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壊れた姉の見守り方  作者: 朝露 あじさ(Asatsuyu Ajisa)
第3章「守るって、なんだろう」

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【第20話】「診断名と、現実の境界線」

※今回は、精神的な病気に関するお話が含まれます。

 不安に感じる方がいらっしゃったら、無理せず読み飛ばしても大丈夫です。

 この物語は、ある家族のほんの一例として読んでいただければ幸いです。

____________________________


病院に到着したのは、昼を過ぎた頃だった。


駐車場から建物を見上げると、背筋が自然と伸びた。

高い塀、堅牢そうな扉。

その中へ入ると、さらに“もう一枚”の扉があった。


「こちら側は一般の入院病棟です。

 奥の扉の先は、症状の重い患者さんが入る特別なエリアになっています」


そう説明された言葉に、私は無意識に唾を飲み込んだ。

まるで世界が二つに分かれているようだった。


私の姉は、今、その“奥”に入っていく。


病院のスタッフの方々は慣れた様子で、淡々と手続きを進めていた。

対して私は、すべてが初めてで、呆然と立ち尽くすしかなかった。


しづきは抵抗することもなく、

ただ、他人事のような顔で、その扉の向こうへと連れて行かれた。


* * *


診断結果を伝える前、医師は慎重に口を開いた。


「まず最初に……お姉さんの状態について、少しずつご説明させていただきますね」


穏やかな口調だった。

けれど私は、背筋にひんやりとしたものを感じていた。


「今のお姉さんには、現実と想像の境界が曖昧になっているようです。会話の中でも、実在しない“誰か”と話しているような様子が見られます」


――それは、私も見た。昨日の警察署での光景が脳裏に浮かぶ。


「また、強い被害妄想の傾向もあります。“誰かに監視されている”“話が筒抜けになっている”などの言動がありまして……」


私は無意識に手を握りしめていた。


“違う、そんなはずない。しづきはちょっと疲れてるだけ、大丈夫なはず――”


そんな思いが、心の中でぐるぐると巡っていた。


「症状の進行具合や、今までの行動の記録を踏まえたうえで、医師の判断として、病名をお伝えします」


医師は一拍置いてから、言った。


「統合失調症です」


一瞬、呼吸を忘れた。


…やっぱり、病気だったんだ。

もう自分も誤魔化せない、ハッキリしちゃった…


……でも、統合失調症ってなんなの…?

名前じゃ全然分からない。


私はおそるおそる尋ねた。


「それって、どういう…病気なんでしょうか……? あの……治るの…ですか?」


医師は丁寧に頷いた。


「はい。統合失調症は、脳の働きに一時的な乱れが生じてしまう病気です。幻覚、幻聴、被害妄想などの症状が現れますが、適切な薬を服用すれば、ほとんどの方が回復に向かいます」


「元通りに……?」


「…社会生活が可能なレベルに回復する方も多いです。ただし、服薬の継続と生活の安定がとても重要になります」


私は小さく息を吐いた。


そう聞いて、私は少しだけ救われた気がした。


“治らない”病気では、なかったんだ――と。

しづきは、戻ってこられるかもしれない。


もちろん、すぐに元どおりになるわけではない。

これから先、何年かかるかも分からない。

けれど、それでも支えいかなくては……。


目の前の扉の向こうにいる姉は、

いつか、また一緒に笑えるようになるかもしれない。


そんな淡い希望を、私はそっと胸にしまった。


* * *


翌日から、私は病院と家を何度も往復することになった。

入院に必要な衣類や洗面道具を運び、日用品の補充、体調の確認。


さらに、医師から勧められた手続きを進めるため、裁判所にも出向いた。


市役所や役場なら馴染みはあるけど、裁判所なんて足を踏み入れるのも初めてだった。


無機質で静かなロビー。

誰も口をきかない、閉ざされたような空気。

そんな場所に、自分ひとりでいるという事実が、やけに心細かった。


けれど――

思っていたよりも手続きはすんなりと進んだ。


私が伝えられたのは、

「本人の認知能力がない状態での入院には、家族からの後見同意が必要」ということ。

そのための委任書類を受け取るために、私はここへ来たのだった。


初めてのことばかりで戸惑っていたけれど、

淡々とした受付の方に導かれて、私は必要な書類を手に入れた。


医師から受け取った診断書の封筒を、私は両手でぎゅっと握りしめた。

こんな紙切れひとつで、すべてが決まってしまうような気がして。


でも、逃げたくはなかった。


私がやらなきゃ。

私しか、いないんだから。


両親も居ない他に頼れる人も居ない、なら私が支えて――

いや、やらなきゃいけない事なのだから。


「お願いします、治療…。お姉ちゃんを、よろしくお願いします……」


ようやく出せた声は、小さく震えていた。

ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。


これで、ひとまず“第1部”の前編が完結となります。

最初の1話から20話のここまで、毎日更新を楽しみにしてくださった方、途中から読み始めて一気読みしてくださった方……みなさんの応援が、なによりの支えです。


21話からは、物語が少しずつ“変化”していきます。

それに伴い、次回の更新は【8月14日(木)21時】から再開予定です。


それまでのあいだ、感想やお気に入り登録で応援いただけると、すごく励みになります。

また、X(旧Twitter)では作品の宣伝イラストや、日常のちょっと気になった事も投稿もしているので、よければそちらも覗いてみてくださいね!


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それでは、また第2部の後編でお会いしましょう。

お姉ちゃんと妹の、まだ不安定な物語を、どうか見守ってください。

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