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この村、全員ラスボス経験者でした。 〜もう二度と世界を救いたくない元最強たちのスローライフ〜  作者: にる


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同じ動き

朝霧の中で、ガイルは鍬を振るっていた。


昨日と同じ角度。

同じ速さ。

同じ呼吸。


寸分違わない。


ユウトは、しばらくそれを見ていた。


畑の土は湿っている。

踏み込むと、少し沈む。


「……重そうですね」


言うと、ガイルは鍬を止めずに答えた。


「重心が高い」


短い。


「腰を落とせ」


言われた通りに構える。

土に体重を預ける。


楽だった。


「……あ、本当だ」


「無駄が多い」


言い切り。


「でも、悪くない」


その一言で、終わり。


ガイルは目を逸らした。

逸らす角度まで、昨日と同じだった。


ユウトは、なぜか息を止めていた。


朝の作業が終わる。


畑の端で、二人並んで水を飲む。

風が吹く。

土の匂いが流れる。


「毎日、同じですね」


ユウトが言う。


「違う」


ガイルは即答した。


「どこが?」


「土が違う」


それ以上、説明はなかった。


昼。


宿屋で水を飲む。


木の椀が、少し欠けている。

昨日と同じ場所。


「無理してない?」


アーシャが聞く。


昨日と同じ声。

同じ間。


「無理すると、死ぬからね」


軽い調子。


「……風邪くらいなら」


ユウトが言うと、アーシャは一瞬だけ瞬きをした。


「風邪、ね」


笑う。


でも、目は笑っていない。


「生きてりゃ、それでいいの」


その言葉が、やけに重く落ちた。


ユウトは、背中に冷たいものを感じた。


午後。


鍛冶場の前を通る。


扉は開いている。

中は暗い。


「貸せ」


ドラムが、木箱を持つ。


持ち上げる速さ。

腕の角度。

力の入れ方。


朝、ガイルが鍬を振るっていた時と、よく似ていた。


「覚悟が足りない」


ぽつり。


誰に向けた言葉か、分からない。


ユウトは何も言えなかった。


夕方。


縁側で、ルーンと駒を並べる。


白と黒。

配置。

間隔。


一手、置く。


少しして、また一手。


終局。


負ける局面まで、昨日と同じだった。


「……仕組んでます?」


冗談めかして言う。


ルーンは、ほんの一瞬だけ黙った。


沈黙。


「気のせいだよ」


返事が、少し遅れた。


それだけで、十分だった。


夜。


部屋に戻る。


床の板目に、細い線が残っている。


三本。


指でなぞる。


確かに、昨日刻んだ。


安心しかけた、そのとき。


一本が、音もなく消えた。


「……は?」


瞬きをする。


もう一度、見る。


ない。


代わりに、壁の隅が、ほんの一瞬だけ歪んだ。


光ったような気もした。

気のせいかもしれない。


目を凝らす前に、何もなくなる。


ユウトは、息を吸った。


「……見間違いだ」


自分に言い聞かせる。


床に座り込む。


胸の奥が、冷たい。


理由は分からない。


ただ。


このまま数え続けたら、いけない。


そんな気がした。


その夜。


風が止む。


音が消える。


一瞬だけ、世界が静まり返る。


ほんの、二秒。


昨日より、少し長い。


ユウトは、目を閉じた。


数えない。


そう決めた。


理由は、まだ分からない。


でも。


この村で生きるには、

それが一番安全な気がした。


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