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この村、全員ラスボス経験者でした。 〜もう二度と世界を救いたくない元最強たちのスローライフ〜  作者: にる


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近づかなかった森

村の外れから、森が見える。


近い。

でも、触れない距離。


朝の光を受けて、

木々の影が揺れている。


風が吹く。

葉が擦れる音。


いつも通りだ。


それなのに、

今日は目が離れなかった。


ユウトは、

用もなくその場に立っていた。


行く理由は、ない。

行かない理由も、言葉にできない。


ただ、

「今日は、やめた方がいい」

という感覚だけがある。


畑から戻る途中のガイルが、

ユウトの視線に気づいた。


森を見る。

ユウトを見る。


それだけ。


「行かないのか」


質問でも、命令でもない。


「……行きません」


即答。


ガイルは、何も言わずに頷いた。


それで終わり。


昼前。


森の方から、音がした。


枝が折れる音。

獣か、人か。


分からない。


誰も、確かめに行かない。


村人は、

聞こえなかったみたいに作業を続ける。


慣れている、というより、

決めている動きだった。


昼。


宿の裏。


アーシャが、洗濯物を干している。


「さっき、音しなかった?」


ユウトが聞く。


「したよ」


即答。


「でも、今日は違う」


「……違う?」


「近づく音じゃない」


説明は、それだけ。


ユウトは、それ以上聞かなかった。


午後。


鍛冶場。


ドラムが、刃のない鎌を研いでいる。


研ぐ音が、鈍い。


「森、行かないんですか」


ユウトが言うと、

ドラムは手を止めずに答えた。


「今日は、入らない日だ」


「決まってるんですか」


「残ったら、そうなる」


残る。


その言葉に、

井戸の縁を思い出す。


夕方。


森の影が、長く伸びる。


村の端まで、届きそうになる。


一瞬だけ、

足が前に出そうになる。


踏み出せば、

何かが始まる気がした。


それが、

一番危ない。


ユウトは、

かかとに力を入れた。


止まる。


風が、影を揺らす。


何も起きない。


夜。


窓から森は見えない。


闇に溶けている。


それでも、

昼間より存在を感じる。


近づかなかった。


それだけの一日。


でも、

それで十分だった。


ユウトは布団に入った。


今日は、

物語に入らなかった。


それが、

正しい選択だったと、

体が先に知っていた。


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