21.声
俺は茜が好きだ。
でもこの気持ちは伝えない。
伝えられない。
別れてすぐの彼女に気持ちを伝えるのは何だか彼女にとって酷な気がして。
さらに考えさせてしまうと思う。
だからこの気持ちは伝えない。
俺の中でそっと閉まっておこう。
あれから俺と茜との関係は何も変わらなかった。
それまで通り会話もしたし、美希やマサと一緒に遊んだりもした。
高校三年になった今でも俺たちは変わらなかった。
「いよいよ明日だなー」
練習後の部室。
明日の高校野球最後の大会を迎えることについてマサと語る事になった。
「なるようになるだろー」
「翔一は昔からそんな調子だな」
「人間そんな簡単に変わんねーよ」
一度確立した人間の性格ってのはそう簡単に変わらない。
いつかやっていたテレビ番組を見て得た情報。
確かにそれは言えてる。
マサだって昔から足の速さ以外何にも変わってない。
足は日に日に速くなってる気がするし。
性格も変わらなければ想いだってそう変わる事はない。
俺はあれからずっと茜が好きだ。
「茜ちゃん応援に来るのかな」
「来るって言ってたぞ」
「よく知ってんなー。さすがストーカー」
「意味が分からん」
マサは俺の気持ちを知ってる。
あの旅行の出来事を俺がマサに伝えたからだ。
マサは冷やかしたりせず、真剣に俺の話を聞いてくれた。
さすが。
「んじゃ翔一が活躍すんのは確定だなぁ」
「まだわかんねーだろ」
「出た。得意の謙遜ですかー」
とりあえずマサの頭を小突き俺は着替を済ませた。
「とにかく、明日は絶対勝つぞ」
「もちろん。俺が塁上駆け回るからちゃんと還してくれよ?」
「任せろ」
そういって俺たちは帰路に着いた。
☆
「ただいま」
俺は居間で寝転がっている親父にそう言い、着替をするため二階にある自分の部屋に向かった。
扉を開け、電気をつける。
大きくはないが寝心地の良いベッドに倒れ込み見慣れた天井をあてもなく見つめる。
(メールでも送ってみようかな…)
もちろん送る相手は一人しかいない。
携帯を開き、メール作成画面の宛先の欄に意中の名前を選択する。
♪〜♪〜
携帯からお気に入りの曲が流れ、新着メールを受信したことを知らせた。
(まさか…)
若干の期待を胸に受信ボックスを開く。
From:美希
Sub:エール♪
本文
練習お疲れぇ♪いよいよ明日だね!!あたしは翔ちゃんらが負ける事なんて考えてないからよっ☆精一杯暴れてこいや親友!!
美希かい。
少し期待はずれな感じがしたが素直に嬉しかった。
感謝と明日への意気込みのメールを作成している途中でまたもや新着メールが届いた。
From:茜
Sub:練習お疲れ様☆
本文
練習お疲れ様(>_<)明日は応援行くから絶対勝ってね!!
うおっ。
茜からのメールで一瞬画面を見たまま固まる。
とりあえず美希に返信し、茜への返事を考える。
(…どうせなら直接言ってもらいたいな)
俺は茜の電話番号を表示し通話ボタンを押す。
何でもいいんだ。
ただ頑張れって言ってくれるだけでもいい。
君の声が聞ければ。
それが俺を励ます言葉なら俺は何だって頑張れる。