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壊れた姉の見守り方  作者: 朝露 あじさ(Asatsuyu Ajisa)
第3章「守るって、なんだろう」
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【第18話】「2度目の着信」

部屋に着いたのは、深夜だった。

しづきは、自分の部屋代わりのスペースにすぐ潜り込んだ。

まるで“疲れた”という言葉そのもののように、ぐったりと。


私はその背中を見つめながら、

リビングのソファーベッドに腰を下ろした。


手には、しづきの車の鍵。


これがあれば、彼女はどこへも行けない。

少なくとも、遠くには行けないはず。


目を離さないようにしなきゃ。

また、あんなことになったら困る。

明日は病院にも付き添う。

だから――今夜は眠らずに、朝を迎えようと思っていた。


だけど。


時計の針は0時を過ぎ、1時を過ぎ、2時を回っても、

しづきの寝息は静かなままだった。


私の方が、限界だった。


ソファーに座ったまま、意識が薄れていく。

気づけば、あっという間に眠りに落ちていた。


はっと目を開けたとき――

部屋の中には、誰もいなかった。


「……え?」


全身の神経が一気に覚醒する。

鼓動がうるさく鳴っている。

まず飛び込んだのは、しづきのスペース。

カーテンをめくると、布団の中は空だった。


「いない……!」


靴箱を開ける。

しづきの靴が、なかった。


手元にあるはずの車の鍵を見ようと、

ポケットに手を入れた。


……ない。


あんなにしっかりと握っていたのに、

眠った拍子に、いつの間にか落としてしまった?


慌ててリビングの床を見渡すと、ソファーベッドの下に落ちていた。


「鍵はある……じゃあ、どうやって……」


混乱しながらも、私はとっさに思い浮かべた。

近所のコンビニ。

昨日も立ち寄った、徒歩5分の場所。


そこになら……もしかしたら。


私は財布もスマホも持たず、スリッパのまま外へ飛び出した。


空は白み始めていて、時計は朝の7時45分を指していた。

通勤の車が何台も走っていたが、歩道を歩く人はほとんどいなかった。


気温はそれなりにあったはずなのに、

背筋がぞわぞわと冷えている。

全身から冷や汗が噴き出していた。


コンビニの自動ドアをくぐりながら、

息を整える暇もなく、夜勤明けらしき女性店員に声をかけた。


「あのっ、変なこと聞きますけど……

 私の顔に似た人、来ませんでしたか?」


店員は、一瞬目を丸くしたあと、

少し訝しげに首を横に振った。


「いえ……今日は見てないですね」


「……ありがとうございます」


落胆と不安が、いっぺんに押し寄せてきて、

膝が抜けそうになる。


とぼとぼと外に出た瞬間――


ポケットのスマホが震えた。


液晶画面には、昨日と同じ文字が浮かんでいた。


【○○警察署】


……

頭から血の気が引いていく。

寒くもないのに、腕に鳥肌が立った。


また――

また、何かが起きたんだ。


震える指で画面をタップする。

耳に当てたスマホの向こうから、警察官の淡々とした声が響いた。


「お姉さんを、保護させていただきました。

〇〇スーパーの正面入り口前で、独り言をぶつぶつと呟いていたと、通報がありまして……」


「えっ……、〇〇スーパーですか?」


「ええ。

それで昨日と同じ、〇〇警察署にてお預かりしております。

ご本人の様子から、今回もお迎えをお願いしたいのですが……」


私はその場で膝をつきそうになりながら、

電話を握りしめていた。


「……はい、行きます」


その返事をしたあと、コンビニの自動ドアがまた開いた。

後ろから来た誰かが、無言で店に入っていく。


その冷たい風が、私の素肌を撫でていった。


ああ――

また、始まるのかもしれない。


今度こそ、本当に。


“壊れていく”って、こういうことなんだろうか。

次回も、毎日21時の更新予定です。

続きが気になる方はブックマークや、⭐︎⭐︎⭐︎の評価をいただけると、とても励みになります。

最後まで読んでくださって、本当にありがとうございます。

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