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壊れた姉の見守り方  作者: 朝露 あじさ(Asatsuyu Ajisa)
第2章「ふたりだけの家」
15/39

【第14話】「いない朝」

2025/8/8に本文修正致しました。

朝――

目覚ましの音が、まだ冷たい空気を震わせた。

私はソファーベッドの上で身体を起こし、ぼんやりと天井を見上げる。

カーテン越しに差し込む朝日が、薄い布地を透かしてやわらかい色を部屋に落としていた。


パーテーションの向こうからは、何の気配もしない。

しづき、まだ寝てるのかな……?


昨日は、ほとんど言葉を交わさなかった。

顔すらまともに見ていない。

それでも、あの事件のあと、ほんの少しずつ戻ってきた“普通”を、私はまだ信じたかった。

その思いが、胸の奥でかすかな温もりを保っていた。


洗面所で顔を洗い、鏡に映った自分に小さく「よし」と呟く。

台所でやかんに水を入れ、コンロに火をつける。

湯の立ち上る音が静かな部屋に響く。


けれど――どこまでいっても、しづきの気配がない。


カーテンの隙間からパーテーションの奥を覗く。

そこには、誰もいなかった。


「……あれ?」


布団は軽く整えられていて、掛け布団の端が几帳面に折り返されている。

空き缶も昨晩と同じ数。

灰皿も、増えた形跡はない。

まるで時間が止まったみたいに、昨日の夜のままだった。


でも――しづきが、いない。


寝ぼけた頭が一気に冴えていく。

私は部屋の中を探し始めた。

トイレ、浴室、洗濯機の前、ベランダ。

玄関の外に出て、共用廊下も見回す。

けれど、どこにもいなかった。


その時、何かが“変”だと気づいた。


靴が、ない。

玄関のシューズラックにいつも置かれているはずの、しづきのスニーカーが消えていた。


慌てて部屋に戻り、机の横に置かれているはずのバッグを見る。

そこには――**財布があった。**


「……置いてってる……?」


違和感が胸に重く沈む。

財布がある。

スマホも机の上に置かれている。

家の鍵も、そこにある。

……なのに。


「車の……鍵が、ない」


玄関のフックに掛けられていたキーリングだけが、ぽっかりと抜け落ちたように消えていた。

視界がじわりと暗くなり、心臓が早鐘を打つ。


私は駆け足で窓際へ行き、カーテンを開けて駐車場を見下ろした。

そこにあるはずのしづきの車――

……影も形もなかった。


「……どこ行ったの……?」


財布もスマホも持たず、車だけ持って出ていった姉。

夜のうちに、何の前触れもなく、何も言わずに。


私は窓際に立ち尽くし、動けなかった。

朝の光はやけに明るく、でも胸の奥では重い鉛のような感覚が沈み続けていた。

止まらない動悸と、喉の奥の渇きが、私の身体を締めつけていた。

次回も、毎日21時の更新予定です。

続きが気になる方はブックマークや、⭐︎⭐︎⭐︎の評価をいただけると、とても励みになります。

最後まで読んでくださって、本当にありがとうございます。

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