23.凛
更新が遅れまして申し訳ありませんでした(汗)
夏。
毎日ヒトの平熱程の気温が体力を奪っていく。
人間ってこんなに熱いんだ。
しかしこんなくだらない事をよくこんな状況で思えたものだ。
グランドじゃ選手達が泣き崩れてるってのに。
一回戦負け。
それはあまりにもあっけなく終わった夏だった。
1点差。
たかが1点、されど1点。
私もバレーで嫌というほど経験したからよくわかる。
試合に負けた選手達は試合後のグランドに泣き崩れていた。
普段凄まじく陽気な杉くんも泣いてるのに、背番号6を着けた赤川翔一郎だけは笑顔でナインをなだめている。
悔しいくせに。
泣きたいくせに。
みんなと野球やりたいって思いが一番強いのは貴方のくせに。
泣きたいときは泣いたらいいって言ったのは貴方のくせに。
貴方はいちいちカッコいいよね。
いつも自分より他人本意なんだから。
試合終わって声掛けた時も貴方は笑ってた。
「負けちゃいましたー」
笑って言うかな。
私の方が泣きすぎて逆に貴方になだめられてたし。
悔いが残った貴方はすぐに大学でも野球するって言った。
私は応援するよ。
貴方が何かに没頭してる姿はとてつもなくカッコいいから。
まだ夏休みは始まったばかり。
杉くんの呼びかけで打ち上げをするらしいんだけど、仲の良い美希ちゃんや私も呼ばれた。
「お、来た来た」
待ち合わせ場所である焼肉屋に着くと、入口付近に杉くんと翔ちゃんが目に入った。
それからすぐに美希ちゃんと、あまり翔ちゃん達とは関わりが無かっただろう心ちゃんも到着した。
「あれ、心も?」
「…来ちゃいけねーのかよ」
「あ、俺が呼んどいたよ。心ちゃんも仲良いんだしいいじゃん」
杉くんはそう言って白い歯を見せ笑った。
あ、杉くんちょっと背が伸びたかな。
「んじゃ中に入ろっか」
翔ちゃんの一声で私たちは店内へ入った。
店内は焼肉屋らしい活気の良さに加え食欲を駆り立てる香ばしい薫りがし、悪い気はしない。
元気のいい店員に案内され私たちは座敷席に落ち着いた。
「さ、何食べる?」
翔ちゃんは慣れた手付きでメニューを開き、杉くんとあれこれ言い合っている。
そういえば翔ちゃんの私服姿見るの初めてかも。
いつも遊ぶ時は学校帰りとかだったから何か新鮮。
派手すぎない紫色の上着にジーンズと、至ってラフな格好だ。
首元には質素にならないよう、かつでしゃばらない程度のネックレスもしている。
何着ても似合うんだろうなぁ。
「お待たせしましたー」
いつの間にか頼まれていたカルビやらロースが机上に並ぶ。
「んじゃとりあえずお疲れさんって事でカンパーイ!」
私と翔ちゃんはドリンクバーのジュースで、あとの3人はいっちょ前に生中で乾杯した。
グラス同士がぶつかり奏でる甲高い音色に私は気分が良くなる。
「んじゃ結構前に行こって言ったお泊まり海水浴の事だけどみんな大丈夫っすか?」
美希ちゃんは美味しそうにカルビを頬張りながらみんなに言った。
海か。
そういえばそんな話題出たっけ。
「マジ?このメンバーだよね?勿論賛成だよ」
杉くんは元気良く右手を挙げた。
「おいおい、あたしは何も聞いてねぇんだけど」
「いいじゃん。心はどうせ暇なんだし」
「おめぇと一緒にされることでうまい肉も不味くなるんだな」
「うぉい!」
やっぱこの二人息が合ってるわ。
心ちゃんは身長こそあまり変わってないが、茶色に染め、肩まで伸びた髪の毛が少し大人っぽく感じさせる。
変わったのはピアスの数ぐらいかな。
「俺は賛成だし…翔一は?」
翔ちゃんは少し間を置いてから言った。
「んー…いつやるかによるかな」
「あ、そーか」
何だこの気になる返答は。
「んじゃ翔一の都合に合わせるって感じでいいっすか?」
「いいっすー」
美希ちゃんもそろそろ出来上がる様子だ。
変わんないなぁ美希ちゃんは。
それから私も調子に乗ってビールやチューハイを飲んだりした。
でも相変わらず翔ちゃんはジュースしか飲まなかった。
泥酔し服を脱ぎ始めようとする美希ちゃんを必死に押さえ込んだりしながらも、仲良し同士の打ち上げは終わった。
後日、海水浴の件は打ち上げから10日後にやるというメールが杉くんから届いた。
一泊二日だけの短いお泊まり海水浴。
私にとってこれほど考えて、これほど大切にしなくちゃいけないと思った旅行は初めてだった。