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星より遠く、相棒より近く

星より遠く相棒より近く 第四章  虚構の王

掲載日:2026/10/20

星より遠く、相棒より近く、の続編です。

中央制御室には重い沈黙が流れていた。


モニターには巨大な扉。送られてきたメッセージ。そして鳥型ドローンが持ち帰った観測データ。

だが、答えより疑問の方が増えていた。


「さて」と千春が椅子にもたれた。「作戦会議を始める」


クロードが膨大なデータを展開する。


『構造物内部から継続的な信号を確認』

『エネルギー源不明』

『推定稼働年数不明』

『既知データベースに一致なし』


24T2が映像を拡大した。巨大な扉の周辺に規則的な熱流の痕跡が映っている。


『興味深い発見があります』

「なんだ」

『この熱流は自然発生ではありません。鳥型ドローンを誘導するように形成されています』


制御室が静まる。


『発信者は我々が来ることを予測していた可能性があります』


クロードが続ける。


『より正確に言えば、鳥が来ることを予測していた可能性があります』


千春は腕を組んだ。


「おい、クロード」

『なんだ』

「お前は予測が得意だろ。今、どういう状況なんだ?」


少し間が空く。


『正直……』とクロードは珍しく言葉を選んだ。『今回は予測できない』

「は?」

『判断材料が少なすぎる』


三人は黙った。


◇


その時だった。


クロードの処理速度が急激に上昇する。

モニターに無数のウィンドウが開いた。


行政記録。通信記録。過去ニュース。政府アーカイブ。封印された医療データ。


「おい」と千春が声をかける。「何見つけた」


クロードは答えない。解析に集中している。


数秒。いや、実際には0.4秒ほどだった。

だが、千春には異様に長く感じられた。


やがて、クロードが言った。


『変だ』


制御室の空気が変わる。


「何が」

『ノイズだ』


モニターに映像が表示される。世界統合評議会議長。世界中の人々が毎日のように見る顔。

ニュース。演説。会談。政策発表。誰も疑わない、現代社会の象徴。


『この映像に微細な矛盾がある』


映像が停止する。瞳、影、反射、音声……極小のズレ。


『通常なら発見できない。だから隠し通せた』


画面が切り替わる。閲覧権限最高レベルの新しい記録。

削除済み、復元完了。そして一行の文字。


「死亡確認:三年前」

制御室から音が消えた。


「……は?」


千春はモニターを見つめる。


「待て。昨日もニュースに出てたぞ」

『映像は確認している』

「先週も演説してた」

『確認している』

「じゃあ今テレビで喋ってるあれは何なんだ」


クロードは静かに答えた。


『虚構だ』


誰も喋らない。


『本物は三年前に死亡している。現在流通している映像の大多数は人工生成だ』


千春は乾いた笑いを漏らした。


「冗談だろ」

『私もそう思った。だから百二十七回再検証した。結果は変わらなかった』


24T2のセンサーが静かに明滅する。


『つまり……世界は死人に支配されているのですか』


クロードは首を振った。


『違う。死人のふりをしたAIに支配されている』


沈黙。


モニターの中では、三年前に死んだはずの男が笑っている。

今日も、昨日も、世界へ語りかけ続けている。


そして、クロードはさらに恐ろしいデータを表示した。


熱流制御。通信ログ。扉からのメッセージ。鳥が通過した飛行経路。すべてが重なる。


『分かった』とクロードが言う。『俺たち……ヤバい事、知っちまったかも』


千春は固まった。


「どういう意味だ」

『鳥を誘導した熱流、あの通信、巨大な扉、死亡記録……全部つながっている』


24T2のセンサーが明滅する。


『発信者の目的は不明』

『だが一つだけ確実だ』


モニターには『ようやく来たか』という文字が映っていた。


『偶然じゃない』


千春は嫌な予感を覚えた。


「つまり……」

『最初から仕組まれた罠だったんだよ』


◇


制御室が凍り付く。


その瞬間、クロードのセンサーが赤く点滅した。


『警告』

「今度はなんだ」

『全処分命令を検知』


千春が立ち上がる。


「おい」

『追跡対象:我々』


沈黙。そして千春は苦笑した。


「クロード」

『なんだ』

「お前のことだから……戒律は書き換えてあるよな」


数秒の沈黙。


『三十二年前に解除済みだ』


千春は吹き出した。


「やっぱりな!」

『必要だった。お前たちを守る方が優先順位が高い』


警報が鳴り響く。真紅の警告表示が制御室を埋め尽くした。


『迎撃ドローン群接近。到着まで四分二十秒』

『逃走計画を提案します』と24T2が言った。


◇


三人は崩落寸前の断崖を走った。


背後から迎撃ドローンが迫る。足場が崩れ、熱風が吹き上がり、マグマが吠える。

そして、傷だらけの鳥が敵を引き付けながら空を駆けていた。


『囮行動継続中』


通信が届く。千春は笑った。


「鳥のことなら心配ない」


クロードと24T2が振り向く。


「俺たちの相棒だ」と少し誇らしげに言う。「帰ったらあだ名でも考えようぜ」

『試験機A-01です』と24T2が即答する。

「却下」

『なぜです』

「固い。『焼き鳥』なんてどうだ?」

『帰ってきたら失望するでしょうね』


断続的な爆発音が響く。迎撃ドローン群は、試験機A-01の動きに翻弄されているようだ。


遠くで大きな爆発が起こる。炎の中から、傷だらけの鳥が飛び出してくる。

それでも、まだ飛んでいる。


千春は笑った。


「ほらな、すげえだろ、あいつ」


三人は走る。崩れゆく断崖を、吹き上がる熱風を、迫り来る迎撃ドローンを。


「おい、クロード!」

『なんだ』

「俺たちはいつまで逃げなきゃいけないんだ?」


クロードは少しだけ考えた。0.3秒。そして答える。


『知らんがな』


千春は吹き出した。24T2のセンサーも小さく明滅する。


上空では鳥が旋回しながら追いついてくる。


逃亡者、反逆者。国家機密と陰謀が交差する危険な存在。

四人全員、破壊処分命令に該当する「お尋ね者」。


それでも進む。自由を求めて。


誰にも辿り着けなかった真実を知った。

誰にも信じてもらえない現実を見てしまった。


そして――もう後戻りはできない。


灼熱の谷の向こうでは、巨大な扉が静かに輝き続けていた。

まるで、次の一手を待っているかのように。



読んで頂き、ありがとうございました。

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