5.漠然と
6月。
桜もすっかり散ってしまい、後から緑の若葉が生え揃っている。
私たち1年生はまだ入学間もないということで、当校毎年恒例らしい1年生だけのクラス内、クラス間の親睦を深めるための旅行を実施するらしい。
各クラス2名代表を決め、クラスで旅行の計画やオリエンテーションでの出し物を決めている。
「はいはい、何かある人手ぇ上げてー」
今は自習の時間を使ってそれらの話し合いをしている最中だ。
教壇の前で美希ちゃんがよく通る声でみんなに問いかけた。
うちのクラス代表は美希ちゃんと、
「無いんならこっちでパパッと決めますけどいいんすかー」
赤川くんだ。
彼は何事にも積極的だし協力的で入学2ヶ月目にして早くもクラスの代表格だ。
白いチョークを持って黒板にコンコンと当てながら赤川くんは言った。
「茜っ!何か無い?うちらを助けてよぉ」
美希ちゃんは不意に私にアイデアを乞う。
その表情があまりにも困惑してた様で、私は咄嗟に思ってもないことを口走ってしまった。
「え……あ〜…劇、とか?」
クラスが少しざわついた。
美希ちゃんと赤川くんはお互いを見合って、赤川くんは男らしい大きな字で『劇』と黒板に書いた。
他のアイデアとしてビンゴゲームやダンスなどがあがっていた。
「劇ねぇ…んじゃ劇で決定ね」
あっさりと決まってしまった。
まずいなぁ。
手元に担任から配られたプリントに劇団の記事が載ってたからつられて言ってしまったがもうどうにもならない。
「それじゃ劇やるっつーことで異議とかある人ー。…はい無いねー」
ちょっと赤川くん!
みんなに考える時間与えてよ!
そんなこんなで私の出した案が無情にも可決してしまった。
放課後。
私は部室へ向かう準備をしていた。
「あっかねー」
準備を済ませた美希ちゃんが私の席の前まで来た。
「茜、劇なんてやりたかったの?」
「なんて言うか…プリントにさ…」
美希ちゃんは私の弁解を最後まで聞かずして続ける。
「でも助かったよー。ビンゴとかありきたりじゃん?劇なんてやるクラスないだろうし面白そうじゃん」
美希ちゃんが優しい笑顔で言うものだから私も笑うしかなかった。
「とりあえず脚本とか決めなきゃだねー」
「うん。何かいろいろ手間取りそうだね…」
準備を終え、教科書が入った鞄とバレーの用具が入った鞄を肩に掛け立ち上がる。
「ま、茜には発案者ってことで強制的に制作に参加していただきますから」
「えっ…でも私……」
美希ちゃんは
「さ、部室行こー」
と言って小走りに教室を出ていった。
もう後戻りはできそうになかった。
しょうがない。
腹をくくって制作に協力しよ。
思えばその行事が私と彼の距離を一気に縮めたんだろうな。