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壊れた姉の見守り方  作者: 朝露 あじさ(Asatsuyu Ajisa)
第2章「ふたりだけの家」
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【第12話】「叫び声の中で」

シャワーの音が、ずっと続いていた。


……おかしい。


普段なら、もう止まっているはずの時間。

私は毛布をはねのけて起き上がると、

壁の向こうにあるシャワールームの方へ耳を澄ませた。


そのときだった。


「ギャアアアアアアァァ!!!」


突然、甲高い叫び声が浴室の扉越しに響いた。

私は全身が凍りついたみたいに動けなくなった。


「ひっ……!?」


間もなく、もう一度。


「GAaaa……っ、アギィギィィアア……っ!!」


断続的に響く、獣のような奇声。

しづきの声だと、すぐに分かった。


「しづき!? どうしたの!? 大丈夫!?」


私は浴室の前まで駆け寄り、扉の前で叫んだ。

けれど、返事はない。

ただ、シャワーの音と、

その中に紛れるようにして――また、叫び声が聞こえた。


「GAhhhhhhッッ!!ぎゃっぶぅああっ、あっ、あっ!!」


「しづき!やめて!開けるよ!?いい!?」


止めても止まらないその声に、私は恐怖を感じながら扉を開けた。


そこにあったのは、想像を超える光景だった。


シャワーの水がしづきの身体を打ち続けている。

その身体は裸のまま、床に座り込んでいた。

髪は濡れたまま顔に張りつき、

目は見開かれ、口からはまだ叫び声が漏れていた。


「っギャアアアア、ッヒャア、ギアウウウウ!!」


「やめて……しづき、やめて……お願い……!」


私は手を伸ばし、肩に触れようとした。

けれど、しづきの身体はびくりと跳ねる。


まるで、そこに“人間”がいないかのような空気だった。


「お願い……やめて……っ」


「ギャィャィャィャーーーア゛ア゛ア゛ーーー!!」


私は泣きそうになりながら言葉を重ねた。

でも、叫びは止まらなかった。


「は゛ぁ゛ぁッ!!やッやッ…っぅうぅぇええええぇぇ!!」


「ぎゃっぶぅああっ、あっ、あっ、ギャアああぉぇ゛ァッッ!!」


「お姉ちゃん!やめてってば!お姉ちゃん、お願い、静かにして!」


水音も、私の声も、何ひとつ届かない。


ひとりきりで、異界に沈んでいく姉を見て――

私の何かが切れた


「パンッ!!」


私は、姉の頭を――

平手で叩いた。


「……ッ」


静かになった。


シャワーの音だけが、空間を満たしていた。


「……しづき?」


彼女は、動かなかった。

ただ、ぼんやりとした目で、空の一点を見つめている。


私はその場にしゃがみ込み、

力が抜けるように、膝をついた。


「……どうしたら、いいの……」


シャワーの水が、自分にもかかっていたけれど、

冷たさも、濡れる感覚も、もうわからなかった。


“この先、私はどうやって見ていけばいいの?”


私は、ただ――

目の前にいる姉を見つめながら、呆然と立ち尽くしていた。

次回も、毎日21時の更新予定です。

続きが気になる方はブックマークや、⭐︎⭐︎⭐︎の評価をいただけると、とても励みになります。

最後まで読んでくださって、本当にありがとうございます。

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