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壊れた姉の見守り方  作者: 朝露 あじさ(Asatsuyu Ajisa)
第2章「ふたりだけの家」
5/13

【第4話】「“一時的”は、いつ終わるのか」

「ひとまず、少し休ませてあげてください」


会社の人にそう言われて連れて帰ったはずだった。

数日、いや、一週間くらいだと思っていた。


姉はその間に落ち着きを取り戻して、

また働けるようになると、どこかで思い込んでいた。


でも、違った。


姉はそのまま、私の1LDKに居座った。

仕事にも戻らず、当然のように、何も決めずに、そこにいた。


「……お姉ちゃん、……他に行く所、ないの?」


と、一度だけ聞いたことがある。


両親は、数年前に亡くなっていた。

“帰る家”なんて、とっくになかったはずなのに――

私は、それでも一度、聞かずにはいられなかった。


けれど姉は、返事をしなかった。


厳密に言えば、返事ができなかったのかもしれない。

言葉の奥が、どこか壊れていた。


だから私は、黙ったまま姉を置いておいた。


別に、嫌じゃなかった。


働いて帰ってくると、部屋の電気がついていて、

音のない空間に人の気配があることが、少し安心でもあった。


ただ、姉はどんどん変わっていった。


最初は、ひたすら寝ていた。

時間の感覚が狂ったように、昼に寝て、夜に起きていた。


会話は少なかった。

食事も一緒にとらなかった。

私が作ったごはんも、たまに口をつけるだけ。


そのうち、部屋の隅に座ってパソコンをずっと眺めるようになった。

何をしているのか聞いても、「うーん」としか返ってこなかった。


それでも私は、“異常”だとは思わなかった。


仕事がつらくて、少し壊れて、回復の途中。

そういう人なんだと、思っていた。


しづきは、まだ“普通に戻る途中”だと。


でも、少しずつ気づき始めていた。


――姉は、本当に戻ってくるのか?


何もしないで1ヶ月が過ぎ、2ヶ月が過ぎた。


毎日パソコンの前にいて、

外にも出ず、誰とも話さず、

それでも“ここにいること”だけは当然のように続いていった。


“少し休ませてあげてください”と言われたあの日から、

もうすぐ半年が経とうとしていた。


好意で休業扱いだった姉は、会社を辞めさせられることになった。

『壊れた姉の見守り方』

第1話〜第5話まで、一挙公開しています。


以降は、毎日21時頃の更新予定です。

……たまに忘れるかもしれないので、やさしくツッコんでいただけたら嬉しいです☺️


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