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この村、全員ラスボス経験者でした。 〜もう二度と世界を救いたくない元最強たちのスローライフ〜  作者: にる


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13/13

何事も無かった日

朝。


村は、いつも通りだった。


昨日のことを、

誰も話題にしない。


広場は片づいている。

水も撒かれている。


人が集まる。

立ち話をする。


笑う声も、ある。


ユウトは、

少し離れた場所からそれを見ていた。


違和感が、

ない。


それが、

一番の違和感だった。


畑に行く。


ガイルが、

黙って鍬を振るっている。


昨日と同じ動き。

昨日と同じ間。


「……昨日の人」


ユウトが言いかける。


ガイルは、

鍬を止めなかった。


「もう終わった」


短い。


「大丈夫だったんですか」


「終わった」


繰り返す。


それ以上、

話は続かない。


昼前。


宿。


アーシャが、

帳簿をつけている。


線が引かれ、

数字が整っている。


昨日の項目は、

最初から無かったみたいに空白だ。


「昨日……」


ユウトが口を開く。


アーシャは、

帳簿から目を離さない。


「今日の話をしよ」


即答。


「昨日は、もう使わない」


使わない。


その言葉が、

胸に引っかかる。


午後。


鍛冶場。


ドラムが、

床板を外している。


位置を、少しだけ変える。


戻す。


「ここ、直したんですか」


「直してない」


即答。


「ずらしただけだ」


「……昨日の」


「残しておくと、

誰かが踏む」


それだけ。


床は、

昨日より安全になっている。


でも、

昨日は無かったことになっている。


夕方。


広場。


昨日、

女が倒れた場所。


誰も覚えていないみたいに、

人が立っている。


普通に。

無意識に。


ユウトだけが、

足を止めた。


「……」


踏み出さない。


周りの人は、

ユウトの動きを見ていない。


見ていないふりでもない。


本当に、

見えていない。


夜。


部屋に戻る。


今日は、

誰にも止められていない。


でも、

誰にも呼ばれてもいない。


自由なはずなのに、

動きにくい。


布団に座る。


膝を抱える。


昨日の衝動を思い出す。


出来た感覚。

分かった気がした感覚。


それが、

今日には残っていない。


奪われたわけじゃない。


処理された。


そう感じた。


ユウトは、

自分の手を見る。


何もしていない。

何も残っていない。


それなのに、

胸の奥だけが重い。


「……なかったことに、された」


小さく、呟く。


声は、

すぐに消えた。


外では、

誰かが笑っている。


鍋の音。

皿の音。


普通の夜。


ユウトは、

横になった。


目を閉じる。


今日は、

越えなかった。


でも、

守られた感覚も、

薄くなっている。


守りが、

管理に近づいている。


その違いを、

体が先に感じていた。


眠りに落ちる直前。


はっきりと、

思った。


――次は、

なかったことに出来ない。


それが、

怖くて。


でも、

少しだけ、

待ってしまう自分もいた。


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