【第17話】「保護されたその場所で」
その後、警官に案内され、保護室へと通された。
しづきは、そこにいた。
椅子に座り、壁を向いて、何かをぶつぶつと呟いていた。
まるで、見えない相手と会話しているように。
「……あっ、それじゃない……いや、でも、そうかも……ふふ……」
私は、その姿を見て凍りついた。
「しづき……?」
声をかけても、彼女は反応しなかった。
ぶつぶつと続けていた言葉は、徐々に変化し、やがて――
「ちがうってば。あんたは“こっち”でしょ? あーもう、うるさい!」
まるで誰かと言い合っているような、激しい口調が混ざってきた。
私の知っている姉じゃなかった。
明らかに、“おかしくなってしまった人”のそれだった。
「妹さん、こちらへ」
別の警官に声をかけられ、私は保護室を後にした。
その後、警察から
「スーパーの入口で明らかに不審な挙動をしていたため、通報があった」と説明された。
さらに、麻薬使用の可能性を考慮し、麻薬捜査官の立ち会いで現場検証を行うことになった。
私は、しづきと一緒に警察の車に乗せられ、スーパーへと向かった。
後部座席には、捜査官も同乗していた。
車内で、彼が私に小さく話しかけてくれた。
「お姉さん、確かに異常な言動をしてましたが……あれは薬物ではない気がしますね。症状の出方が違う」
そう言ってくれたことが、少しだけ救いだった。
スーパーに到着すると、
すでに数人の警察官が、姉の車の周囲で検証を始めていた。
念入りに車内を調べていたが、予想通り――麻薬や違法物品は何も出なかった。
「精神的な疾患の可能性が高いと思います。
病院での受診、可能なら入院を検討された方が……」
一人の警察官が、申し訳なさそうにそう告げてくれた。
帰り道は、私が姉の車を運転した。
助手席では、しづきが静かに外を見つめていた。
けれど、時折、何かに向かって微笑んだり、目を細めたりする。
私は一睡もできない覚悟をして、見守る決意をした。
鍵はすべて私が預かることにした。
もう、姉を“どこかへ行かせる”わけにはいかない。
明日、病院へ行く。
これ以上は、もう――私一人では無理だ。
帰り道の信号待ち。
私はハンドルを握る手に力を込めながら、心の中で強く願っていた。
「どうか、明日は……無事に、連れていけますように」
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