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次に目を覚ます時




次に目を覚ます時、私は、生まれ変わっている。


次に目を覚ます時、()()()()()()()


「あ。

 あ、あ、あ。」


素晴らしい声。


素晴らしい身体。


全身が、冴え渡っていく。


磁器のように滑らかな肌、黄金の豊かな髪。

男たちの目を奪い、女たちの羨望を集める凄艶な肉体。

そして、この呪声こえ


魔女。

そう、私は、完全に生まれ変わった。


「あは………はははは…。

 はひっ………。」


「ちッ。

 ……なにやってんだ、テメー?」


セスが私に話しかけて来た。

彼らから見れば失神した私が急に目を覚ましてヒステリックに笑い出したというところか。


私は、くるりと振り返る。


「なに?」


彼の目。

彼の表情。


違う。


やはり違う。

今の彼は、食い入るように私の美貌に見蕩れている。

今までとは違う。


「な、なんだ?」


セスが当惑の表情を浮かべているのに私は、心地よい満足感を覚えた。

胸の奥が膨らんで呼吸にさえ甘美なときめきを感じてしまう。


「ごめんなさい。

 魔法の使い過ぎで気分が悪くなってしまって。」


私は、それとなく他の連中の反応も確かめた。


アリス、ドロシー、ジェリー、アヤト。

皆、私を見る目が変わっている。

美しく絶対的なものを見る羨望のまなざしに。


いいえ。

何より自分で自分を愛せるなんて。


「ふ、ふふふ……。」


「ふふ、頭がおかしくなったか。」


アヤトは、そう言って皮肉をもらした。

けれど、もうこれまでと違う。


まるで子供のように彼は、怖じ気づいている。

この世の物とは思えぬ美しい女を前にして緊張している。

あの高慢ちきな東洋人が私に強張っている。


どうしたの?

顔が硬いわよ。

美人が怖いの?


私がそんな挑発的な目線を送るとアヤトは、目を丸くした。

無様に目線を泳がせ、すっかりどぎまぎしている。


「行きましょう。

 教会堂を調べて獣を探し、狩りを終わらせないと。」


私は、そう言って一歩歩き出した。

美しい脚が伸び、揺れる髪が輝き、一層、私の美しさが虹彩を放ち始めた。


セスが私の胸元を熱っぽく盗み見た。

彼の口元に力が入る。


アヤトは、どこ?

私の後ろにいてお尻を見ているのか。


二人とも浅ましい欲望を掻き立てられ、私の虜になっている。

もう頭の中では、私を強く抱き、自分のものにしているでしょう。


私が欲しいんでしょう?

でもお前たちが私のものになったのよ。


ドロシーとアリスは、どう?

自分も私のようになりたいと思っているんじゃないの。


「……あ、なんじゃ?」


私が顔を向けるとアリスは、不思議そうな顔をしていた。

確かに彼女の場合、美人に嫉妬したりしなくても良さそう。


「な、何なら。」




信じられないほど巨大な教会堂に私たちは、進む。

これは、悪夢で歪んだ姿なのか、それとも元々この大きさだったのか。

とにかくあまりに大きな建物だった。


でも山のような礼拝堂の扉は、朽ちて原形を失っている。

他のあらゆる場所も痛み、壊れて薄汚れていた。


中へ入ると獣たちがすぐに目に入った。

ここの獣は、狩人が近づいてくる気配にも気付かない。


姿が獣になったのに知覚能力は、人間並み。

見た目は、四つん這いになった毛深い貧者のよう。

獣と言ってもかなり出来の悪い連中のようだ。


まず私は、左手を星空に伸ばした。

軽く精神を集中させるだけでこれまでと比較にならない深淵に届く。

溢れるような魔力が霊界から引き出される。


「…すごい。」


自分でも想像以上の変化に驚いてしまう。

30個の星がこんなにも簡単に作り出せるなんて。


眩い閃光と共に礼拝堂が震える。

魔法で作り出した青白い閃光は、それぞれ目標に向かって飛んで行った。

獣たちが一瞬で吹き飛び、破壊の後には、無惨な屍に変っていた。


「××××!」


獣たちの反撃が始まった。

一斉に毛むくじゃら共が私たちに向かって飛び掛かって来る。


「ちッ!

 これで終わりじゃねえ!」


素早くセスは、物陰から出てくる新手を迎え撃つ。

アヤトとドロシーも敵に飛びかかった。


アリスは、二丁拳銃で仲間を援護する。

器用な物で彼女は、味方の陰から獣を正確に早撃ちする。

私は、魔法で同じことは出来そうにない。


「ジェリーは!?」


「そっちでコケとる!!」


そう叫ぶアリスが左手の銃(イエルバサンタ)で床を指す。

確かに彼は、そこにいた。


「伏せててッ!!」


ジェリー以外の立っている仲間は、私から離れる。


私は、鎖を握り直し、爆発(アンカー)を頭上で振り回す。

颶風を呑んで鉄の錨は、高熱の炎を吹き、赤い線が夜空を走る。

そして錨が床に直撃すると爆発と共に獣がバラバラに千切れ飛んだ。


だがまだ次々と獣は、波のように新手がやって来る。

という訳ではなかった。


教会堂の獣たちは、これまでのように統率されている様子はない。

けれど誰に命令される必要もなく虫のように逃げ出し始めた。


最初の抵抗が最後の抵抗だった訳だ。

私たちがあたりを見渡すと獣は、一匹残らず逃げ出していた。


「ちッ!

 面倒くせえな。」


セスは、苛立ちながら去勢器キャストレイターをバチバチと何度も握り直す。

アリスも水筒に手を付けた。


「いや、まあ、そりゃ逃げるじゃろうな。

 まとめて襲い掛かってくると思っとたが。

 逆にこうなるか。」


「……今日は、ここまでにしよう。」


アヤトは、そう言って後頭部を掻いた。

拍子抜けしたらしい。


確かに今は、敵のど真ん中にいる。

一度、休憩しないと身がもたない。


「ここの連中は、獣化の度合いが低い。

 臆病な人間と同じと考えて良いな。」


アヤトが適当な場所に座りながら、そう話した。


「しかしこれからどうするのう?

 逃げ回る獣を狩るのが逆にこれだけ面倒とはよ。」


アリスは、素早く銃弾を補充しながら辺りを警戒する。

手持ちの残弾を確認して銃をホルスターに戻す。


「燃やしましょう。」


ジェリーが言った。


「この辺りに油を撒いて燃やすんです。

 逃げる相手を追い回すより効果的です。」


アヤトは、怪訝に顔を険しくする。


「そんな燃料、どこから持ってくる。」


「外から調達して貰いましょう。

 宿礼院ホスピタルのフィンチ診療所や酒場売女(ボールブレイカー)も外から物資を調達してるでしょう?」


「それを俺たちがここまで運ぶのか?」


「あ、いや、その…。

 やっぱり、そんなことできないと思いますよね?

 すいませんでした。」


ジェリーは、急にしぼんでしまった。

言い過ぎたと思ったのかアヤトも困った顔をする。


「いや、俺は、難しいと思うが否定する訳じゃない。

 だが、もう少し細かいところまで考えないとな。」


そう答えたアヤトは、刀を杖代わりにして休みながら考えている。

セスは、歯を剥いて唸った。


「ちッ!

 お前が放火したいだけだろ。」


「だが逃げ回る獣をいちいち追い回すより良いだろう。

 それともお前は、他に何かアイディアがあるか?」


アヤトは、そう言ってセスを睨む。

最初に意見をあげたジェリー自身は、セスに睨まれて縮みあがっていた。


「うっ。

 …そうですよね。

 やっぱり燃料をここまで運ぶのは、難しいですよね。

 第一、危険ですし…。」


「ならナーシャが真っになって獣を誘い出してそこをる!」


アリスは、靴底についた血を地面でこそぎ落しながら言った。

笑いはなかった。


「ちッ。

 ……じゃあ油を運ぶ方がマシだな。」


セスは、うんざりしたように答えた。


確かに逃げ回る獣を必死に追い回して潰していくのは、途方もない時間がかかりそうだ。

けれど大量の燃料を運ぶ方法だって具体的にはない。


「それは、私がやってみよう。」


私は、そう言って皆に背を向ける。

アヤトが自分の肩を手で揉みながら顔を上げて私に声をかけた。


「アテが?」


「うん。

 期待しないで待ってて。」


「だろうな。

 じゃあ、期待させてもらうよ。」


「………ナーシャひとりで平気かな?

 う、くあ………っ。」


ドロシーは、目を擦りながらいった。

疲労が溜まっていたのだろう。

そのまま彼女は、壁に寄り掛かって眠ってしまった。




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