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この村、全員ラスボス経験者でした。 〜もう二度と世界を救いたくない元最強たちのスローライフ〜  作者: にる


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11/13

決められた距離

朝。


ユウトは、呼ばれて起きた。


声は近い。

でも、部屋の外からだった。


「起きてる?」


アーシャの声。


「……はい」


戸を開けると、廊下に立っていた。


いつもより距離がある。

一歩、離れている。


「今日はね」


声は、いつも通り。


「ユウト、外に出ないで」


命令ではない。

お願いでもない。


決定事項みたいな言い方。


「……何かあったんですか」


アーシャは、少しだけ考えた。


考えた、というより、

言葉を選ばないことを選んだ。


「何もない」


即答。


「だから、出ないで」


理由になっていない。


でも、

反論する気が起きなかった。


「分かりました」


そう答えると、

アーシャは小さく息を吐いた。


「助かる」


その一言が、重い。


朝食は、部屋まで運ばれてきた。


パン。

スープ。

果物。


いつもと同じ。


でも、

扉の前に置かれている。


誰も、入ってこない。


窓から外を見る。


広場に人が集まっている。


集まっているが、

輪にならない。


中心が、空いている。


そして、

その少し外側。


いつもユウトが立っていた場所も、

空いている。


誰かが、そこに立たないように

調整している気がした。


昼前。


戸を叩く音。


今度は、ガイルだった。


戸は開けない。


声だけが聞こえる。


「今日は、動くな」


短い。


「……森の方ですか」


「聞くな」


即答。


「聞かない方が、守られる」


それだけ言って、

足音が遠ざかる。


ユウトは、

扉の前に座り込んだ。


守られる。


その言葉が、

胸の奥で引っかかる。


昼。


窓の外が、少し騒がしい。


音はある。

でも、叫び声じゃない。


金属がぶつかる音。

石が転がる音。


何かを、動かしている。


ユウトは立ち上がりかけて、

止まった。


動かない。


今日は、そう決められている。


午後。


鍛冶場の方から、

低い音が響いた。


一回。

それきり。


ドラムの仕事だと、

分かる音。


そのあと、

音が途切れる。


静かすぎる。


夕方。


再び、戸を叩く音。


今度は、ルーンだった。


「具合はどうだい」


「……普通です」


「それは、いい」


一拍、間。


「今日はね」


穏やかな声。


「君が動かない方が、

全体が安定する日だ」


「……俺が?」


「君が、中心に近いから」


言い切り。


「立たなければ、

波紋が広がらない」


ユウトは、

その理屈が分かってしまった。


分かるのが、怖い。


「……じゃあ」


声が、少し震える。


「俺は、何もしない方がいいんですね」


「そうだね」


ルーンは、否定しなかった。


「何もしない、という選択が、

一番、強い日もある」


強い。


その言葉が、

胸に重く落ちる。


夜。


静かだった。


村全体が、

息を潜めているみたいに。


部屋の中で、

ユウトは一人で座っていた。


今日は、

一歩も外に出ていない。


誰かを助けてもいない。

止めてもいない。


それでも、

村は無事だ。


それが、

正しいのかどうかは分からない。


ただ。


自分の存在が、

「動かないことで機能する」


そう決められている感覚が、

少し、息苦しかった。


ユウトは、

膝を抱えた。


守られている。


でも同時に、

配置されている。


その違いを、

まだ、言葉にできなかった。


灯りを消す。


闇の中で、

外の音を聞く。


遠くで、

何かが終わった気配がした。


今日は、

何も知らされなかった。


それが、

一番の判断だったと、

誰かが決めていた。


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