序章「見守るという名の地獄」
2025/8/9に加筆修正致しました。
…
「しづき!! 起きて!! 火事になる!!」
…………
「……どこ行ったの……?」
財布もスマホも持たず、車だけ持って出ていった姉。夜のうちに、何の前触れもなく、何も言わずに。
……………………
警官は、無表情のまま書類に目を落としながら言った。
「最近ほんと多いんですよ、こういうの。精神的に不安定な人が騒いで、通報されるってケース。こっちも暇じゃないんでね」
……え?
…………………………………
リボ払いって……あの“借金地獄”みたいな、あれ?
**『複数のクレジット会社からの引き落としが毎月続いており、リボ払いを利用している可能性が高いと推測されます。』**
「……そんな……」
…………………………………………………………
「ギャアああぉぇ゛ァッッ!!」
!?!?
その声で、目が覚めた。
夢かと思った。でも、違う。
壁越しのバスルームから、現実とは思えない音が響いている。
心臓が跳ねて、全身が強張る。
喉が乾くほどの緊張が一気に押し寄せる。
「……しづき?」
声をかける。返事はない。
その瞬間――
「GAhhhhhhッッ!!ぎゃっぶぅああっ、あっ、あっ!!」
もうダメだ。
これは尋常じゃない。叫びじゃない。奇声。
どこかで聞いたことがある、“人間じゃない何か”の声。
私は恐る恐る、バスルームのドアに手をかける。
扉越しに、水の音と、息を詰まらせるような呻きが混ざっている。
「ギャィャィャィャーーーア゛ア゛ア゛ーーー!!」
鼓膜が軋む。
手が震える。
けど、放っておけるわけがなかった。
意を決して、ドアを開ける。
――そこにいたのは、
全裸でシャワーを浴びながら、膝を抱えた姉だった。
目はどこも見ていない。
精神が壊れた様に、また奇声を上げ続ける。
「は゛ぁ゛ぁッ!!やッやッ…っぅうぅぇええええぇぇ!!」
私は叫ぶ。
「お姉ちゃん!やめてってば!お姉ちゃん、お願い、静かにして!」
水音も、私の声も、何ひとつ届かない。
ひとりきりで、異界に沈んでいく姉を見て――
私は、何かが切れた。
恐怖でも、怒りでもない。
それは、“これ以上無理”という、限界の音だった。
私は、姉の頭を――
平手で叩いた。
「……ッ」
…静かになった。
俯いたままの姉は、シャワーのお湯が流れる足元を見ているかの様だ。
……そこにいたのは、かつての“しづき”じゃなかった。
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それが、私の“見守り”の始まりだった。
次回も、毎日21時の更新予定です。
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