10.ライバル?
旅館 王鶴。
これからお世話になる旅館だ。
高い垣根に囲まれた旅館は全て木製で和を存分に施した綺麗な宿といった印象をうけた。
時刻は正午。
生徒は各部屋に案内され荷物を置いて、食堂にて昼食をとるようにと指示された。
俺はお腹が減っていたし隣の部屋の正宗を誘って食堂へ向かった。
「バイキングらしいよ」
「んじゃ食い放題だな」
「しょーいちってそんな細い身体しててよく食うもんな」
他愛もない会話をしていると直に食堂へ着いた。
かなり広い食堂の中心付近にこれでもかってくらいの豪華な料理が並んでいた。
和食を中心にデザートやケーキなどもあった。
俺は溢れ出しそうな涎を必死に飲み込み食事にありつく。
「マサ、この唐揚げ食ってみ」
「…ん〜、うまいっ!てか全部うまい!」
「翔一郎…くん」
正宗と夢中で料理を貪っていると、ふいに後ろから声を掛けられた。
見覚えのある顔。
「覚えてる?」
「あぁ…」
背中まで伸びたサラサラの茶色い髪、身長は高からず低からず。
綺麗な二重瞼に大きな瞳は吸い込まれそうなほど澄んでいる。
同じ中学でいろいろとあった高村樹だ。
「久しぶりだね…こうして話すの」
「そうだな」
「ちょっと二人で話さない?」
樹はそういって申し訳なさそうに正宗を見た。
「…あ、今度はあのメシ食ってみよー」
視線に気付いたのか正宗はそそくさと離れていった。
「あの人も野球部?」
「あぁ」
「ふふ。可愛い子だね」
「童顔だからな」
「翔一郎くんだってなかなか可愛いわよ?」
「よせやい。首筋が痒くなる」
☆
「あら〜、翔ちゃん先に取られちゃったね」
美希ちゃんが眉をひそめて言った。
何をしてるんだ私は。
赤川くんと楽しげに会話する女子を大きな柱に隠れて観察している。
「同じ中学なのかな?」
「あたしも知らないなぁ。よし、今度探りを入れとくか」
そう言う美希ちゃんの右手には、溢れんばかりの料理が乗ったお皿がある。
それを時折頬張りながらも視線は二人から離さずにいた。
無論美希ちゃんが発見し今の状態に至るのだが。
「茜、どうすんのよっ!」
美希ちゃんは口の中に何か含みながら私の背中を叩く。
手で唐揚げ等をつまんでそのままの手で私の背中を。私は制服が心配になった。
「どうって…私はただ劇のリハやるか聞きたいだけだったし、それにまだ時間あるから大丈夫だよ」
私は微笑んで不機嫌そうに料理を口いっぱいに頬張る美希ちゃんに言った。
「さすが翔ちゃん。敵は予想以上に多いな」
美希ちゃんはチラッと横目で私を見て微笑した。
「だから私はっ……!」
「茜っ!翔ちゃんとあの女子がどっか行くよ」
「えっ!」
突然だったので声が裏返ってしまった。
見ると先生達の目を気にしながらも、隙を見て食堂を出る二人が目に入った。
「怪しいな…」
「トイレかもよ?」
「何で男女が一緒にトイレ行くのよっ!」
「…具合が悪いのかも」
「さっきまで元気に食べてたのに?」
「…毒とか」
「殺す気か」
そして私は美希ちゃんに引っ張られ、二人の後を追う羽目になった。
でも何だろう。
私の中で焦りなのか不安なのか言い表しにくいモノが込み上げている。
ただの友達でありますように。
自然とそんな祈りが頭に浮かんでいた。