頭を使って
「ぜッ……ぜえ、ぜえ、ぜえ、ぜえ。
はっ。」
勝てない。
アヤメに勝てない。
私は、キリム絨毯の上で大の字になって天幕を睨んだ。
「畜生畜生畜生畜生畜生!
マジかよ、どういうことだ!?」
「ははは…。
何語ですか、それ?」
いつもの遊牧民の行商人、例の女騙しがニッコリ笑って私の前に座り込んだ。
さっきから私が喚いているのをどこかで聞きつけたらしい。
「ご機嫌斜めですね、狩人様。」
「…かなりね。」
「今日は、たぶんこれで30回目ですよ。
狩人の夢に戻って来るのが。」
「で?」
不機嫌に私が睨むと女騙しは、小声で答えた。
「ここだけの話にしますから装備を変えてみてはどうでしょう?」
死に飽きたところを見透かしたような提案。
如何にも手のうちで転がされてる気がした。
「…師匠がなんていうかな…。」
私は、モルガンを持ち出して誤魔化した。
このまま「そうだね!」と答えるのは、癪だ。
戦ったこともない奴にアドバイスされるなんて気に障る。
しかし美形の武器商人は、それさえ軽く受け流してしまう。
女なら誰もがその気になるような微笑で私に優しく囁いた。
「だからここだけの話にしましょう。
見つからないうちに目を覚まして地上に戻ればバレませんから。」
「じゃあ、自慢の商品を見せて貰おうかな。」
私は、観念して立ち上がる。
女騙し野郎は、私を行商隊の幌馬車に連れ込んだ。
「何が厄介ですか?」
「え?」
「敵の何が狩人様を一番、苦しめていますか?
それが分からないのに何度、挑んでも結果は同じですよ。」
思わず私は、女騙しを殴った。
「あぐッ。」
野郎は、避けることもできず不意を突かれて膝をついた。
軽く小突いたつもりでも狩人の怪力は、普通人をビックリするぐらい蹂躙する。
赤子の手をひねるとは、まさにこれだ。
「あんまイラっとさせッとキンタマ捩じ切ンぞ?」
「ひっ。
…し、失礼しました。」
尻餅を着いた女騙しは、鼻を抑えて謝った。
しばらくすると指の間から赤黒い血が垂れてくる。
「………ッ。
……で、ですが敵の傾向を考えてみましょう。
そ…それを参考に私も武器を選びますから…。」
改めて言われるまでもない。
「……強いんだよ。」
自分でも馬鹿みたいなことを言ったと分かる。
もっと具体的に作戦の参考になる何かが必要なんだ。
でも、それが分かればとっくに勝ってる。
「うがあああ…!
分かんねえ゛…!
分かればブチ殺してるってッ!!」
癇癪を起した私は、幌馬車の中で歯軋りした。
女騙し野郎は、鼻血を気にしながらブルッと震え上がっている。
「…どういう仕掛け武器を使いますか?」
女騙しは、また説教じみたことを言って殴られまいと恐る恐る訊いてくる。
向こうも話を持ち出した以上、引き下がれない。
武器商人としてのプライドがある。
私も連戦連敗の屈辱と苛立ちを抑えて答えた。
「刀。
日ノ元の片刃剣で凍り付くやつ。」
「ああ…。
彼の地で鍛造される雪刃鉄から造った曲刀ですね。
しゅ、種類は?」
「血雪と景早、それに叨。
この三振り。
銃は使わない。
二刀流。」
私が説明すると女騙しは、眉間に皺を作った。
「………失礼ですが最後の武器は、聞いたことがなく。
察するに個人に合せて作られた特注品では?」
ほとんど青褪めた顔で女騙しは、慎重に質問してきた。
さっき殴られたのが相当、堪えたらしい。
「デカい野太刀の仕掛け武器。
柄の長い脇差から血刃で刀身を作る。」
「う………。」
女騙しは、鼻を抑えながら考え込んでいる。
しばらくしてまた私に質問した。
「…どの刀もタイプの違う仕掛け武器です。
筋力型、技量型、それに血質型と関係のない武器が混在している。
血雪は、技量と血質。
景早は、まったく血質と関係のない純技量武器。
叨は、おそらく筋力と血質が高い狩人向けの武器になるはず。」
「おそらく?」
「うっ。
こ、個人向けに作られた特注の仕掛け武器ですから話から推察するしかなく…。
…大きな武器なら筋力は、必ず関係あると思うのですが他は…。」
怯えながら女騙しは、そういった。
良い男が震え上がるのも楽しいがここは、話を進めて貰う。
「魔法武器ということもあり得ます。
そもそも冷気を扱う武器なら神秘型の方が威力が高まるので。」
「はあっ?」
「ま、魔法を使うのは、糞虫の狩人だけですが血に神秘の素養を持つ狩人は、その才能を引き出す神秘の武器か特殊な装備を使っているのです。
炎や雷撃、冷気といった類には、神秘の力が大きく作用する。
火炎放射器や雷撃を放つような新しい発明品を利用した仕掛け武器や獣狩りの銃です。
第一、仕掛け武器は、狩人個人に合わせて改造されることもあるものですから叨が血質と神秘に関係ない純筋力武器ということも…。」
最後の行は、余計だったが女騙しの話を聞いていて私にも分かって来た。
アヤトとアヤメは、姿が変わってるだけじゃなく戦型まで変わってるんだ。
アヤメは、技量と血質。
アヤトが筋力と血質、あるいは神秘が高い狩人。
(ってことは、こっちの魔法が通ってない仕掛も神秘型だからか。
それで思ったほどダメージが刺さってない。)
なんでわざわざ自分の能力を隠すのか。
分かり切った話だ。
頭おかしくなった仲間の狩人が襲ってくるからだ。
「………分かった。
私の魔法は、向こうにあまり効かないってことが。」
でも血質が高いってことは、水銀弾の効果も低いことになる。
撃つ場所を狙う技量があれば変わって来るけど私は、銃の扱いが上手くない。
(なるほどね…。
銃も魔法もダメージが通らない。
だから両手に刀ぶら下げてる訳だ。
自分は、敵の遠距離攻撃が通らない。
なのに向こうは、景早の鎖刃と叨の飛ぶ斬撃。
しっかりと遠・中距離の立ち回りを考えた構成…。)
「これって無敵なんじゃ?」
「いいえ。」
女騙しは、血塗れの腫れあがった顔で微笑んだ。
微笑むだけの何かを思いついたのだ。
「どういう仕掛か分かりませんが一人の狩人が二通りの戦型を操ったとしても今回は、付け入る隙がありました。」
「………本当?」




