【第1話】「私より、なんでもできる人」
「月森しづきさん、すごいですねぇ!やっぱり頼りになります!」
姉の名前が呼ばれるたびに、誰かの賞賛が続く。
小学生の頃から、そんな光景を何度も見てきた。
成績はいつも上位。
学級委員や部長にも、自然と選ばれる。
運動会ではリレーの選手に選ばれて、ゴールを駆け抜ける姿がまぶしかった。
そんな姉と、私は双子だ。
だけど、まるで違っていた。
運動神経も、テストの点も、発言の説得力も。
姉の隣にいるだけで、私は“比べられる側”になった。
「妹さんも双子なんだよね?しづきちゃんとそっくりなのに、不思議だよね〜」
笑いながら言われるその言葉に、何度も「そっくりじゃないよ」と思った。
似ているのは顔のつくりだけで、私たちの中身はまるで別物だった。
でも――
私はお姉ちゃんが嫌いじゃなかった。むしろ好きだった。
勉強の仕方を教えてくれたり、
忘れ物をした私を庇ってくれたり、
「しょうがないなー」って笑う顔が、ちょっとだけ大人びて見えた。
ある日、リビングで姉が英語の参考書を広げていた。
ペンを走らせる音が、静かな部屋に心地よく響く。
私は隣で、同じ単語帳を開いて真似してみたけど、
頭に入ってくるのは最初の3つくらいまでだった。
「ひな、音で覚えるといいよ。アルファベット読むより、口で言った方が残りやすいから」
そう言って姉は、私のノートにふりがなを書いてくれた。
さりげなく、でもすごくわかりやすかった。
私はただの“真似”しかできなかったけど、
お姉ちゃんは“人に教えられるほど分かってる人”だった。
私は、お姉ちゃんみたいになりたかった。
でもなれないことも、知っていた。
だから、私はいつのまにか「見上げる側」になっていた。
努力しても届かない、
手を伸ばしても、すり抜けていく光。
月森しづきは、
私より、なんでもできる人だった。
……あの日までは。
『壊れた姉の見守り方』
第1話〜第5話まで、一挙公開しています。
以降は、毎日21時頃の更新予定です。
……たまに忘れるかもしれないので、やさしくツッコんでいただけたら嬉しいです☺️