24.夏の風物詩
残暑が厳しい八月の朝。
外の蝉たちは早起きで俺は目覚ましが鳴る前に目が覚めた。
(蝉…うるさっ…)
腹に掛けてあるだけのタオルケットを退かし、俺は体を起こす。
(出発まであと2時間もあるな…)
今日はマサや美希、香坂さん、それに茜と泊まりがけで海水浴に行く。
出発は10時。
8時に目覚めた俺はとりあえずリビングへ向かった。
「何だ、翔が早起きなんて珍しいな」
リビングの扉を開けると、親父がソファに座って朝刊を読んでいた。
「蝉…うるせーんだもん」
俺は冷蔵庫を開けコーヒー牛乳をコップに注ぎ、口にした。
うめぇ。
「今日旅行だろ?」
「んー」
「誰と行くんだ?」
「…マサ達」
「“達”って他は?」
「友“達”」
「……うまいこと言うな」
そのやりとりの間、親父は一度も新聞から目を離さない。放任主義な赤川家の大黒柱の性格は知ってるから俺もコーヒー牛乳に集中していた。
「とりあえず事故には気をつけろよ」
「ほーい」
軽く返事をして俺は洗面所へ向かおうとリビングの扉に手を掛けた。
「…あと子どもなんか作ってくんなよ」
何言ってやがる。
てか何で女子もいるって知ってんだ。
いや…知らんはずだ。
「その時はよろしく」
俺は至って冷静に冗談で返した。
「無理」
「無理なのが無理」
「無理なのが無理ってのが無理」
「…小学生か」
「社会人です」
俺は黙って洗面所へ向かった。
☆
「朝だよ!」
お母さんにどやされ私は目を覚ました。
時計に目をやると丁度8時を指していた。
「今日美希ちゃんと旅行なんでしょ?早めに支度しなさいよ」
お母さんは私の部屋のカーテンを開けて言った。
「う〜ん…蝉うるさっ」
私はまだ眠たい目を擦りながら洗面所に向かう。
(うわ…髪ぼっさぼさ……)
鏡に映る自分を見て溜め息をつく。
とりあえずシャワー浴びよっかな。
私はそのまま浴室へ向かった。
パジャマを脱ぎ、下着姿になる。
(ん〜…もう少しお腹の肉をなぁ……)
お腹に知らぬ間に滞在している女の敵をつねりながら思う。
(胸は…)
小さくはないけど大きくもないと思う。
サイズで言うと…3つめくらい。…翔ちゃんはどのくらいが好みなんだろ。
ってアホか。
何考えてんだ茜。
私は一人そそくさとシャワーを浴びた。
「そろそろ行く時間でしょ?」
リビングでくつろいでいるとお母さんが洗濯物を手に言った。
「そだね。そろそろ行くよ」
「…事故に遭ったりしないよーに」
「はーい」
「…ホントに美希ちゃんと行くんでしょうね?」
待て。
動揺するな茜。
「当たり前でしょ」
「…お母さんは結構鋭いのよ?」
「行ってきまーす」
私は荷物を持って逃げるように家を出た。
今日翔ちゃんにはあの返事をしようと思う。
考えて考えて出た私なりの結論を。