【第2話】「信じていた、強い人」
高校を卒業してから、私たちは別々の道を歩んだ。
私は地元の中小企業に就職して、通勤に時間をかけながらも、なんとか社会に馴染もうと必死だった。
お姉ちゃんは都市部の大学に進学し、そのまま就職して、ちゃんと“キャリアウーマン”の階段を登っていた。
年末年始に実家に戻ってきたときも、
姉は都会的な服を着て、淡いピンクのリップをつけていた。
私よりもずっと大人に見えた。
「会社、楽しいよ。まだ覚えることはいっぱいあるけど、先輩が丁寧で」
そんな言葉を笑顔で言えるのが、さすがだなって思った。
私は疲れ果てて、家ではほとんど喋らなかったから。
「辞めたい」とは言わないけど、「楽しい」なんて口にできるほど余裕もなかった。
やっぱり、しづきは違う。
“私より、なんでもできる人”って思いは、社会に出ても変わらなかった。
……だから、連絡が来たとき、私は一瞬、何かの冗談かと思った。
会社から電話がかかってきたのだ。姉の勤務先から。
名前と所属部署を告げられ、私は一気に緊張した。
「お姉さんが、少し取り乱されていまして……
今、お仕事ができるような状態ではなくて、ひとまずご家族の方に連絡をと……」
声は穏やかだったけれど、その下にある“異常事態”の重さが、じわじわと伝わってきた。
“取り乱している”って、どういうこと?
しづきは、そういう人じゃない。
しっかりしていて、頭の回転も早くて、
人に迷惑をかけることを一番嫌うような人だった。
電話のあと、私はずっと震えていた。
このときの私はまだ、現実を信じていなかった。
きっと何かの誤解か、少しだけ疲れてるだけ。
それが治れば、また“できるしづき”に戻るんだって。
だって――
“あのお姉ちゃんが壊れる”なんて、
本気で、思ってなかったから。
『壊れた姉の見守り方』
第1話〜第5話まで、一挙公開しています。
以降は、毎日21時頃の更新予定です。
……たまに忘れるかもしれないので、やさしくツッコんでいただけたら嬉しいです☺️