13.GREEN
夜。
お世話になる旅館の方々への挨拶、その後旅行のテーマに沿った学習などを経て先ほど夕食を済ませた。
もちろんバイキングだったわけで。
私は部屋で一人、劇の構想を練っていた。
(ん〜…)
一応今日の予定に一段落ついたため、制服からジャージに着替えシャーペンをクルクル回しながら、それをたまに耳にかけたりして考えていた。
「茜、行くよっ!」
美希ちゃんがペットボトルのジュースと少量のお菓子を持って部屋に駆け込んできた。
「基本美希ちゃんって落ち着きないよね」
「あたしが落ち着いてたら男達がうるさいでしょ?それより早くっ」
「…はは。ってどこに?」
すると美希ちゃんは妖しげな笑みを浮かべた。
でも大体予想はついてた。
「翔ちゃんとこ。今先生たちみんなで会議中だし今しかないぜ」
そう言って親指を立て私の手を引く。
もちろん女子が男子の部屋に行ったりするのは禁じられている。
その逆なんかなおさら。
赤川くんの部屋まで行くのには、先生達が交代で見張りをしている階段を通らなければならない。
狙うなら先生が交代する瞬間。
見張りの先生は次の見張りの先生を呼ぶため一瞬だけ警備が薄くなる。
狙うのはそこ。
部活中と同じくらい真剣な顔をして美希ちゃんは言った。
「ちっ…こんなときに限って見張りが緑ちゃんだとは…」
美希ちゃんは小声でそう言い唇を噛んだ。
緑ちゃん、って言うのは私たちの体育の教科担任でものすごく厳しい男の先生。
可愛い名前とは裏腹にとてつもない体躯をしてる。
自分の筋肉をアピールするためにわざと小さめのシャツを着てるとかなんとか。
階段の踊り場で仁王立ちしている緑ちゃんを見つからないように監視する。
見張り交代まであと10分。
「緑ちゃんだと少しハードルが高いわね」
少しため息をついた。
「鈴江せんせー!」
すると下の階から杉くんの高い声が聞こえた。
ちなみに鈴江先生とは緑ちゃんのこと。
「おぉ、杉か。どうした?」
仁王立ちしていた緑ちゃんは踊り場から姿を消し杉くんの元へ向かった。
「僕の部屋のトイレ詰まっちゃったんですけど」
「どんだけ出すんだお前はー」
「多からず少なからずです」
「ぶはは。しかし健康でよろしい」
どうやら杉くんの部屋のトイレが詰まってしまったらしい。
私と美希ちゃんは緑ちゃんがいた踊り場まで静かに降りて行き、手摺の陰に隠れて状況を見守る。
杉くんは私たちに気づいているようで、チラチラこちらに目を向ける。
「もしかして杉くん…」
「気のきく坊やだこと」
杉くんが緑ちゃんの手を引きながら部屋へと誘導する。
その後を追うように私たちも見つからないようにコソコソと後をつける。
「せんせー直してー」
「すぐ直してやるから待ってろ」
「いや、そんなに早くなくてもいいってかむしろチンタラ直して」
「…何故に?」
杉くんは緑ちゃんが部屋に入ったと同時に、曲がり角に身を隠していた私たちの方を見てウインクした。
「今ね…!」
そう行って私たちは一気に廊下を駆け抜け、杉くんの部屋の手前、目的地とする赤川くんの部屋へと駆け込んだ。