静かな森と、戻らない違和感
朝になっても、ユウトの胸のざわつきは消えなかった。
昨夜の「停止」。
誰も覚えていない異常。
自分だけが知っている現実。
(……夢じゃない)
それだけは、はっきりしていた。
その日、四人で森へ向かうことになった。
ガイルが先頭。
ドラムが後方。
アーシャが中央で気を配り、
ルーンが全体を見る。
完璧すぎる布陣だった。
(……慣れすぎてないか)
「気持ちいいね」
アーシャが笑う。
「油断しないで」
すぐに返る忠告。
森の奥で、小さな光が揺れた。
「何ですか、あれ?」
一瞬の沈黙。
「……ただの反射よ」
ルーンが答える。
だが、目は笑っていない。
ユウトは、さっきと同じ場所に、同じ光があることに気づいた。
――また、だ。
同じ場所。
同じ揺れ方。
同じ角度。
偶然とは、思えない。
胸の奥が、ひどく落ち着かない。
考えようとした瞬間、
頭の奥が、鈍く痛んだ。
考えるな。
そう言われている気がした。
---
帰り道。
ユウトは歩数を数えた。
百二十歩で、分かれ道。
昨日と同じ。
百二十歩で、また分かれ道。
「……あれ?」
同じ場所に戻っている。
ガイルたちは何も気にしていない。
「大丈夫よ」
アーシャが即答する。
早すぎた。
「余計なことを考えるな」
ガイルも言う。
タイミングまで、同じだった。
ドラムも、同じ位置で頷く。
まるで、何度も見た動きみたいだ。
その瞬間、耳の奥で「カチ」と音がした。
何かが、切り替わる音。
視界が一瞬だけ、二重になる。
森が、重なる。
今日と、よく似た別の何かが、重なる。
次の瞬間、元に戻った。
「……今の、見た?」
誰も答えない。
答えないのではない。
聞こえていない。
その夜。
ユウトは日記代わりに、床に線を刻んだ。
一。
二。
三。
忘れないために。
消されないために。




