6.日常
グランド。
夏の大会も近いということで、3年生をはじめみんな練習にも力が入っている。
予選1ヶ月前となると内容の濃い練習をさせてもらうのもレギュラーメンバーやベンチ入りのメンバーのみで、ベンチ外の選手は大体補助にまわっている。
俺は実力が評価されたのか一応レギュラーの先輩達と一緒に練習させてもらっている。
「はい次ショートっ!」
俺はグローブのついている左手を高々と挙げ大きく返事をした。
硬い硬式野球ボールを金属制のバットで打つ甲高い打球音を残して、強烈な打球が俺目がけて転がってくる。
(気合い入ってんなー…)
避けたくもなる速さの打球を俺は難なくさばいてみせた。
「いいぞ赤川っ!」
「どもー」
俺は賛辞の言葉を小声で返答した。
それからバッティング練習や実戦練習をこなし今日の練習は終わった。
太陽はとっくに沈んでいて外はもう闇につつまれている。
校舎の各教室から漏れる明かりのおかげで、俺に近寄ってくる正宗を認識させてくれる。
「お前はやっぱすげーな!」
正宗は強めに俺の背中を叩く。
「あれぐらい普通じゃね?」
「っかー!意識高い奴は言うことも次元が違うねー!」
背中を叩く力がどんどん強くなる。
「痛ぇーよ」
「レギュラーの越川先輩、ずっと調子悪いからひょっとしたら夏、しょーいちスタメンかもよ?」
だんだん背中がジンジンしてきた。
「先輩差し置いて1年坊の俺が出るわけないだろ。てか痛ぇ」
「まぁ最後の夏だしなぁ…でも勝つためなら実力あるやつが出なきゃダメだろ」
もう背中の感覚がなくなってきた。
「越川先輩だって去年はベンチに入ってたらしいし、大会前には調子戻してくるだろ。てか痛ぇって」
「なんだなんだ、えらく謙遜しちゃって。試合出れるかもしんないチャンスなんだからモノにしなきゃ!」
俺の背中、大丈夫?
「謙遜なんかしてねーよ。でも…チャンスはモノにしないとな。…痛ぇ…」
いつの間にか拳で叩かれているのを確認。俺はとりあえず正宗の行為を遮断するため、頭を渾身の力を込めて小突く。
「…悪い。痛いなら痛いって言ってくれなきゃわかんないじゃん…」
「はは…なかなか面白いこと言うなマサ」
俺は再度拳を握りしめ正宗に見せた。
正宗は両手を顔の前で合わせ
「…すいませんでした」
と頭を下げた。
俺は大袈裟にため息をついてやった。
「しょーいち、今日も居残って練習してく?してくんなら付き合うけど」
だんだん背中の感覚が戻り始めた。
「あー、悪い。今日はクラスの用事があるからまた今度頼むわ」
「ほーい。あ、旅行のやつか」
俺は部室でユニホームから制服に着替えながら頷いた。
「しょーいちんとこ何やんの?俺んとこはビンゴやるらしいぞ」
俺はそれを聞いてほっとした。
心の中で宮城さんに感謝した。
「うちは劇。どんな話しかとかは今日決める予定」
正宗は真ん丸の瞳を大きくし、もの珍しそうな顔をした。
「へぇ〜、変わってんなぁ。発案者だれ?」
「宮城さん」
「茜ちゃんかぁ!あの子はいいよ、うん。実に可愛らしい」
何だか一気に話題が逸れた。
「顔も可愛いし性格も可愛いし声も可愛い。身長は低いけど出るとこ出てるしなっ!」
正宗は妖しげで不気味な笑みを浮かべ、ヘラヘラしている。
「…最低だな。てか宮城さん彼氏おるって聞いたぞ?」
正宗が涎を拭うかのように口を袖で拭いた。
「んなもん関係ないんだよ!人間なるようにしかなんねーんだから」
正宗…宮城さん狙ってんのか?
それから正宗のわけのわからない持論講演会が開かれたので、俺の耳と脳はその話を聞かない方向で意見が一致した。
「んじゃお先!」
そう言って俺に手を振り正宗は帰っていった。
俺もすぐに着替えを済ませ、部室の鍵を閉め教室へと向かった。




