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Someday  作者:
16/26

15.大きな独り言

誰だろ。

っていうかどっちだろ。


「宮城さん?」


ぐは。

赤川くんだったか。

でも声のする方が違う。

私は布団から顔だけを恐る恐る出した。

すると赤川くんが自分の布団の上であぐらをかいて座っていた。


「緑ちゃんならもう行ったよー」


私は暗闇の中、扉の方を見るとそこには閉ざされた扉が静かに佇んでいた。


「そこのお嬢さんは寝ちゃってるし」


私の方を指差して赤川くんは少し笑った。

視線をやや下に持っていくと美希ちゃんがすやすやと、いや鼾とまではいかないが多少大きめの寝息を立てながら眠っていた。


「美希ちゃんか…」


「何が?」


「いやっ!こっちの話!」


赤川くんはまた笑った。


「赤川くんは眠くないの?」


「俺?そりゃ酒飲んでないからねー」


私は赤川くんの語尾が少しだけ伸びる話し方がどことなく好き。


「あれ?そうだっけ?」


「うん」


そう言って赤川くんはポカリの缶を私に見せた。

じゃそれを知ってたら私は布団の中でドキドキしなくて済んだわけか。

一人でバカみたいだな。

しかもドキドキしてた相手が美希ちゃんだし。


「宮城さんは眠くないの?」


「私はちょっとしか飲んでないし」


「でも梅酒2缶半は飲んだね」


「あう…」


たじろぐ私を見て赤川くんは三度笑った。


「そういえば赤川くん劇……」


「あ、今更赤川くんなんて呼ばないでよ」


「じゃ何て呼べばいい?」


赤川くんはほっぺを掻きながら

「うーん」

と唸っている。


「…ダーリン、とか?」


「…却下」


赤川くんはさっきより派手にどっと笑った。

からかわれてんな私。


「ははは。嘘だよ。宮城さん彼氏いるしね。美希ちゃんと一緒でいいよー」


お腹を抱えてうっすらと涙まで浮かべて笑ってら。

そんなとこ可愛いんだけど何だか俯に落ちない。


「翔ちゃんね。じゃ翔ちゃんも宮城さん、ってのは無しね?」


「何て呼ぼうか?」


私はさも当然のことかのように言い切った。


「ハニー」


「却下ー」


お互い予想していたのか二人して大笑いした。


「あー面白っ。茜でいいよっ」


「茜…」


急に真剣な顔と低い声で翔ちゃんが言うものだから私は無意識に背筋が伸びてしまった。


「はい?」


「その…彼氏くんとはうまくいってんの?」


普段翔ちゃんとはそんな話なんかしないから変な緊張が私にはあった。


「ぼちぼちかなー。それより劇…」


「美希ちゃんが茜たちうまくいってないって言ってた」


予想だにしない展開に私は切り返すことができずにいた。

何俯いてんだ茜。


「別れるの?」


翔ちゃんはポカリを一口飲んでから心配そうに私を見つめた。


「んー…もうずっとメールこないし自然消滅待ち?みたいな」


私は顔をあげ誰でも苦笑いって分かるように笑ってみせた。

翔ちゃんの表情は変わらず、ずっと私を見つめている。


「茜からメール送らないの?」


「だって…何か…」


翔ちゃんはまた一口ポカリを飲む。


「意地っ張りなんだね」


ちょっとムッとした。

でも当たってるから反論できないよ。


「こっからは俺の独り言だから」


翔ちゃんはそう言ってポカリを一気に飲み干した。


「返事が返ってくるかは別として何か送った方がいいと思うな。彼氏さんだって意地張って送んないのかもしんないし。別れ話が出ないんなら、少なくともお互いに嫌いってわけじゃなさそうだし。とにかく、何かしないとこのままズルズルいってもしょうがないと思う。」


明らかに独り言ではないが私は黙って翔ちゃんの言葉を聞いた。


「野球に例えちゃわかんないかもしんないけど…無死満塁で打者がものスゲー強打者でも投げなきゃいつまでたっても始まんないんだし。投げたら意外に抑えることが出来るかもしれないし。茜たちの今の関係もそうじゃないかな。言わなきゃ始まんない、伝わんない。結果がどうとか、それは出てから考えればいいと俺は思うな」


心に響くってのを実感した。

翔ちゃんはそこまで言い終えると恥ずかしそうにほっぺを掻いた。

独り言じゃないじゃん。


「てゆーか野球って先を読むスポーツでもあるんだけどね。“たられば”じゃあんまよろしくないし」


自嘲気味に笑う。

でも何だか私の気持ちにかかっていた曇が少しずつ晴れていくような感じがした。

何かちょっと楽になったかな。

感謝感謝。


「…ありがとね。何か気持ちが楽になった。明日にでも何かしらメール送ってみる」


笑顔で言う。

そしてもう一言。


「独り言だからね」


翔ちゃんは嬉しそうに笑った。

そして赤ちゃんがハイハイするかのように四つん這いで私の方へ近づいてきた。


「ちゃんと送れる?」


距離が近い。

月明かりのみで薄暗い室内だが、こう近いとはっきりと表情が見てとれる。


「でもいざ送ろうとなると勇気が出なくなるかも…」


「…だろうな」


翔ちゃんは少し笑ってから私に顔を近づける。


「勇気が出る魔法、知ってる?」


顔が熱い。

ていうか全身が熱い。


「…知らない」


「教えてあげよっか?」


大体予想はついたが、こんな展開になるとは…。

私はそう思いながらも一つ頷いた。


「じゃー目…瞑って?」


来たー!

彼氏がいるのに、彼氏がいるのに!

どうしよどうしよどうしよ…。

私は言われるがまま目を瞑った。




「いたーい!」


私の額に激しい痛みが襲った。


「あはははは!」


目を開けると目の前でお腹を抱えて笑い転げている翔ちゃんがいた。


「でこぴんー!?」


「野球部ではこーすんの」


「絶対嘘っ!」


「嘘じゃねーよ」


大爆笑する翔ちゃんを見て憤りを感じたが、確かに勇気が湧いてきた気がする。

優しいな翔ちゃん。



私は貴方の優しさに何度救われるのだろう。



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