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この村、全員ラスボス経験者でした。 〜もう二度と世界を救いたくない元最強たちのスローライフ〜  作者: にる


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避けられる中心

朝は、静かだった。


鳥の声はある。

風もある。

でも、人の声が少ない。


ユウトは宿の裏口を出て、広場の方へ歩いた。


足音が、少しだけ響く。


数えそうになって、やめる。


昨日より、やめるのが早い。


広場には、すでに何人か集まっていた。


畑の話。

水路の話。

壊れた柵の話。


どれも、急ぎじゃない。

でも、放っておけない話。


ユウトが近づくと、会話が少しずれる。


終わるわけじゃない。

向きが変わる。


自然に。


「……あ」


誰かが、小さく声を出した。


視線が、一瞬だけ集まる。

すぐに、散る。


誰も、ユウトに話しかけない。


でも、誰も追い払わない。


その距離が、妙だった。


ガイルが畑の方から来る。


鍬は持っていない。

手は、土で汚れている。


「ここは任せろ」


ユウトに言ったわけじゃない。

でも、ユウトの前で言った。


「……俺、何かすることあります?」


聞いてみる。


ガイルは、少しだけ考えた。


ほんの一拍。


「ない」


即答。


「……そうですか」


「動くな」


短い。


理由は、言わない。


ユウトは頷いた。


動かない理由を、考えない。


昼前。


宿に戻る。


アーシャが、帳簿を見ていた。


数字が並んでいる。

線が引かれている。


途中で、空白がある。


「これ、抜けてますよ」


ユウトが指差す。


アーシャは一度、帳簿を見る。

それから、ユウトを見る。


「いいの」


即答。


「あとで困りません?」


「困らない」


言い切り。


「全部、把握しない方が安全な日もあるの」


冗談みたいな口調。


でも、笑わない。


ユウトは、それ以上言わなかった。


午後。


鍛冶場の前。


ドラムが、木材を運んでいる。


重そうだ。

でも、速度は一定。


「手伝います」


ユウトが言うと、ドラムは首を振った。


「いい」


一歩、距離を取る。


「今日は、触るな」


命令に近い。


「……分かりました」


理由を聞かない。


聞けば、踏み込む気がした。


夕方。


縁側で、ルーンが茶を飲んでいる。


湯気が、真っ直ぐ上がらない。

揺れている。


「忙しそうですね」


ユウトが言う。


「忙しくはない」


「……でも」


「静かすぎる方が、危ない」


ルーンは、そう言って湯飲みを置いた。


「中心に立たない方がいい日がある」


何気ない言い方。


意味を考えた瞬間、頭が止まりかける。


「……中心?」


ユウトが聞き返す前に、ルーンは立ち上がった。


「今日は、ここまで」


会話を、終わらせる動作。


夜。


部屋に戻る。


窓の外は暗い。

でも、真っ暗じゃない。


灯りが、いくつも点いている。


数が、合わない。


昨日より、多い気がする。

でも、確かめない。


床に座る。


膝を抱える。


胸の奥が、少しざわつく。


理由は、分からない。


ただ。


今日は一日、

誰も自分を押し出さなかった。


呼ばれもしなかった。

突き放されもしなかった。


避けられていた。


それが、怖いのか。

守られているのか。


まだ、分からない。


ユウトは目を閉じた。


考えない。


中心に立たない。


それが、この村で生きるための

正しい位置な気がした。



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