表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/52

オルガン砲




次に目を覚ますと私は、砂漠に戻っていた。


外は、昼間と夜空の中間を保ち、水が引いている。

乳母は、テントの中で例の触手の面倒を見ていた。


「はあ……。」


私が溜め息をつくと乳母は、黙って私の隣に座る。

そのまま私の傍にいた。


私たちは、ベッド兼ソファの上で黙って並んでいる。

ただ虚しい時間だけが過ぎていく。


「おお、戻ったか。」


そういってモルガンが現れる。


「師匠。」


私は、立ち上がって彼女に一礼すると早々と教えを請うた。


「もっと強力な術は、ありませんか?

 私に力をお授けくださいっ!!」


「待て待て、待たんか。」


モルガンは、苦笑いしてピーコックチェアに座ると脚を組む。

そして優美な顎を手で支えて揶揄からかうように目を細めて言った。


「…察するに余りあるぞ、ふふっ。

 君、何か不手際をしただろう?」


モルガンにそう言われて私は、ぎくりとした。


「いッ……。」


「力不足を感じて更なる力を求めるのは、分からないでもない。

 だが待ち給え。

 君は、まだ今の自分の装備を十全に使いこなしているとは、言い難い。」


その通りだ。

現にそのことを指摘されて来たばかりだ。


「無論、君の成長には、時間を要する。

 今すぐ戦力を整えるために装備を改めるのもやぶさかではない。」


「方法があるんですか?」


私は、少し興奮した感じでモルガンにいった。

彼女は、頷くとつらつらと話し始める。


「君は、爆発(アンカー)を使っている。

 これは、俗に筋力向けと呼ばれている。

 無骨で、力自慢の狩人が使う仕掛け武器だ。


 対して蒼天院セルリアンの狩人たちは、技量向けの装備を使う。

 狙撃に適した銃や急所を狙うような繊細な武器だ。


 君の持っているサヤカは、どちらかというと狙撃向きの繊細な銃だ。

 力自慢の狩人が持つ獣狩りの銃とは、言い難い。

 多くの弾を装填できる回転弾倉は、初心者向けと言えるがね。


 今、強力な魔法を新たに習得しても使いこなせないだろう。

 しかし君の戦型に不似合いな装備を是正すれば良い。」


「このサヤカを装備から外す方が良いと?」


私は、腰からサヤカを外してモルガンに見せた。

だが彼女は、首を左右に振る。


「いや、それは、それで良い銃だよ。

 繰り返すが再装填の手間を省いて5発撃てるのは、魅力的だ。

 そのまま持っておいて損はないさ。」


といってモルガンは、サヤカを装備に戻すように促した。


「君は、賢明な狩人だ。

 仕掛け武器、銃、魔法の3つを自在に扱えるようになるとも。

 ……ただそれは、時間をかけなければね。」


「私、そんな自信ありません。」


私がそう答えるとモルガンは、微笑む。


「今は、そうだろう。

 しかし君に流れる狩人の血が、それらを君に引き合わせた。


 それらは、必ず君の狩りの力となる。

 今は、できなくとも。

 狩人とは、そういうものだよ。」


そうモルガンは、お決まりの文句で私に諭した。


「だから今からサヤカを捨てるという選択肢を頭に持って来てはいけない。

 ここから君は、銃も有効に扱えるようになるべきだ。」


「分かりました…。」


「ああ。

 とはいえそれには、訓練がかかる。

 来なさい。」


モルガンは、そういって私をテントの外に連れ出す。


灼け付くような太陽の下。

あの時の行商隊キャラバンが砂漠に現れていた。

そして美形の女騙すけこましがニッコリ笑って私の前に駆けてくる。


彼は、馬車の上から蕩けるような眼差しで私を見下ろし、慇懃に礼をする。


「ご用でしょうか、狩人様。」


「注文の品をお出ししてくれ。」


モルガンが色男にそう言った。

彼は、私に向けて再び一礼するとほろの着いた荷車に案内する。


「さあ、どうぞ。

 獣狩りのオルガン砲です。

 お手に取ってお確かめを…。」


「な、なにこれ?」


私は、目を丸くした。


そいつは、10本の銃身を束ねた小銃ライフルの化け物だ。

それを腕に括りつけられるようにベルトを設えてある。


人を食ったようにモルガンは、微笑んで答える。


「筋力のある狩人なら、それを有効に使わなければね。

 こういう重くて大きな銃火器は、筋力を持て余した狩人にそぐわしい。」


(あーそうですか。)


爆発錨も魔法も敵と離れている方が効果的だ。

こういう武器なら敵の接近を跳ね返せる。


(まあ、確かにね…。)


とはいえ頭の悪そうな武器だ。

私は、苦笑いした。


「でもこれじゃ、狭い場所や近い敵には戦い辛いんじゃ?」


私がそう言うとモルガンは、小さく何度も頷く。


「君の長所を活かす戦い方を工夫するべきだ。

 …それとも、このオルガン砲より良い方法があると思うかね?

 近づいて来た敵を追い返す一手が。」


「う…。

 ああ、まあ、いや、そうですね…。」


そういう理屈か。

私が小さくて取り回し易い武器を持っても戦型に合わない訳だ。


「いや、他にもあるんだ。

 大砲や機関銃とか…。」


そうモルガンは、付け加える。


「大砲!?」


私は、ビックリして声を上げる。

すると美形が横から口を挟んだ。


「ええ。

 大砲や機関銃を選ばれる狩人様もいらっしゃいます。

 見て行かれますか?」


「いや、そっちは良い。

 ナーシャは、まだ自由に武器を選ぶような経験はない。」


とモルガンが答えた。


「オルガン砲は、一度に多くの弾を撃ち出す。

 弾幕を作って獣を近寄らせないように使えるだろう。

 要は、敵を引き離すためにこれを君に選んだ。」


そういってモルガンは、オルガン砲を指差す。


私も言いたいことはあるが、この場は納めておく。

何と言っても師匠だし、アドバイスに従おう。

それに変化を望んだのは、私だ。


「分かりました、師匠。

 これを使いこなしてみせます。」


私がオルガン砲を受け取るとすぐに眠気がやって来た。


いつものように膝から倒れる。

濃紺の空が揺れ、目の前に地面が向かってくる。

けれど私は、地面に倒れる前に姿を消していた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ