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この村、全員ラスボス経験者でした。 〜もう二度と世界を救いたくない元最強たちのスローライフ〜  作者: にる


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残った場所

朝、井戸の周りは静かだった。


人はいる。

水も汲まれている。


でも、昨日の場所だけ、

誰も近づいていない。


ユウトは、その距離に気づいた。


無意識だ。

誰も指示していない。


なのに、避けている。


桶を下ろす音がする。

綱が軋む。


いつも通りの作業。


でも、昨日男が立っていた縁だけ、

足跡が消えていない。


土が、少し固い。


踏み固められた跡。


「……残ってる」


声に出してから、後悔する。


ガイルが、畑の方から来ていた。


足跡を見る。

何も言わない。


しゃがみ込んで、土に触れる。


指で、軽く押す。


「ここは、踏むな」


短い。


「……昨日だけじゃない?」


「違う」


即答。


「何回か、ある」


何回、とは言わない。


ユウトは、数えなかった。


昼。


宿の前。


人は集まるが、

井戸の話は出ない。


出そうになって、逸れる。


視線が、揃って逸れる。


揃っていることが、

逆に不自然だった。


アーシャが、ユウトに水を渡す。


「喉、渇いてるでしょ」


「……はい」


「今日は、井戸使わない方がいい」


「理由は……」


「理由を聞く日は、後」


即答。


ユウトは、頷いた。


午後。


鍛冶場の裏。


ドラムが、地面に線を引いている。


木炭で、薄く。


曲がっている。

まっすぐじゃない。


「それ、何ですか」


「位置」


「……何の?」


「残る位置」


それ以上、言わない。


線の内側に、何も置かない。


踏まない。

跨がない。


ユウトは、自然に距離を取っていた。


夕方。


広場。


人はいる。

話している。


でも、中央だけ空いている。


昨日より、少し広い。


広くなったのか。

避ける人が増えたのか。


分からない。


分からないまま、

そこを見てしまう。


一歩、近づきかける。


胸の奥が、ざわつく。


「……やめとく」


独り言。


その瞬間、

風が通り抜けた。


何も起きない。


それが、逆に不安だった。


夜。


部屋に戻る。


窓の外を見る。


井戸は、見えない。


それでも、

そこにある感覚だけが残る。


踏まれなかった場所。

越えられなかった線。


残るのは、

出来事じゃない。


「場所」だ。


ユウトは、そう思った。


理由は、分からない。


ただ。


明日も、

誰かが避ける。


それだけは、

確信に近かった。


布団に入る。


目を閉じる。


今日は、

自分は何もしていない。


それでいい。


越えなかった場所が、

まだ、守られている。


ユウトは、

そう信じることにした。


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