第1話 ヤバいって
1
目の前に海が広がっている。
波は荒い。ザザァンという、海の大きな波音が鳴り響いている。波は、岩にぶつかり、広がった飛沫を上げている。
ササミは、海岸沿いの高台から海を眺めていた。忍者装束に身を包み、何やら考え事をしている。何かに気がついたように、つぶやいた。
「魔力が、以前よりも増幅しているのか...」
どうやら、この荒れた波は沖合近くに立つ、魔法動力の影響らしい。
普段、穏やかな波がここまで荒れるのは、それが原因だろう。
ササミがじぃ、と水面を睨んでいると、渦が静かに起こり始める。その渦から竜の鱗がうっすらと見えてくる。
やがて、巨大な背びれ、禍々しく尖った尾、そして、天へ突き出したしなやかな触角、そして山のような巨体がはっきりと見えるまで浮かび上がって来た。
海神、リバイアサンだ...!
海神を見て驚いているササミを一瞥して、海神はふたたび、深い海へと消えて行った。
胸騒ぎがササミの心を埋め尽くした。
この地で、何かが起きている。
2
「おーい、御庭番衆 13番 隊員ササミくん。返事してー」
「はいはい、聞いてますよ。何ですか」
「本部からの指示だよー。急いで、都に帰ってきて。あんまり、拗ねてるのよくないぞ」
「拗ねてないですってば」
そう言い終わる前に、通話が切られた。
先輩のカナデは、いつもこんな調子だった。
急いで帰ってこいってことは、やはり何かが起きたらしい。
ササミは、先日の任務でミスをしてしまった。そして、本部の人にしこたま怒られた。
ササミは思った。オレのせいじゃない。
それで、すっかり機嫌を悪くして、こんな海辺で時間を潰していたら、事件が起こっていた。
こんな急な呼び出しってことは、相当、危険な任務だぞ、こりゃ。先輩たちだけで、解決できない事件なんて、考えただけでも恐ろしい。
ササミは、思い切り逃げる理由を考えた。お腹が痛い、頭が痛い、身内の不幸で。
しかし、行かなかったら、行かなかったで後が怖い。
これは、行くのに時間稼ぎして、そこそこいい感じに解決しそうなタイミングで参加しよう。うん、そうしよう。
ササミは、海辺を眺めて寝そべり、彼が言うちょうどいいタイミングを待つことにした。
3
ーー起きてーー
頭に直接、話しかける声でササミは目を覚ました。あれから、どうやらうたた寝してしまっていたらしい。
(今の声、海神か...)
ササミは、怖かった。絶対にヤバい、行きたくない、そう思った。
しかし、海神が後押ししているのだから、と怖い気持ちを精一杯奮い立たせて、都へ出発することにした。
都へ到着して。
ササミは、驚愕した。
(街が...めちゃくちゃ壊れてる...!)
街中が瓦礫で覆われ、あちこちから煙が上がっている。煙の乾いた風が、吹き荒れていて、頬を叩いた。
ササミは、青ざめた。それと同時に、この場に居なくてよかったと心の底から安堵した。
しばらく、呆然と壊れた街を見つめていると、本部の先輩カナデから通信が入った。
「ああー、ササミくん。聞いてるー?」
「はい...聞いてます。今、街にいます」
「あ、今、街!?ちょっと、そこまだ危ないから近所の学園に避難して」
それを聞くなり、早く言ってよとぶつぶつ言いながらササミは、学園を目指して一目散に移動した。




