16.final weapon
「おやすみなさい」
「おやすみー」
俺は彼女達に遠慮して、窓際に設置してある机と椅子をうまいこと繋げて寝ることにした。
しかし宮城さ…茜は可愛いな。
あんな彼女をほっとく彼氏の気持ちがわからん。
って茜は友達に散々言われただろうな。
まぁ一理あるか。
とにかくメールするって言ってたし何か変わるだろ。
俺は瞼を閉じそんな事を思いながら薄れゆく意識に茜と彼氏の事を思っていた。
「翔ちゃん?」
ん?
もう朝?
にしては外は暗いけど。
「どーした?」
体を起こし部屋の方へ視線を向けると、茜が眉を寄せ困ったような表情を浮かべていた。
「…何か、緊張して寝れなくてさ…」
「そりゃーな。とりあえず明日の事は考えずに今日は寝たら?」
すると茜は首を振って俯いてしまった。
気のせいか顔が赤かったような。
暗闇に目も慣れたけど見間違いか。
「…違う。その翔ちゃんと一緒だから…」
見間違いでなかった茜の赤くなった顔は妖しい上目使いで俺に視線を送った。
「はい?」
あまりのことで素頓狂な声を出してしまった。
「その…一緒に寝て欲しいんだぁ…」
無理無理無理無理。
そんなことできませんよ。
理性が吹っ飛びそうになるのを、茜に見られないように自分の太股をつねり抑える。
「男と女が一緒に寝たら危ないって親父が…」
出来る限り平静を装って言ったつもりなんだが茜はクスクスと笑っている。
「やっぱ翔ちゃんは面白いなぁ」
「だから…なっ!頑張って一人で寝よう」
茜は相変わらず含み笑いを続けていたが、その内さっきまでの妖艶な表情に戻った。
「翔ちゃんならいいかな…」
何が!?
「…おいで?」
俺の体は脳の行くなという指示を全く無視して茜の隣へと向かった。
「あんなとこじゃ風邪引いちゃうよ…」
茜は掛け布団を持ち上げながら少し布団の端に寄った。
俺の体は誘われるがまま、茜の体温で温まった布団の中に収まった。
「あったかい?」
俺は一つ頷く。
「ふふ。私も」
あどけなくて可愛いいつもの笑顔は、今現在影を潜め妖しげな誘い笑いへと変貌を遂げている。
「ここは熱いくらいなんだけどね…」
そう言った瞬間、俺の五感の一つがとてつもなく冴えわたった。
手に柔らかい感触。
これは…。
「ドキドキしてるの、わかる?」
手のひらの柔らかな感触から早めの鼓動が伝わってくる。
俺は何度も頷いた。
下半身が熱い…。
「でも…服の上からじゃわかりにくいか」
目の前の茜は俺の手を少しの間どけて、あろうことかジャージを脱ぎ、小麦色の肌が露になった。
「恥ずかしいから…あんまり見ないでね」
そしてまた俺の手を元に戻す。
目は直視できないから首筋に視線を落とす。しかし僅かに汗ばんだ鎖骨が妙に妖しくて視線を落とす。
しかしその先には鎖骨なんかよりもっとすごいのが現れた。
俺の手が見える。
ということは…。
体温が一気に上がった。
豊満な胸が視界に入り釘付けになる。
俺の大きめの手でも少し溢れるくらいの大きさだ。
『小さな体して出てるとこは出てる』
マサの言葉を思い出して一人納得する。
「あんまり体には自信ないんだぁ…」
そんなことないっすよ。
俺はつい力が入ってしまい、茜の胸においてある手がピクリと動く。
「んっ……」
茜は日常では決して出さないような喘ぎ声らしき声を発した。
そのせいで俺の理性は完全に吹っ飛んだ。
「翔ちゃん…いきなり…」
俺は茜の可愛らしい水色のブラを乱暴に剥ぎ取り露になった乳房を揉みしだく。
「…んんっ…」
俺は茜の首筋に舌を這わせその都度漏れる茜の吐息を聞きながら胸を愛撫する。
「もう…いいよ?」
涙目ながら俺を見つめる息の荒い茜に俺は―――――。
「翔一郎っ!」
その声に俺は机と椅子を並べただけの簡易ベッドから勢いよく落ちた。
「…ってー」
「何涎垂らしてんのよ。それにそれは何?」
床に打ち付けた腰をさすりながら顔をあげるといつもより大迫力の美希が立っていた。
「それって…」
「翔ちゃんの最終兵器よっ!」
何だか美希が恥ずかしそうにしてるから俺は寝惚けた頭を振って辺りを見渡す。
「あら…」
「あら、じゃなくて!どんな夢見てたのっ!」
あぁ。
ありゃ夢か。
もったいな…夢でよかったな。
俺としたことが茜をあんな風にするなんて最低だな。
俺はすぐさま思考回路を切り替えて気持ち悪いくらい当たり前に言った。
「あぁ…そんなんじゃねーよ」
嘘つきめ。
「男のこれは生理現象だよ」
「いいからバカみたいに落ち着いてないでトイレ行けば?」
俺は促され…いや強制されてトイレへ駆け込んだ。
――ピーン
俺の頭が冴えわたり何かを閃いた。
(これだな…)
俺は用を足し洗った手をシャツで拭い部屋に戻ると一目散に茜の元へ駆け寄った。
茜はまだ寝ていたのだが、お構いなしに話しかけた。
「茜っ!全く手付かずだった劇の構想が固まったぞ!」
すると茜は
「うーん…」
と唸って目を擦りながら上半身だけ起こした。
「おはよ……何?」
「だから劇の……」
俺は少し開けたジャージのファスナー越しに見える茜の谷間に一瞬目が奪われてしまった。
――ぼんっ
俺は一気に体温が上がるのを感じた。
多分顔は真っ赤なんだろーな。
「…劇?」
「ん…そう、劇の…あれが…」
「いい精神科の先生教えよか?」
俺は美希の言葉に否定も肯定もせずただ俯いた。
悪い夢を見たもんだ…。