【第12話】「叫び声の中で」
シャワーの音が、ずっと続いていた。
……おかしい。
普段なら、もう止まっているはずの時間。
私は毛布をはねのけて起き上がると、
壁の向こうにあるシャワールームの方へ耳を澄ませた。
そのときだった。
「ギャアアアアアアァァ!!!」
突然、甲高い叫び声が浴室の扉越しに響いた。
私は全身が凍りついたみたいに動けなくなった。
「ひっ……!?」
間もなく、もう一度。
「GAaaa……っ、アギィギィィアア……っ!!」
断続的に響く、獣のような奇声。
しづきの声だと、すぐに分かった。
「しづき!? どうしたの!? 大丈夫!?」
私は浴室の前まで駆け寄り、扉の前で叫んだ。
けれど、返事はない。
ただ、シャワーの音と、
その中に紛れるようにして――また、叫び声が聞こえた。
「GAhhhhhhッッ!!ぎゃっぶぅああっ、あっ、あっ!!」
「しづき!やめて!開けるよ!?いい!?」
止めても止まらないその声に、私は恐怖を感じながら扉を開けた。
そこにあったのは、想像を超える光景だった。
シャワーの水がしづきの身体を打ち続けている。
その身体は裸のまま、床に座り込んでいた。
髪は濡れたまま顔に張りつき、
目は見開かれ、口からはまだ叫び声が漏れていた。
「っギャアアアア、ッヒャア、ギアウウウウ!!」
「やめて……しづき、やめて……お願い……!」
私は手を伸ばし、肩に触れようとした。
けれど、しづきの身体はびくりと跳ねる。
まるで、そこに“人間”がいないかのような空気だった。
「お願い……やめて……っ」
「ギャィャィャィャーーーア゛ア゛ア゛ーーー!!」
私は泣きそうになりながら言葉を重ねた。
でも、叫びは止まらなかった。
「は゛ぁ゛ぁッ!!やッやッ…っぅうぅぇええええぇぇ!!」
「ぎゃっぶぅああっ、あっ、あっ、ギャアああぉぇ゛ァッッ!!」
「お姉ちゃん!やめてってば!お姉ちゃん、お願い、静かにして!」
水音も、私の声も、何ひとつ届かない。
ひとりきりで、異界に沈んでいく姉を見て――
私の何かが切れた
「パンッ!!」
私は、姉の頭を――
平手で叩いた。
「……ッ」
静かになった。
シャワーの音だけが、空間を満たしていた。
「……しづき?」
彼女は、動かなかった。
ただ、ぼんやりとした目で、空の一点を見つめている。
私はその場にしゃがみ込み、
力が抜けるように、膝をついた。
「……どうしたら、いいの……」
シャワーの水が、自分にもかかっていたけれど、
冷たさも、濡れる感覚も、もうわからなかった。
“この先、私はどうやって見ていけばいいの?”
私は、ただ――
目の前にいる姉を見つめながら、呆然と立ち尽くしていた。
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