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壊れた姉の見守り方  作者: 朝露 あじさ(Asatsuyu Ajisa)
第2章「ふたりだけの家」
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【第7話】「小さな火種」

深夜。

部屋は静まり返っていた。


時計の音も聞こえないほどの沈黙の中、

私はふと、呼吸の違和感で目を覚ました。


……なんだろう。

胸の奥がざらつくような、変な感じ。

息がしづらい。


目を開けても、すぐには何も見えなかった。

リビングの隅に置いたパソコンのモニターが、ぼんやりと空間を照らしている。

その淡い光の中――視界の片隅に、黒い影が見えた。


しづきのいる、パーテーションの向こう側。

カーテンの隙間から、チラチラと、赤い光が見えた気がした。


私は半分寝ぼけたまま、ソファーベッドから体を起こした。


……なんか変だ。


そう思いながらカーテンをめくった瞬間、

息を呑んだ。


仰向けで寝たままのしづき。

毛布を胸元までかぶっていて、その上――

お腹のあたりで、タバコがまだ彼女の指に挟まれていた。


そこから、じわじわと燃え広がる黒い痕。

毛布の上部は既に焼け落ち、

下の層が赤く、波打つように焦げていた。


小さな火種。

でも確実に、そこから“何か”が広がっているのが分かった。


「しづきッ!!」


私は叫んで、すぐに駆け寄った。


しづきは……動かない。

目も閉じたまま、口も開いていない。

生きてるのかさえ、わからないくらい静かだった。


「しづき!! 起きて!! 火事になる!!」


声をかけながら、タバコを指から無理やり引き抜いた。

手は思ったよりも冷たくて、力がまるで入っていなかった。


毛布の下に手を差し込むと、熱が手のひらに伝わってきた。

まだ燃えてはいない。でも、確実に焦げている。


私はキッチンに飛び込んで、水を含ませたタオルを絞る間も惜しんで持ってきた。

それで毛布の焦げた部分を叩いて、火種を潰す。


煙がもうもうと立ち込めて、

鼻の奥が焼けるように痛んだ。


――それでも、火は消えた。


部屋の中は、ほんのりと焦げ臭い空気と、

まだ起きないしづきと、

全身から汗が吹き出す私だけが、ぽつんと残されていた。


私は座り込んだまま、しづきの顔を見つめた。


起きてよ……。

お願いだから……。


震える手で、しづきの肩を揺らす。


「ねえ……生きてるんでしょ……?」


しづきの瞼が、ゆっくりと動いた。


「……ん」


息が出た。

生きてた……。


でも、私はもう確信していた。


これはただの“うっかり”なんかじゃない。

もう、とっくに普通じゃなかったんだ――。

次回は、毎日21時に更新予定です。

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最後まで読んでくださって、本当にありがとうございます。

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