは博打組幹部の〝ダイス〟と呼ばれる女だ」


「そうか、こいつは博打組の人間だったのか」


 横峯悪魔に気が逸れているところを、本題に入れといわんばかりの釈が微笑みだす。


「てめぇら、この女の死に様を見物しに来た訳でもあるまいし。油断してんじゃねーよンフフフ」


 虎の覆面が釈の余裕な表情を見てビクつく。


「うるさい、お前は俺の質問にだけ答えれば良いんだ!」


「随分と偉そうな物言いだな少年よ」


 虎の覆面が釈に拳銃を向けたまま近づく。


「俺のさじ加減ひとつでお前は死ぬ事になる。偉いかどうかではない。お前を脅しているんだ。女の事はもう良い。石川ナツは何処に居る?」


 舞園創と堂島和雄も女から釈に拳銃を向け直す。3人に囲まれてはさすがの釈快晴もどうする事もできな……あれ?


「ンフフフフ。石川の情報が知りたきゃまずはその〝拳銃を捨てる〟べきだな」


「なんだと!?」


 前回と同じように始まる釈快晴のペース。前は彼のペースにまんまと乗せられて作戦が失敗している3人。


「質問にだけ答えろ。余計な話をするようであれば容赦はしない」


「まぁ聞け」


 釈快晴が挙げていた手を下げてポケットにつっこむ。そして何かを語りだそうとしたその時、舞園創が声を張って虎の覆面に射撃の許可を得ようとする。


「こんな奴の話を聞いてはいけない。僕が撃つ!」


「待て創!」


「かなりピリピリしているようだなンフフフ。だったら簡潔に話してやろう。良いか、石川は……」


 我慢限界の舞園創が引き金を引く。


 〝パァァァァァァァァァン〟


 初めての射撃に慣れていないせいか、舞園創の放った銃弾は釈快晴に命中していない。これは洒落にならないと危険を察知した釈が猛スピードで創の元へ向かう、その時間は約2秒間。


 創の目と鼻の先まで接近して来た釈が右手で舞園創の首を掴み、思い切り絞める。首を絞められた事によって創の身体から力が抜けて右手に持っていた拳銃を床に落とす。


「創を離せ!」

「撃つぞ!」


「良いかお前ら、よーく聞いておけ。これから俺が話す内容はお前らにとってきっと重要な内容だろう」


 創の首を右手で握り締めたまま微笑む釈が3人にとって重要な話を始める。


「石川は確かに俺の手中に置いてある。それもとびっきり驚く条件でな。石川は俺にしか辿り着けない場所に閉じ込めてあるんだ。つまり俺を殺せば石川の救出は不可能という流れになるが、話はここからだ」


 創の顔色が青ざめていく。このままだと話を聞く前に創が死んでしまう。やはりここは釈を射殺するべきであろうか。しかし石川の居場所を知っているのは釈快晴本人のただ1人しかいないと聞かされる。


「端からお前らがゲームに参加するとは思っちゃいねーよ。だから俺はある仕掛けを用意しておいた。察しが良い人間はそろそろ気付いても良いンフフフ」


「勿体ぶらないでさっさとしろ!」


「このままだと創君が……」


「俺と石川の辿るべき運命、その命綱は同体していると言える。と言うのは石川の心臓付近に〝特殊な小型爆弾〟がぶっこまれているからだ。その小型爆弾が作動する条件を知るのは俺だけだ。それを止める術を知るのも俺だけになる」


 釈快晴が右手で握り締めていた創の首を離す。床に倒れ込んで咳き込む創。そしてフリーになった右手のシャツの袖から目では確認出来ない程に細い針を取り出す。


「そして、その小型爆弾が作動する条件とは……俺が死ぬ事なんだよ」


 釈が死ぬこと!?


「つ・ま・り、この俺が死ぬような事態が起これば、石川の心臓に取り付けられた小型爆弾も作動する仕組みになる。俺が死んだら石川も死ぬよう設定されているという訳さンフフフフ!」


 釈快晴を殺せば石川ナツも死ぬ。3人の目的である石川ナツ救出計画が失敗に終わる。ナツが黒幕サイドに殺されてしまう。


 右腕の袖から取り出した針を創の頬に突き刺す釈。その痛みのあまりにもがき苦しんで暴れる創。


「この餓鬼のような、半端な覚悟で命を奪う奪われるのやり取りをしてくれるな。それがいかに愚かで粗末なものか知るが良い。お前らの半端さ余りにこの餓鬼は俺に首を絞められ死に掛けた。何も知らずにこの俺を殺していたら、お前らの守るべき仲間を殺すハメになっていた」


「な、何が言いたい」


「俺は〝家族〟のためならいつ死んでも良いと思っている。お前らとは経験はおろか、死に対する思いも覚悟も違うのだよ」


 釈快晴の微笑みが消える。


「お前らのやり方では、守る筈の仲間を殺してしまう結果を招く場合がある。信念を貫く度胸も、プライドを捨てる覚悟もない哀れで醜い偽善者はもうウンザリだ」


 目的のためなら命を捨てる覚悟もあるか。


 相手が悪すぎる。この男は、人の命を奪う事に対して何とも思わない人間だろう。その術も熟知している他、緻密に練られた作戦や罠がいつも人の一歩先をいっている。こんな男を相手にして希望の未来などが切り開けるのか?


 釈が話をまとめ、3人に次の命令を下す。


「石川を開放してほしければゲームに参加しろ。時間で言うと本日の午後6時になる。モレクの裁きと呼ばれる子供達が議論を通じて敵の論破を目的に争い合う哀れな御祭りが始まる。お前らも〝そこ〟に一旦命を預けて参加する事だなンフフフフ」


 苦渋の選択を迫られる3人!


 ※後書き・ヒント


 次回はゲーム開始6日目の午後6時まで話を進めます。ちょうど夏男が目覚める時間であります。


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