4.背中
5月。
校門の桜の木にはもうほとんど花びらは残っていない。
入学から1ヶ月。
私はバレー部に入部し部活に勉強に日々いそしんでいる。
「はぁ〜、これで終わりだー」
体育館で部活の後片付けをしていた美希ちゃんが大きく伸びをして言った。
「終わったねぇ」
つられて私も伸びをする。
外は暗くなり始め、空は夕暮れ時から夜へと変わる準備をしていた。
「さ、茜。部室戻ろっ」
私は頷きサポーターを持って体育館を出た。
グランドではまだサッカー部や陸上、そして野球部の生徒がが所狭しと駆け回っている。
「翔ちゃん達頑張ってんなー」
グランドに面した2階建ての部室棟の2階から、野球部が練習しているスペースを美希ちゃんとしばらく眺めていた。
みんなユニホームを着て誰が誰だかわからない。
「あれ正宗君じゃない?」
美希ちゃんは元気よく走っている小さな選手を指差して言った。
入学してから杉くんや赤川くんともよく話すようになった。
特に杉くんは気さくな人で誰にでも好かれる愛想のいい好青年だ。
「あれ、あれ翔ちゃんじゃない?」
美希ちゃんは二塁と三塁の間のポジション、ショートとかいった位置にいる3人いる中の一番後ろの選手を指差した。
「あれかなぁ?」
「あれだよ。あのほっぺた掻く仕草とかさっ」
赤川くんは癖なのか知らないが、よく人差し指でほっぺたを掻くとこをみかける。
「てかもう3年生とか先輩に混ざってやってんだからすごいよねー」
他の新入部員はランナーをやったり隅で声を出していたりする。
しかし赤川くんは一人だけ実戦練習に参加している。
「すごいねー」
私はあまり野球を知らないが、たくさんいる野球部員の中でただ一人1年生ながらそういう練習をしている赤川くんに感心した。飛んで来たボールを軽快にさばく姿はかっこいいと思った。
何だか先輩もいる中で一際、彼の背中だけが大きく輝いて見えた。
「翔ちゃんモテるんだよ」
美希ちゃんは不適な笑みを浮かべ私を見る。
「そうなんだ」
「何か女の子に番号聞かれてんのよく見るし。先輩とかも何人かいたよ」
私はそんな経験ないからただ
「へぇ〜」
と感心するだけだった。
長身細身で整った顔立ち、あの切長の目に他の女子は見惚れてしまうのだろう。
それから部室に戻り、他愛もない会話をしながら着替えを済まし学校を後にした。