【第27話】「二度目のお願い」
その翌月、姉からLINEが届いた。
『また、ちょっとだけ…お金、貸してもらえるかな?』
文章は短くて、まっすぐだった。
けれど私の背筋に、冷たいものが走った。
え? もう次?
返してもらったばかりじゃなかった?
この前は閑散期って言ってたよね?
今月はもう大丈夫って思ってたのに。
戸惑いが頭を支配して、即答できなかった。
――まさか、これが“また繰り返す”ってことなの?
返金できていたことが、逆に安心の材料になっていた。
だから、油断していた。
生活の回復も、精神の安定も、
ほんの一瞬だけだったのかもしれない。
姉に理由を尋ねると、「今月は体調を崩して会社を何日も休んでしまった」と言った。
倒れてしまったから、収入が減ったと。
その言葉に、私は返すべき言葉を失った。
つい先月、お金を貸したばかりだった。
閑散期でシフトが減ったと言っていたが、今月は普通に働けているはずじゃなかったの?
先月は「来月からは返していく」って言っていたのに……。
「えっと……まず、今どんな状況か聞いてもいい?」
私は慎重にLINEを返す。
「収入の入金額と、毎月の出費、あと通帳の写真とか……」
──妹としても、お金の流れが見えなければ判断できない。
姉からは意外と素直に、数枚の画像が送られてきた。
手書きの家計簿のようなメモと、通帳の残高画面の写真。
家賃、電気ガス、水道、携帯、食費、病院代。
そして──やけに高いタバコ代。
通帳には「○○カード」や「△△クレジット」の引き落としが並んでいる。
「ん……クレカ使いすぎかな。でも今どき、現金派の人も少ないし……」
私は一人で納得しようとしていた。
──でも、どこか胸の奥がざわついていた。
念のため、私はいつも相談しているAIに聞いてみることにした。
通帳の入出金の一部を入力し、家計の状態を質問する。
すると数秒後、冷静な文章で返ってきた。
**『キャッシングやリボ払いで生活費を補填しているようです』**
「……え?」
私は、思わず画面を見直した。
**リボ……?**
リボ払いって……あの“借金地獄”みたいな、あれ?
**『複数のクレジット会社からの引き落としが毎月続いており、
支払額が一定であることから、リボ払いを利用している可能性が高いと推測されます。』**
「……そんな……」
私は、心臓を掴まれたような感覚に陥った。
さっきまで「タバコ高いな」とか「食費もう少し抑えれば」とか、
のんきに見ていた自分が、急に愚かしく感じた。
だって──
現金はない。
でも買い物はしている。
その差額を、リボ払いで補っていたとしたら……?
そして、さらにAIは淡々と続けた。
**『このままでは借金が雪だるま式に増える可能性があります。
支援を続ける場合は、返済計画を立てるか、支出制限の協力を要請することをおすすめします。』**
「……嘘でしょ……」
目の前が、じわじわと冷えていく。
姉がまた病状を悪化させたわけじゃない。
けれど──**“違う形で壊れていた”**。
私は、まだ信じたかった。
「違うよね?ちゃんと返すって言ってたし、タバコ代だって気晴らしかもしれないし……」
心の中で、必死に擁護する自分がいた。
**『それなら、お姉さんは大丈夫ですね』**
AIは、もし私がそう言えば、そう答えるだろう。
でも。
私は、もう知ってしまったのだ。
──姉の生活は、すでに破綻している可能性があることを。
そして、それを最初に教えてくれたのは──**私の目ではなく、AIだった**。
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