25.赤黒橙
「海ー!」
目の前に広がる一面の青は、蒸し暑いこの季節の鬱陶しさを一気に拭いさってくれる。
私は美希ちゃんや杉くんのいつにも増して高いテンションに連られ叫んだ。
「早速泳ぎますか」
翔ちゃんは叫びはしなかったが、既に海水パンツを履きゴーグルと浮き輪を装着している。
何かみんな子どもみたい。
「俺が一番〜」
そう言って勢い良く砂浜に駆け出して行った。
「させるかぁぁぁ!」
負けじと杉くんも着ていたタンクトップを脱ぎ捨て翔ちゃんの後を追う。
軍配は杉くんに上がったようだ。
「元気だなーあいつら」
心ちゃんはピアスを外しながら苦笑いしている。
「あたしらも行きますか?」
美希ちゃんに誘われたが私はまだ水着に着替えていないのに気づく。
「あ、私まだ着替えてないや」
「あたしもだから美希先に行ってろよ」
心ちゃんもまだ着替えてないらしく顎で美希ちゃんを促した。
「しょうがない…最初にあたしのナイスバディを見せるのは心惜しいが行ってくるか」
「…最初は汚いもん見せといて綺麗どこは後に取っといた方があいつらも喜ぶだろ」
心ちゃんの毒舌は相変わらずだな。
でも美希ちゃんは自分で言ってるようにかなりのナイスバディ。
「心め…自分も綺麗どこだって言いたいのか?」
「あたしは汚くも綺麗でもないからあんたの後にすぐ行くよ」
心ちゃんはよく見るともう水着に着替え終わっていた。
「茜も早く来なよ。赤川が待ち焦がれてんだろうし」
心ちゃんったら…。
美希ちゃんはかなり露出の多い赤いビキニ、心ちゃんはイメージ(悪い意味じゃないよ)によく合ってる黒いビキニを身に付けている。
二人とも高校生とは思えません。
可愛いすぎる。
そして大人っぽくて。
それにくらべて私は…。
「茜ーっ!早く来なよー!」
既に海で翔ちゃん達とはしゃいでいる美希ちゃんが私を呼んだ。
「は、は〜い」
恥ずかしっ。
とりあえずバスタオル巻いて行くか。
私も海に向かって小走りに駆け出した。
☆
いやー、実に気分がよろしくて。
暑い日はやっぱ海だよな。
俺はゴーグルを付けて潜水しながらそんなことを思っていた。するとあてもなく水中を彷っていると女性の足が視界に入ってきた。
(お、これはこれは…)
俺も男だな。
スラッとした長い脚は細いが筋肉質で、年上の爽やかなスポーツウーマンを想像した。
俺は多少変な期待を抱きつつ顔だけ水面から出した。
「翔ちゃんってば」
目の前にはそう言って下をちょこっと出し、ウインクしてきた美希がいた。
「…」
「何よ」
「いや別に」
「茜からあたしに乗り換える?」
「…勘弁してください」
「殴るぞ」
「僕は暴力的な女性はあまり好きではないです」
「やだぁ〜ん。翔ちゃんったらえっちぃ」
「…ごめん。何か色んな意味で気分悪くなってきた」
「うぉい!」
美希の蹴りが飛んできたが水中なので痛くも何ともなかった。
踵を返し、再び潜水に専念しているとまたもやほっそりとした女性の足が視界に入る。
(美希じゃ…ないな)
俺はさっきと同じ様に海面から顔を出す。
「…」
「あら」
「…何やってんだよ赤川」
「香坂さんっすか」
「…あたしで悪かったな」
「いや、美希よりは遥かにいいっす」
「ど、どういう意味だよ!」
何か香坂さんの顔が赤いぞ。
「水着も似合ってるし」
「…スケベが」
「一応男ですから」
「…まぁそんなもんか」
呆れたように笑った香坂さんに少しドキッとした。
笑った顔可愛いじゃん。
そこらの男はどこに目を付けてんだ。
「…ジロジロ見んなっ!」
「すいませーん」
そろそろ潜水にも飽きたので香坂さんに平謝りして砂浜へ戻ることにした。
(茜…はどこだろ)
周りを見渡しながら砂浜へ上がると、バスタオルを巻いた茜が海岸からイソイソと砂浜へ降りてきた。
(どんな水着着てんのかな……)
俺は生唾を飲み込んで茜を凝視する。
…これじゃ変態だな。
「何恥ずかしがってんのよ」
美希が茜の元に駆け寄る。
「だ、だってぇ…」
「あ〜もう、こんなも〜ん!」
美希は茜が体に纏っていたバスタオルを強引に剥ぎ取った。
「ちょ、美希ちゃん!」
「あら〜、オレンジのビキニなんて可愛いもの選んだわね」
オレンジのビキニ…。
しかもパレオ付き。…可愛いっす。
やばい、上せそう。
「そんな可愛い顔してこの身体は反則だぞっ」
「…ちょっと!」
そう言うと美希が茜の胸を…。
あー。
ダメだこりゃ。
気付くと俺は宿泊先であるホテルの部屋に寝かされていた。
…こりゃ重症だな。
何やってんだ俺。