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Someday  作者:
18/26

17.果報は…

2日目。

今日はレクリエーションの時間に、全クラス集まって出し物を発表する日だ。

私は朝翔ちゃんに無理矢理起こされ劇の構想の説明を一気に受けた。

寝惚け眼ながらこれまでで台詞をしっかり暗記し、短いが一通りリハも行なった。

その時の美希ちゃんと翔ちゃんの演技力は目を見張るものがあった。

二人とも役者さんになれるよ。

それと台詞と言っても私の場合一言二言しかなく、あとは翔ちゃんと美希ちゃんの独壇場。

本番もリハを一層上回る名演技を見せた二人。

でも一ヶ所だけリハからどうしてもうまくいかない場面があった。

私の台詞なんだけど…どっか変なとこでもあるのかな。


「…おいで?」


その途端に翔ちゃんは頑に拒否をする演技なのだが…。


――ぼんっ


リハの時同様に翔ちゃんは顔を真っ赤にしてその場で固まってしまう。

その後は美希ちゃんがしっかりフォローをし劇は無事(?)に終了した。






「いやー最優秀とまではいかなかったけど優秀賞取れるとはね」


美希ちゃんは表彰式でもらった賞状を眺めて嬉しそうに言った。


「ってか二人とも演技うますぎだよ」


私は羨望の意を込めた眼差しを送る。


「よく分かってるじゃない」


謙遜しないとこが美希ちゃんらしいっていうか…。


「それより、翔ちゃん!本番になってまであれは何?」


美希ちゃんは鋭い目つきを翔ちゃんに向けた。

翔ちゃんは苦笑いをしてほっぺを掻いている。

何だか翔ちゃんが縮んで見える。


「何か朝から変ね」


「別に普通じゃんよ?」


「…昨日の夜、茜と何かあったの?」


あるわけないでしょ。

あのあと翔ちゃんは私達に気を使って離れて寝てくれたんだから。

と言いたいんだが何故か言い出せないでいた。


「ないですよ」


「正直に言ってみろ、コラ」


「ホントにないですってば…」


「怪しいな。言わないとコンクリ詰めにして海に捨てるぞ」


「いや、それだけは勘弁してください大魔王さま」


「…いや、そこは女王さまとかじゃないの?」


美希ちゃんと翔ちゃんのこんなやりとりは私的にかなりツボ。

でもとりあえず翔ちゃんの味方をする。


「美希ちゃんホントだよ?翔ちゃん私達に気を使ってあんなとこで寝てくれたんだもん」


美希ちゃんは横目で私を見て不適な笑みを浮かべた。


「茜、いつから翔ちゃんなんて呼ぶようになったの?」


「う……」


してやったりといった感じで美希ちゃんは目を細めた。


「やっぱ何かしたんでしょこのやろー」


「してねーよ!ちょっとした雑談してただけだ」


そうだ。

今日は翔ちゃんと約束した通り雄也にメール送らなきゃ。

何て送ろうか。

とりあえず無難に『元気?』とかでいっか。


「雑談って…エッチなこと言ったりしてないでしょうね?」


「するわけねーだろ。君の脳内コンピュータは朝からそんなやましい事しか弾き出さないのか」


「一言多いんですけど!」


「かかってきやがれ」


美希ちゃんと翔ちゃんは互いに舌を出しそっぽを向いた。

芸人として生きていけば結構イケるんじゃない?

私は二人をなだめながらも笑みが溢れてしまう。



夜。

私は部屋で美希ちゃんと、この旅行で仲良くなった香坂心こうさかしんちゃんとトランプをしている。

心ちゃんは黒のショートで左の耳には二つほどピアスがついている。聞けば軽音楽部に入っていてバンドをやっているとのこと。

私より小柄で手足も折れそうなくらい細い。


「ちっ…くそったれ…」


色白でモテそうなのだが切長の目とその…言葉遣いの荒さであまり男の子が寄ってこないそうだ。

女の子もあまり近寄らないそうだが美希ちゃんだけはやっぱ別格で。


「だははー!心ババ引いてやんのー!心理作戦に引っかかりよったわい」


「うっさいなー…ぼけなす」


美希ちゃんの明るい挑発に心ちゃんは無表情で棘のある言葉を返す。

そんなことで怯まないのが美希ちゃんだと私は一人思う。


「ババ引いた子が偉そうな口のきき方ね。そんな可愛らしい顔してても男が逃げるわよ?」


「美希と同じで寄ってこねぇから心配すんな」


「くぉらっ!」


結構いいコンビじゃん。

いっそのこと翔ちゃんも含めて三人で…って私は何を考えてんだ。


「そーいや茜。雄也くんにメールしたの?」


そう言って美希ちゃんは私の手札を一枚引いた。


「お、ペアできたーっと」


ハートとダイヤの8を捨て山に嬉しそうに放る。


「…何で知ってるの?」


「ふふん。甘く見ないでよ?あれは寝たフリよ」


「…詐欺師になれそうだよね」


私は深々とため息をついた。

得体の知れない情報網と行動力、それにあの演技力が備われば無くもない、と私は感心すらした。

そう言われてみれば翔ちゃんと話してた時、豪快な寝息は聞こえてこなかった気がする。


「もう…。…まだメールしてない」


「雄也って彼氏?」


心ちゃんの手札から一枚取ろうと手を伸ばしたらババの持ち主にそう問われた。


「うん…。でも全くメールしてないから今更何か…」


私は伸ばした手を引っ込め目的もなく手札に並べられたカードに目をやる。


「ふーん。じゃ今から送れば?」


心ちゃんは側に置いてあったパックのレモンティーをすすった。


「うー、でも心の準備が…」


「翔ちゃんのでこぴんを無にするの?」


美希ちゃんは眉を寄せて少し声を張って言った。

一部始終聞いてた訳か。


「……わかったよ」


私は手札を見られないように床に伏せ、ポケットから携帯電話を取り出した。


久しぶりだな。

メール作成画面に雄也の名前が出るなんて。


「何て送るの?」


心ちゃんが身を乗り出して携帯の画面を覗き込む。


「そんな…普通に元気かって」


「大人しいね」


心ちゃんは可愛らしくクスッと笑った。

今の心ちゃんを男子が見たら確実にポイントは上がっただろうな、と不謹慎なことを考えつつメールを作成する。


『久しぶり♪元気にしてますかぁ?』


そんなちんけな内容を打ち終えて送信ボタンを押す。


「あんたねぇ、メル友じゃないんだからもっと何かあるでしょ」


心ちゃんと同じように画面を覗き込んでいた美希ちゃんが耳元で唸った。


「でも…こんくらいが無難じゃない?」


「無難って…彼氏に気なんか使う必要ないじゃん」


「あたしもそう思うな。長いこと付き合ってんだろ?連絡とってないって言ったって急に距離置く必要ねぇんじゃねーか?」


美希ちゃんと心ちゃんの言葉がグサグサと私の心に突き刺さる。

そりゃもう容赦なしに。


「お、なかなか気が合うな香坂くん」


「おめぇは一体何キャラなんだよ」


そこからしばらく美希ちゃんと心ちゃんの言い合いが始まり、私はメールどころじゃなくなっていた。


そんな時。


――♪〜♪〜


私の好きなアーティストの曲が流れ、場が一瞬氷ついたように止まる。


「あたしもその曲好きー!」


「いいよねぇ!」


「そんなんどうでもいいだろ!とりあえずメール見ろ!」


心ちゃんに叱咤され私は渋々携帯を開く。


何だか緊張する。

合格発表の通知が郵便で届いた時、一番に開ける時みたい。


私は唾を飲み込み、ゆっくりと受信ボックスを開いた。



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