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Someday  作者:
9/26

8.輝く悪戯っ子

校門前。

後ろを振り返ると校舎の明かりは全て消えていて、いくつか灯っている非常口の緑色のランプが不気味に感じさせる。


「あたしこっちだから後は二人に任せるわ」


美希ちゃんは意味深な笑みを浮かべ、私達に手を振りながら颯爽と自転車を漕いで帰っていった。


「何なんだあいつは…」


赤川くんはほっぺを掻いている。そういえば教室で話してる時も何回か掻いてたような気もする。


「赤川くん自転車だし私は駅まで歩いて行かなきゃいけないからここで。それに逆方向だし」


私は気を使って赤川くんに帰宅を促した。

でも少し期待なんかしたりもして。


「…そうだなぁ。んじゃ今日はお疲れ。また明日な」


撃沈なのか?

いやいや、赤川くんはただのクラスメイトだし当然の返答。


私と赤川くんは別れの挨拶を交わし、私は駅へ向かった。


(…何か変だな私……)


この時既に私は赤川くんに惹かれ始めていたのかもしれない。




大通りにはコンビニやCDショップなどが立ち並び、その建物の辺りはかなりの明るさだ。

私はいつもの様に大通りから少し狭い小道に進路を変え駅を目指す。

と、少し歩くと何やら背後から気配がする。

何だ?

チェーンが軋む特有の音がする。

自転車だ。

私の中の恐怖心が一気に高まる。そういえば朝礼で担任が不審者に注意しろとか何回も言ってた気がする。

多少歩く速度を速めたものの、自転車を漕ぐ音は徐々に近づいて来ている。

抜かしていけばいいのに。

そう思うと恐怖心はより一層大きさを増す。


突然私は後ろから口を抑えられた。


(…やだ……!)


私は堪えていた涙が一気に溢れ出た。


「…大人しくしろ」


低い声で言われたが何だか妙な感じがした。

だって聞き覚えがある声なんだもん。


「……ふぁか、がわふぅん?」


口を塞がれながらもわかる様に名前を言った。

それと分かってしまった私があまりに無抵抗なため塞がれていた口は自由を取り戻す。


「あら、バレた?」


「…声で。ってかホントにびっくりしたんだけど!やめてくれる!赤川くんのばかー!」


振り返り泣きながら叫ぶ私に困惑したような表情をして慌てふためく赤川くんの姿があった。

でも少し安心したりして。


「あ、いや…その、泣かせるつもりは…なかったんだけど…」


「怖いから泣くに決まってんでしょ!」


赤川くんは何回も頭を下げ

「ごめん!」

と謝っていた。

腰を抜かした私はその場に座り込んだ。

赤川くんは目線を合わせるように屈んで俯いている私に何回も謝っていた。

俯いている理由は、くしゃくしゃになった顔を見られたくなかったのと、顔を上げると赤川くんの顔が近いから恥ずかしいっていう二つ。

ずいぶん前に止まったのだが、涙を拭うフリをして顔を上げる。


「大丈夫?…ごめんな」


やっぱ近い。

私の体温は一気に上昇する。

私はわざとらしくため息を大きくついてから言った。


「…もう。おふざけにも限度がありますよ!」


「反論はないです…」


しかし赤川くんは

「ただ…」

と言った。


「不審者多いって聞いたから心配になってさ…」


ダメです。

体温が上がりっぱなしです。

今なら体温計を壊すことができそうですお母さん。

私はものすごく早く鼓動する心臓の音を聞かれると思い、立ち上がろうとする。

しかし恥ずかしながら腰が抜けてしまって自力で立つことができない。


「あ、手……」


赤川くんの手が私に伸びる。

体温が、体温が。

上へ参ります。

天井が見当たりません。

私は変に躊躇した後に赤川くんの手を握った。

指は細いけど大きな手の平。

指の付け根にはマメが出来ている。

そういえば親指に絆創膏を巻いている。

頑張ってるんだな。

私はドキドキして熱いものの中に何だか暖かいものを感じた。


「…ありがと。それともう二度としないようにっ!」


「…イエス」


「はい、でしょ?」


「はーい」


私はふざけた様にいう赤川くんに少しカチンときたが、安心感のが上回ってため息をついただけだった。


私を心配してくれた赤川くんは自転車を引きながら私と同じ速度で私の横を歩き駅へと向かう。

きっとこれが私じゃなくても赤川くんは優しいから心配するんだろうな。

そういうとこに皆惹かれるんだな。

駅に着くと私は鞄から財布を取り出し定期券を手にとる。


「…ありがと。でもちょっと赤川くんの人間性を疑ったかな」


「それについてはノーコメントで」


「じゃ、また明日ね」


「痴漢に合わないよーに」


赤川くんはあっかんべーをしている。

大人っぽい雰囲気なんだけど、こういうとこは子供っぽくて可愛い。

私も同じように舌を出してやった。

赤川くんの笑顔があまりにも輝いていて、駅構内の強めの照明は全く苦にならなかった。

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