3.印象は薄め
「宮城…さん?」
長身で腰まで伸びた黒髪をなびかせその生徒は近づく。
「うん」
「あたし近藤美希。よろしくね」
彼女は気さくに握手を求めてきた。
「宮城茜です。よろしくね」
近藤さんは笑顔を見せた。大人びた雰囲気の女の子だな。
「じゃー茜って呼んでいい?」
え。
途端にテンションが変わったので少し驚きながら頷いた。
「よし。茜ってバレーやってたんだよね?あたしもバレーやってたからここでもバレーやるつもり。茜は?」
男勝りに喋る近藤さんは私に問いかける。
「うん。入るつもり」
「ポジションどこ?」
それからバレー談義に花が咲きあっと言う間に休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴った。
「あ、もう終わり?早いなぁ。茜、番号交換しよ」
そう言って携帯を取り出しお互いの番号を交換し席に戻っていった。
(美希ちゃんおもしろい…)
私は早々にできた友達を思い一人にやけた。
★
一体何なんだよ。
近藤って女は。
まぁ話しやすくて俺も接しやすいからいいけどさ。
俺は野球部の練習を見学しに行くためグランドへと歩を進めた。
「しょーいちっ!」
後ろから聞きなれた声で俺を呼ぶ声がした。振り向くとやたら足の速い小さな知り合いが掛けよってきた。
「一緒に行こって言ったじゃん!」
「おせーんだもんしゃあないじゃん」
俺の小学校からの友達、杉正宗が俺の背中を軽く小突く。
授業後を狙ってか朝に続いて様々な部活動の勧誘が再開された。
俺は野球部以外は興味なかったからチラシとか全部断ってきた。
逆にそんな気もないくせに正宗はたくさんのチラシを持ち歩いている。
「マサ、どーすんのさそれ。」
正宗は両手に握り締めたチラシを見て苦笑いした。
「俺こーゆーの断れなくて全部もらっちゃうんだよね。ほら、駅前でやってるどーでもいいビラ配りとかも」
正宗はそれらのチラシを丁寧に折り曲げて鞄の中にしまった。
「向こうもシカト覚悟でやってんだからシカトすりゃいいんだよ」
「でも何かシカトとか可哀想でさ…」
「だからそーゆー時はだなぁ…」
正宗とあれこれ言いあっているとこれも後ろから聞き覚えのある声がした。
「あれー、翔ちゃんじゃん!」近藤美希だ。
入学早々初対面のくせに気さくに話しかけてきた女だ。
別にそうゆう女は嫌いじゃないし美希の事もかなりの好印象だし。俺は正宗と接すると同じくらいの扱いで美希に声をかける。
「ちゃんはやめろっての」
「別にいいじゃん。可愛さアピールだぜ」
いやいや。
アピールって何?
とりあえず呆れた表情を浮かべ返答とした。
「翔ちゃんは野球部見学?」
俺は首を縦に振る。
「あたしらもバレー部見学しに行くんだ」
美希は隣にいた友達の肩を組んだ。
確か同じクラスじゃなかったかな。
「えーっと、み…みや……宮崎?」
「宮城です」
つい思い出せず名前まで間違ってしまった。俺は一人気まずさを感じながら謝罪の意を表して宮城さんに少し頭を下げた。
「同じクラスじゃん!翔ちゃんちゃんと覚えなよっ!」
申し訳ない宮城さん。
「茜、なかなか可愛いくない?」
美希はそう言ってウインクをした。
まぁ可愛いっちゃあ可愛い。
背はあまり高い方じゃないが、ショートヘアで少し茶色がかかった髪は彼女を多少幼く見えさせる。
「美希よりはなぁ」
俺は舌を出しておどけてみせた。
「うぉらっ!でも茜にゃ彼氏いるから残念だったねぇ」
美希は俺がしたように舌を出した。
だからどうした。
俺にとっちゃ宮城さんのプライベートは失礼だがどうでもいいんだよ。
俺は鼻で一息ついてから美希達にひらひらと手を振りグランドへ向かった。
その時は特に彼女にとって特別な感情はなかった。
ただあの笑顔を見るまでは。
俺の心を動かす笑顔を見るまでは。