SF作家のアキバ事件簿213 恋するスナイパー
ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!
異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!
秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。
ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。
ヲトナのジュブナイル第213話「恋するスナイパー」。さて、今回はカフェに立ち寄ったリア充が次々と狙撃される連続殺人事件が発生w
捜査線上に浮かんでは消える婚約、パパ活、マッチングアプリの勝ち組達。人生負け組のスーパーヒロインが狙撃ライフルを手にした時…
お楽しみいただければ幸いです。
第1章 フィアンセ
「もう式場は決めたの?」
「夢の島の植物園で完璧な式にしたいんだけど、スリクが値段が高いって言うのよ」
「マジ?結婚式だから少しは奮発しなくちゃね」
我がコトのように反発スル友人。
「そうょね。1度きりだモノ…」
友人に笑顔で返した瞬間ヒュッと風を切る音がして…次の瞬間、彼女の頭蓋から真っ青な血飛沫が上がるw
「ね?どうしたの?…キャー!」
異変に気づかず数歩歩いてから振り返った友人は、ソコに変わり果てた彼女を見つける。そして…
「どうしよう、助けて!返り血で私まで真っ青?誰か助けて、お願い!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
殺人現場。
「…また連絡するわ。ありがとう」
覆面パトカーから降り立ち、スマホを切る万世橋警察署の敏腕警部ラギィ。僕は背中から声をかける。
「誰?」
「ダメ。ソレ、personal question だから」
「なら、余計に知りたい。誰?」
彼女とは、前の職場で彼女が"新橋鮫"と呼ばれてた頃からのつきあいだ。今は僕の立派な"元カノ"。
「しょうがないわね。彼の名前はロシャ」
「ロシア人?ウクライナ的な話?」
「いいえ。彼は、他の男が持ってないモノを持っているわ…あ、今イヤらしい想像したでしょ?レジスタンスバンドのコトだから」
なーんだ。
「ソレって、まさかアレか?」
「YES。彼は理学療法で博士号を持ってる」
「そっか…未だ通ってたんだ」
ラギィは音波銃で狙撃され九死に一生を得たが、内規で一定期間のメンタル療法が義務付けられてる。
「あと数回で終わりよ。また元通りになるわ…おはよう。状況は?」
先行してたヲタッキーズのマリレと一緒に、黄色い規制線テープをくぐる。
規制線の向こうには、既に大勢の野次馬が集まって制服警官が立哨に立つ。
「被害者はサバラ・スケス。28才の幼稚園教諭。御覧の通り"blood type BLUE"。友人とヨガスタジオから出たトコロを音波ライフル銃で狙撃されてる」
「1発で頭蓋を撃ち抜かれてるわね」
「YES。もちろん、誰も銃声を聞いていないし、犯人も見てないわ」
因みにタブレットを見ながら状況報告するマリレはメイド服を着てる。何しろココはアキバだからね。
「サイレンサーをつけてたのかしら」
「ラギィ。先入観を捨てよう。流れ弾カモ。空に向けて撃った弾丸が落ちてきて死んだ人もいるぞ」
「弾丸の話でしょ?コレ、殺人音波だから」
路面店の窓枠に刻まれた殺人音波の痕を丹念に3D撮影スル万世橋の鑑識。RTでDB処理される。
「被害者のカラダの前から後ろへ音波が貫通している。発射された場所は…検視結果を待ちましょう。彼女は、ヨガには定期的に通ってたの?」
「火曜と木曜。出勤前に通ってたみたい」
「ヲタッキーズは、彼女に敵がいなかったかを調べてくれる?」
青い血に塗れた死体を見下ろし顔を背けるラギィ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋に捜査本部が立ち上がる。会議室に被害者の婚約者スリクが呼ばれる。
「私達は、先月婚約したばかりで、彼女は質素な結婚式を上げるコトを楽しみにしていました」
「質素?…犯人に心当たりはありませんか?」
「ありません。彼女は、誰からも好かれていた」
死んだ彼女を自慢スル奴。
「元カレが、貴方達の結婚に逆上してるとか」
「サバラは、敵を作るような人じゃない。地味で控えめな女子ナンだ…けども、昨日の夜、妙な男にストーキングされてるって話を聞きました」
ストーカー?
「数日前、幼稚園の外で見かけた人が、ヨガ教室の前にもいたって言ってました」
「どんな男です?」
「え。あぁ思い出せません」
スリク・サリカは、頭を抱える。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の捜査本部。
「サバラがヨガをやってるコトは、大勢の人が知ってた。ウェディングドレスを着れるように頑張ると言ってたそうょ」
「彼女のストーカーを誰か見てないか、友人や同僚に聞いてみて」
「ROG」
飛び出して逝くエアリ。因みに彼女もメイド服だ。だってココは…(以下省略)。
「テリィたん。ルイナが検視局に直ぐに来てくれだって。結果が出たみたい。来る?」
もちろんだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の検視局は地階にアル。白い布で覆われた遺体を前にモニターには緑のスクラブを着た超天才ルイナが映ってる。彼女の"リモート鑑識"が始まる。
「サバラ・スケスを撃ったのは308Hz口径の殺人音波だった。恐らくシアラ社のマスキングシリーズ168。グレイン波形弾ね」
「狙撃専門の音波ライフルじゃナイか」
「この音波弾をよく使うのは長距離射撃手だわ」
小首を傾げるラギィ。
「つまり、遠距離狙撃だってコト?」
「YES。銃槍やドア枠への波形のメリ込み具合から見て、犯人が狙撃した場所は200から300m先ね」
「でも、具体的な狙撃場所は未だ捜査中だから…恐らく発砲したのは、この界隈のビルのどれかね。多分10階から15階の間」
ヤタラ詳しいマリレ。まさか、元狙撃兵?
「あのね、みんな。私の前で、あの言葉を避けなくても良いから」
「…あの言葉?」
「スナイパー」
ラギィにズバリ発音され、一同は目を伏せるw
「そんなコトより、犯人の狙撃の腕前は?」
「特殊部隊のスナイパーにもヒケを取らない。動くターゲットに風向風速も踏まえて命中させてる」
「…彼女は、苦しんだ?」
モニターの中で頭を振るルイナ。
「いいえ。恐らく即死だったハズょ」
「なぜスナイパーはサバラを狙ったのかしら」
「ストーカーの情報は?」
頭を振るエアリ。因みに、彼女は…(以下省略)。
「サバラが言ってたストーカーを見た人はいなかったわ。彼女は、婚約者以外には話もしてなかったみたい」
「ソイツとは無関係カモな」
「テリィたん、どーゆーコト?」
先入観を捨てろ、ラギィ。警察の悪い癖だ。
「サバラが無差別に撃たれた可能性だってアル。多くの場合、犯人は被害者と繋がっていて、動機から割り出せる。でも、もしそうじゃなかったら?サバラは無差別殺人の犠牲者だって可能性もアル。その場合、僕達はどー捜査すべきかな」
上から目線でトンチンカンなコトを逝ってる僕。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜、遅くに帰宅したラギィは、黒の下着姿になる。薄い胸の谷間に、かつて被弾した痕跡が残る。
目を閉じると既視感が襲う。音波ライフルの音。混乱する現場の怒号。ラギィ被弾。遠くで声がする。
呆然と立ち竦むラギィ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
翌朝。
音波ライフル銃のサイレンサー付き銃口が、通りを伺う。黒い手袋をした誰かが引き金に指をかける。
照準スコープの中で、風に揺れる街路樹。標的を探す。スマホを見ながら歩いて来る、恰幅の良い男。
鈍い発射音。
第2章 パパ活
狙撃現場。今度は神田リバー沿いだ。ラギィと黄色い規制テープをくぐって現場に入る。
「被害者はヘリワ・ハイト。弁護士ょ。"blood type RED"」
「同じ犯人?」
「そのみたいね」
先行したエアリの報告の最中に誰かがパトカーのドアをバタンと閉める。怯えた表情で振り向くラギィ。
大丈夫か?
「誰か目撃者は?」
「いない。前回と同じね。被害者は、今度も頭を撃たれてる」
「同じ時間帯か。この連続狙撃事件、まだ拡大するかもな」
鑑識がビルの壁から弾丸をほじくり出してる。
「なにソレ?銃弾?」
「YES。変形してるけど、恐らく前回の音波ライフル銃と同じ口径みたい」
「今回は殺人音波じゃナイのか。実体弾だ」
鑑識は、証拠品袋に弾丸を入れる。
「前回よりも急角度で当たってる」
「より高い階から撃ったってコトね」
「何処かしら」
みんな一斉にビルを見上げる…傍らのラギィの様子が変だ。何か見つけたのか?ソコへ、誰かが何処かで急ブレーキを踏む。立ち眩みを起こすラギィ。
「ラギィ、大丈夫?」
「平気ょ。ただ…どうしてココで撃たれたのかなと思って」
「犯人は、ターゲットは無差別でも、狙撃には十分な準備をしてる。遠距離の狙撃は簡単じゃないわ。プロだから、当然下見してると思う」
専門家的な意見だ。マリレは陥落寸前のベルリンからタイムマシンで脱出してきた、いわゆる"時間ナヂス"(彼女は国防軍です念のため)だ。
「スナイパーは、あらゆる条件を考慮スル。ターゲットまでの距離や角度を把握して、あと風の流れも考慮スル。それから狙いを定めるのょ」
周囲に視線を飛ばす。交通標識に何気に貼られた小さな緑の三角形のペナントを見つける。
「どうしたの?」
「この小さなペナントは風光風速計の代わりね」
「え。」
確かに風にそよいでいるが…
「うーん偶然じゃないな」
「犯人がつけたの?」
「だとすれば、この付近の防犯カメラを調べれば犯人の顔がわかるカモ」
その時、傍らのパトカーが突然サイレンを鳴らす。なーんと驚いたのかラギィがペタンと尻餅をつく。
「大丈夫か?ラギィ」
ヲタッキーズのメイド達は顔を見合わせる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋に捜査本部が立ち上がる。例によって大型モニターに大写しのSATOゲイツ司令官が吠えてるw
南秋葉原条約機構は.アキバに開いた"リアルの裂け目"由来の事象に対応スル防衛組織だ。
従って、スーパーヒロイン関連はSATOと警察との合同捜査となるが、指揮権はSATO側にアル。
「謎のスナイパーが24時間で2人を射殺し、秋葉原の街を脅かしてる。犯人の正体も動機もわかってない。2人目の被害者は?」
「ヘリワ・イアト。弁護士です。"blood type RED"ってか男性だし。前の現場から2ブロック離れたトコロで狙撃されて即死。秘書によれば、散歩好きで行動は予測しやすいタイプだった。サバラ・スケスと同じですね」
「だから何なの?秋葉原のヲタクにだって日課があるわ。狙撃場所はわかったの?」
怒られるヲタッキーズ。因みに、彼女達はメイド服だ。何しろ、ココはアキバ(以下略)。
「捜査中です。未だ発見には至っていません」
「犯人がどこに隠れていたかをまず調べて」
「ROG」
傍らのラギィに小声で話しかける。
「少しぐらい驚くコトは誰にだってあるさ」
「いいえ。あり得ないわ、私には」
「僕は、ただ…」
「黙ってて!」
突然大声を出すラギィ。みんなが振り向く。モニター画面の中からゲイツが絡んでくる。
「ラギィ警部、2人の被害者に共通点は?」
「なんですか?」
「被害者に何か共通点は?」
早くもイラつくゲイツ。
「未だ捜査中ですが、自宅や勤務地はそれぞれバラバラで、どうやら共通の知人もいないようです。今のトコロ、2人を結びつけるような共通点は無いようです」
「OK。捜査を続けて。犯人は高度な訓練を受けたスナイパー。でも、軍や法執行機関にはスナイパーが山ほどいる。関係者を調べてちょうだい」
「該当者は1000人はいるでしょう」
溜め息をつくヲタッキーズ。
「この秋葉原にいる全ての人が誰でもターゲットになり得る。一刻も早く犯人を捕まえて。解散」
僕は、溜め息をつく。捜査本部を出て逝くラギィを呼び止める。
「ラギィ。何処に行くんだ」
「ちょっと用があるの。行かなきゃ」
「ねぇラギィ。ペナントが貼ってあった場所の防犯カメラ映像がもうすぐ届くわ!」
息咳き込んでマリレが駆け込んで来る。ところが、何も答えず、姿を消すラギィ。みんなドン引きだ。
「どーしちゃったの?」
「わからない。大丈夫かな?」
「…さ。画像を見ょ?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
豪華なソファに深々と座る2人。ラギィが口火を切る。
「一刻も早くまともな状態に私を戻して」
「仕方がないコトなんだ。君の状態は過覚醒と呼ばれるもので心的外傷の代表的な症状だ」
「いいえ、PTSDナンかじゃないわ」
正面に座る初老の男。
「いいや。君は狙撃されたンだ、ラギィ。君が故意に避けてきた問題を、この事件は容赦なくえぐり出す」
「わかったわよ。私は問題と向き合う。だから、とにかく今は、この症状を止めて。貴方、医者でしょ?」
「症状は直ぐには止められない。時間をかけて治療しないと。心に負ったトラウマも、体に負った傷も同じなんだょ」
ラギィはセラピーを受けているのだ。
「人が殺されていってるの。私だけがメンタルになって悠長に待ってなんかいられないわ」
「そうか。ならどうする?常に狙撃される恐怖の中で、電気街に出て逝くのか?窓に何かが光る度に、狙撃ライフルだと脅えながら?」
「この状態を改善するような何か薬があるでしょ?私の症状を緩和する何かが」
静かに首を振る初老の男。
「薬に即効性は無い」
「じゃどうすれば良いの?」
「この事件から降りたらどうだ?」
しばし絶句するラギィ。
「…私には無理だと?」
「君が頑張らなくても、警官は他にも大勢いる。今回は、SATOに任せてはどうだ」
「そう。じゃこうするわ。もう帰る。ありがとう」
立ち上がり、部屋を出て逝くラギィ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の捜査本部。
「ラギィは、大丈夫だと言ってるけど、あんな風にキレるナンて」
「マジだったょな」
「私も従軍がトラウマになったわ」
ヲタッキーズと溜め息をつき合う。
「彼女は、狙撃された瞬間を覚えてないだけ、まだマシってコトか。思い出したくもナイだろうし」
「忘れたいのょね。でも、この事件でまた記憶が蘇るカモ」
「どうすれば良い?」
僕はフランス人みたいに両肩をスボめてみせる。
「犯人を捕まえルンだな」
「その通り。ソレがラギィにも1番だ」
「ラギィは、しばらくソッとしとこう。彼女も悪気はないんだ」
全員で溜め息をつき、気を取り直して街頭カメラの画像に目を通すと…交通掲示板にペナントをつけるフードを被った男。
「ほら、コレを見ろ。2日前の16時半!」
画像停止するマリレ。
「ペナントを貼ってる。奴が犯人ょ」
「防犯カメラの位置を知ってて巧妙に顔を隠してるな」
「マリレ、画像を切り取って」
スナッピングツールで画像を切り取る。
「なぜ監視カメラがある通りを選んだんだのかな。防犯カメラがない通りだってあるのに」
「僕達への挑発だな」
プリンターから写真画像を出す。
「被害者の同僚にこの写真を見せて目撃者を探してみるわ」
早速出かけて逝くエアリを見送りながら僕。
「そんなに簡単に捕まらないだろうな」
「YES。犯人は、恐ろしく賢くて辛抱強い。スナイパーの特性ね」
「何?…待って。鑑識を呼んで。10分で行くわ」
スマホが鳴り、事態が動き出す。
「2人目の狙撃場所がわかったわ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
神田山本町。
内装工事中の貸ビルの1室。壁はペンキ塗りかけ。足場が組んである。むき出しのコンクリートの壁。
「間違いない。ココから現場が見渡せる」
マリレは、手慣れた動作で自分の照準スコープで表の通りを見る。僕にスコープを渡す。
「距離は550m。腕は超一流ね。でも、変だわ」
「何が?」
「街路樹が視界の邪魔になるわ。通り全体が見えない。屋上からの方が、よっぽど狙いやすい。なんで屋上から狙撃しなかったのかな」
元狙撃兵?のマリレは即答。
「周りのビルからの視線やヘリを気にしたカモ」
「おや?」
「何?」
両手を広げた紙の人形だ。遺留品か?
「犯人は、この窓から撃ったワケか」
「そぉね。通りの人からは見えないように、こっちから撃ったハズ。多分ココね。時間をかけて、先ずペナントを確認。風に合わせて微調整。スコープの中に標的を捉えて…打つ。バーン」
「薬莢は右に飛んだハズだな」
マリレと2人で床に手をついてベットの下を見る…果たして金色の薬莢が転がっているのが見つかる。
「ビンゴ」
得意そうなマリレ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
エレベーターの中。ラギィの息が荒い。ドアが開くやラギィにドンとブツかり警官隊が乗り込んで来る。
凄まじい喧騒だ。捜査本部の全員が走ってる。
「ラギィ?何処にいたんだ?電話したんだぞ!」
「電源を切ってたわ。何?」
「犯人の狙撃現場に落ちてた薬莢から指紋が出たの。元特殊部隊員フォドのモノょ」
矢継ぎ早の状況説明だ。
「最近離婚している。犯行の典型的な原因だ」
「フォドは、妻恋坂で射撃場を経営してる。万世橋は武装機動隊を出したわ」
「ラギィも行くわね?」
ところが、ラギィは棒立ちになって立ちすくむ。扉が開いたエレベーターに…ナゼか乗ろうとしない。
「僕達はココに残って取り調べの準備をしてる」
「ROG。コッチは任せて」
「頼むぞ」
閉まるドアに向かって、小声でエアリにthank youを逝う。その瞬間にエレベーターの扉が閉まる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
捜査本部の取調室。元特殊部隊員フォド・ファドは意外にも太った禿頭だ。ラギィと取り調べる。
「妻恋坂にある貴方の射撃場から大量の武器が見つかったわ」
「俺にだって武器を持つ権利はあるだろ?」
「今、貴方の狙撃ライフルを検査してるわ」
ラギィはマジックミラーに背もたれしながら上から目線で語る。彼の正面には僕が座っている。
「調べろよ。俺は誰も撃ってナイ」
「ソレは違うだろ。軍の記録によれば、君は少なくとも92人殺してる」
「だから?みんな、仲間を救うためだった」
挑発に出るラギィ。
「ちょうど100人にしたかったんじゃないの?照準器を狙う気分はどう?自分が神様にでもなったつもりで、人の命を奪って人生をめちゃくちゃにして楽しむワケ?」
手錠した手をで机を叩くフォド。
「アンタにゃ関係ねぇだろう!」
「言わせてもらうけど、アンタが撃たれる側になれば良いのよ
「おいおい!おまわりさん、ソレは脅しか?」
僕は…呆気に取られる。
「アンタにとっては、被害者はただの紙のターゲット?アンタは、撃たれた人の痛みとか考えないの?残された家族の悲しみとか」
「仲間の命を守るためだ」
「そうかしら。楽しかったんじゃないの?アンタは殺す機会を待ち望んでた」
ラギィ、どーしたンだ?
「アンタ、イカレてるよ」
「犯人が残した薬莢に君の指紋がついてたンだ」
「あり得ねぇ」
明後日を向く元狙撃兵。
「ウソ、つかないで!」
「もう話すコトはねぇ。黙秘する。俺の権利だ」
「アンタに権利ナンか…」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
取調室から出て来た僕達にマリレがささやく。
「マズいわ。現場の銃痕がフォドの狙撃ライフルと一致しないの」
「奴は凶器を隠したンだわ!」
「ラギィ、落ち着いて。フォドは犯人じゃないわ。2件ともアリバイがアル」
本部のモニター画面に食ってかかるラギィ。
「ラギィ。私だって、確認方法は知ってるわ」
「では、なぜ彼の指紋が薬莢に?」
「詰め直したのね。フォドの射撃場で拾った薬莢を再利用したんだわ。あのね。新しい弾丸を詰めるのは簡単なの。道具さえあれば」
ヤタラ詳しいマリレ。
「つまり、犯人はフォドの射撃場の客ってコト?」
「ラギィ。も1度、フォドと話して。協力を仰いで頂戴ね」
「まさか…ラギィがあんな態度に出た後じゃ無理だょな。トホホ」
大袈裟に嘆いてみせたらマジで睨まれる。
「私が悪いの?」
「いや。そんなコトは…」
「大丈夫ょラギィ。貴女は怖い警官の役を演じた。次は優しい警官の出番だわ」
ヲタッキーズのメイド達だ。
「…じゃ頼んだわ」
「フォドの情報で犯人がわかるカモ。頼むぞ」
「アイアイ…フォドさん、すみません」
取調室に消えるヲタッキーズ。デスクからホワイトボードを見上げているラギィ。おい逃げろ!ラギィ?ラギィ、撃たれたの?狙撃された時の既視感w
「ラギィ。コーヒーだ」
グランデカップを差し出す僕。
「いいえ。いらないわ」
「デカフェだ…聞いてくれ」
「私なら大丈夫」
僕は溜め息をつく。
「ソレは心配してない」
「そのファイルは何?」
「紙の人形の鑑識結果さ。子供が切ったモノじゃなく、正確に工作道具で切られたモノだった」
僕はファイルから現場で拾った紙の人形を示す。
「雑誌を切ったのかしら」
「厚さがあるし、裏が派手だから、カフェに置いてあるような大型本だろう。恐らく画集。良く見ると筆遣いがわかる。犯人のお土産カモ」
「何のために?」
ラギィは、虫眼鏡で見ている。
「わからない。多分フォドは映像の男を知らない。今どきの射撃場はクレジットカードで払う奴も少ないらしいんだ」
ラギィのスマホが鳴る。
「ラギィ…わかった。今どこ?すぐ行くわ」
「サバラを撃った場所がわかったの?」
「YES。エアリが見つけたわ」
立ち上がるラギィ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
神田花籠町。秋葉原ヒルズの城下町みたいな街角。
中古の雑居ビル6F。
「管理人が映像と同じジャケットを着ている男を目撃してるの」
「でも、なぜこの部屋とわかったの?」
「コレがあったからょ」
紙人形を見せるエアリ。マリレはテーブルを指差す。
「ココだわ。犯人はココからサバラを狙撃したと思う」
「紙人形だけど、最初のと柄が違うな。何か意味があるハズだ」
「どんな意味?」
既にイライラし始めてるラギィ。
「わからない。でも、何か理由はあるだろう」
「私を馬鹿にして嘲笑ってルンだわ」
「おいおい、ラギィ」
メイド達は顔見合わせる。
「ラギィ。焦らないで」
「ねぇ!コレ見て。モールスキンょ。狙撃ライフルの銃床に置いて、汗を吸わせるの。軍のスナイパーはみんなやってる」
「汗からDNAを採取出来るわね」
メイド達はスキンを証拠品用のビニール袋に入れる。早速、鑑識に持ち帰る。
「始まりはココね。ココで最初の引き金を引いた。完璧な結婚式に胸を踊らせてたサバラの命を一瞬で奪った」
ラギィはブツブツつぶやく。僕はマリレが指摘したテーブルの上で毛糸を見つける。犯人の着衣か?
「犯人は、スコープの中の彼女を見てる。スナイパーは、マシンで殺人を実感してないように言う人もいるけど、そんなワケない。スコープを通して私達よりも被害者を間近に見てるモノ」
「ラギィ。犯人は必ず捕まえよう」
「私を撃った男もね」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
幾多の雲が流れ聖地アキバに夜が来る。グラスにバーボンを注ぐ。瞬間、狙撃された瞬間の既視感。テーブルをひっくり返して、ソファから滑り落ちる。
暗闇。自分の心臓の鼓動が消えて逝く音。ストレッチャーで運ばれる。胸から血がほとばしり出る。
いつの間にかグラスは割れていて、闇の中で音波銃を構えているラギィ。その腕から血が一筋伝う。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
御屋敷のバックヤードをスチームパンク風に改装したら居心地が良くて常連が沈殿して、いつもは困っているのだが…
今宵はオーナー自ら沈殿w
「テリィ様!まさかまた徹夜を?」
「ミユリさん。眠れなかったんだ。2日で2人死んだ。今は、誰もが3人目の犠牲者になり得る」
「マジ?今日はお出掛けスルのヤメょかな」
常連のスピアは思案顔だ。
「そうだな。犯人が捕まるまで、カワイイ子は御屋敷から出ない方が良いカモ」
「ラギィは辛いでしょうね」
「強がってはいるけどね」
カウンターの中から聞いて来るミユリさん。僕の推しはココのメイド長だ。もちろん"blood type BLUE"。変身した彼女はムーンライトセレナーダーだ。
「テリィ様。どうなさるおつもり?」
「僕は、なぜ犯人がこの紙人形を置いていったかを考えてみたい。先ず、誰の絵で出来てるかを調べているトコロさ」
「テリィたん、ソレ見せて」
紙人形をスピアに見せる。スピアは紙人形を摘んでしみじみ観察。スケール付きの付箋がついてる。
「キアロスクーロだわ」
「何ソレ?美味しいの?」
「ルネッサンスに発展した明暗の対比による画法。ハッキリしたコントラストが特徴なの。カルチャーセンターの美術史で習ったばかり。カボッジョかペテルツアーノを調べてみる」
誰ソレ?凄まじい勢いでPCを叩くスピア。
「多分コレだわ。ペテルツアーノの’"王達の迫害"ね。ほら。この紙人形は、ココのピース」
ハッカーのスピアは、PC画集から1ピースをスニッピングツールで切り取り、紙人形の画像に重ねる。
ピッタリだ…ピッタリだがソレってどーやるの?笑
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の捜査本部。自分のデスクで街頭カメラの画像を見ているラギィ。
腕には赤い血の跡のついた包帯を巻いている。慌ててライダースジャケットの袖で隠す。
「ラギィ!DNAは該当者ナシだったわ!」
「エアリ。何か結果が出たの?キチンと報告して」
「データベースと一致しませんでした。モールスキンのDNAからは、明るい髪の色で目が茶色の女性としかわかりません」
モニターで吠えるゲイツ司令官に大声で報告するエアリ。ゲイツはSATO司令部から捜査指揮してる。
「スナイパーは女性?でも、該当する容疑者は200人以上いる。ソレに、未だ容疑者リストを絞り込むのは早い。モールスキンも汗が犯人のモノとは限らナイし…」
捜査が停滞スルこのベスト?タイミングに駆け込む僕。
「みんな!紙人形の意味がわかったぞ!」
「テリィたん。貴方の妄想に付き合ってるヒマはナイのょ」
「みんな聞いてくれ!あの人形は犯行予告ナンだ。紙人形を切り取った元の絵が、次の犯行現場を予約してルンだ!」
みんなポカンとしてる。
「最初の紙人形の絵は"王達の迫害"だった」
僕はホワイトボードに貼られた弁護士の顔写真を指差す。
「ヘリワ・イアトは、キング通りで殺されたわ」
「その通り」
「2つ目の人形の絵は"原罪と楽園追放"だ。因みに楽園の英訳は"グレース"だょ」
ヘブンじゃナイのかw
「和泉橋の北詰にグレースアベニューってアルけど」
「新興宗教"洪水教"のグレース教会も近くにアルわ。4番街」
「な?次の犯行が起きる前に候補地を絞り込めれば、スナイパーの出鼻を挫くコトも出来るぞ!」
その時、捜査本部内の全てのスマホが一斉に鳴り出す!全員がキョロキョロ。何事?緊急地震速報か?
第3章 マッチングアプリ
"グレース秋葉原"は42F建ての豪華タワマンだ。地上から見上げると角度によってはテッペンが見えナイ。
「死者はナシ?」
「YES。ありません、警部。スナイパーは15階の硬化ガラスを撃ち抜いてます」
「他に怪我人は?」
ストレッチャーを推す救急隊員は首を横に振る。
「いません。こちらのエリミさんだけが狙われた模様です」
「私は、万世橋警察署のラギィ警部です。エリミさん。何があったの?」
「なぜ私なの?私が何をしたの?神田明神も照覧あれ、マジ信じられない!」
ストレッチャーの上で完全に取り乱してるエリミ。
「警部さん。誰が私を殺そうとしてるの?教えて」
「貴方。何か不審者を見てませんか?」
「そんなのわからないわよ!」
救急隊員が割って入る。
「警部。後にしてください」
「らめぇ!私、タワーの外には出たくない。また狙撃されちゃう!」
救急隊員の腕をヒシと掴むエリミ。
「大丈夫だから、エリミ…」
「らめらめっ!私を外に出さないで!殺される!」
「行って!早くココから彼女を連れ出して!」
ストレッチャーを推し出す救急隊員。ソレを振り返りもせズ側の会議室に飛び込むラギィ。施錠スル。
「ラギィ!」
僕の叫びはスルー。会議室のドアを閉めるや、ライダースジャケットを脱ぎ捨てバッチも投げ捨てる。
「なんで?なんでなの?私、どーしちゃったの?」
頭を抱えながら、床に泣き崩れる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ラギィは精神的に限界だ。彼女は、今回の事件を降りるべきだと思う」
「でも、彼女が降りるワケがナイ」
「その通り。だから、こうやって自分を追い詰めルンだ。死ぬまでな」
本部のエレベーターのドアが開き、正に憔悴しきった目つきのラギィが入って来る。僕は声を落とす。
「マリレ。実は、ミユリさんがラギィとよく似た経験をしている。今、ラギィの気持ちがワカルのはミユリさんだけだ。どうやって立ち直ったのか、聞いて来てくれょ」
うなずくマリレ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
暗い部屋にラギィを呼び出す。ココは資料庫だ。
「ミユリ姉様。何の御用なの?」
「ラギィ。見せたいモノがアルわ」
「コ、コレは?!」
奥からスナイパー音波ライフルを取り出す。
「貴女を撃ったライフルょ」
「姉様、何の真似?」
「良いから見て」
身構え、後退りするラギィ。
「何がしたいの?」
「ラギィ。私も貴女と同じ体験をしたからわかる。古代太陽系に未だ太陽が3つ萌えていた頃」
「…何の話?私なら平気です」
キッパリ否定するマリレ。
「どこが平気?平気なフリをしてるだけでしょ?コレはタダの道具。タダの鉄の塊で魔法の力なんてナイ。コレを撃ったスナイパーも、別に全能の神じゃナイ。今、私達が追っている犯人と同じ、銃を持ったタダの人間。他の悪党と同じ、心を病んでるイカれた野郎なの」
「わかってる…でも、私もそうだから」
「そうょね?でも、ソレで良いの。ソレを自分の弱点だと思うか、強みにスルかょ。ねぇ強みにすれば良いの。だって、ソレもラギィ。ラギィの1部ナンだから」
両手で掴んだスナイパー音波ライフルを差し出す。
「ラギィ。利用スルのょ」
ライフルに近づくラギィ。恐る恐るライフルを手にスル。半泣きだ。頬に一筋の涙を伝わせうなずく。
「利用して」
ライフルをラギィに預け、資料庫を出る。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の捜査本部。例によって、モニター画面でSATOのゲイツ司令官が吠えてる。
「エアリ。何かエリミの情報は?」
「投資会社の副社長でした。独身で、最近マッチングアプリで秋葉原セレブの御曹司をゲット。犯人は、明らかに彼女を尾行してましたが、他の被害者との接点はナシ。画像はエリミの会社のロビーです。昨日の13時40分。弁護士のヘリワ・イワトが撃たれた4時間後」
「あら?」
エメリが歩きスマホでエレベーターに乗る画像だ。突然、フードを被った怪しい男が画像に割り込む。
「恐らく犯人ですが、やはり、今回も残念ながら顔は写っていません」
「エメリが何階で降りるかを確認してる。用意周到です。エメリは、コレでオフィスを知られた」
「ソレで向かいのビルから狙撃か」
エアリは、メイド服のポケットに手を突っ込んだまま。ラギィは腕組みしてる。ソコへマリレが入って来て、僕を見てうなずく。僕は、うなずき返す。
「オフィスまで追いかけて、会議中に狙撃?助かったのは奇跡ね」
「ゲイツ司令官。奇跡なんかじゃありません。ある意味、当然の帰結。犯人は弾丸を間違えました。168グレイン弾頭は強化ガラス越しの狙撃には向きません。165を使うべきでした。知らずに168を使ったのは、思ったよりもスナイパーとしては未熟な証拠です」
「わかったわ。容疑者リストから市街地での狙撃経験が多いスナイパーを外してちょうだい」
僕からは新たな視点を提供。
「気のせいかな。エリミはヘリワと同じスターボックス珈琲を飲んでる」
「エリミが手にしてる紙コップを拡大して」
「あのタワマン界隈だと、東47丁目にスタボの路面店があります。ソコから尾行したんだ。店員が何か覚えてるカモ」
僕はスマホで検索。
「なるほど。東47丁目店は、エリミのタワマンから2ブロック。他の被害者もそのスタボを利用していた可能性がアル」
「直ぐ調べて。ラギィは?」
「手がかりを追ってます…多分」
何も逝わずにゲイツの画面が消える。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
同時刻。音波ライフルを現場に持ち込み窓から狙撃のポーズを取るラギィ。
窓の外にラッパ型に開いた音波銃の銃口を向けて、照準スコープをのぞく。
「街路樹が邪魔だわ。屋上からの方が狙いやすいのに、なぜココから撃ったの?」
音波ライフルを肩に担ぎ、給水塔のアル屋上へとハシゴを登ろうとするラギィ。ふと何ゴトかに気がつく。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
再び万世橋の捜査本部。
「幼稚園教諭のサバラ・スケスのアパートは、エリミ・エミラ投資会社副社長のタワマン"グレース秋葉原"の近くで、3日前にスタボ東47丁目店を利用しています」
「3日前?よくわかったな」
「スタボのレシートがヲ財布に入ってた」
モニターのゲイツ司令官が吠える。
「2人は繋がった。残るヘリワ・イアトはどう?」
「スタボ東47丁目店の向かいにあるセラピストを狙撃される2日前に訪ねてました」
「繋がったわ!犯人はそのスタボでターゲットを選んでたのね?一刻も早く犯人を特定して。次の犠牲者が出るわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
スターボックス珈琲の黒エプロンにタブレットで被害者3人の画像を見せる。
「なるほど。確かに3人ともウチの店の常連です。狙撃犯はウチの顧客をターゲットに?」
「未だ捜査中です。単なる偶然の可能性もアル。この3人ですが、お互いに話したり一緒にいたりしたコトはありませんか?」
「覚えてませんね」
続いてマリレは、フードで顔が見えない犯人?の画像を示す。
「コイツが犯人ですか?!」
「捜査中。見覚えは?」
「見覚えも何も顔が見えないと何とも」
バックヤードから店長ヲ電話ですとお座敷がかかる。
「ちょっと失礼」
「彼をゲットしたい?貴女の親から頼めば?きっと大丈夫よ」
「やったぞ!ナンバー級と店外交友のアポだ!マジ奇跡で夢みたいだ」
店内は男女系のリア充会話で満ちているw
「このスタボ東47丁目店に来なければ、今頃被害者は狙撃されるコトもなく?」
「あながちそーとも逝えない。やっと3人の共通点がわかったぞ」
「ソレは何?教えて、テリィたん」
メイド達が僕を見る。
「幼稚園教諭のサバラ・スケスは婚約。完璧な結婚式を夢見てた。弁護士ヘリワ・イアトは、少女買春で微少女アイドルを、投資会社副社長エリミ・エミラは会員制マッチングアプリでセレブ御曹司をゲットしてる。全員が恋愛リア充だ。コレらのファクトから超天才ルイナのプロファイリングによれば、犯人は被害妄想のヒステリー女。社会から阻害された恨みを感じ、常に自分は被害者だと思っている。きっと、コーヒーショップでリア充達の幸せを耳にして、自分の境遇との落差に怒りを募らせたに違いない。自分は無価値、そう思えて怒りに萌えた。被害者は、その腹いせにされたんだ」
「そ、そうなの?…まさか、ソレこそテリィたんの(被害w)妄想ナンじゃ」
「そうょ妄想だけじゃ犯人は特定出来ないわ」
散々wだが、ココへラギィが転がり込み形勢逆転。
「いいえ。割り出せるカモ。現場で重要な手がかりを見つけたわ」
「ラギィ!」
「もー大丈夫なの?」
颯爽と本部に戻って来たラギィ。自信に満ちた所作で手を挙げて微笑む。よっしゃ逝け!
「犯人が屋上から狙撃しなかったのは、犯人は屋上へのハシゴを登れなかったからょ」
「そっか。何度かカメラに映った、フードを被った男女不明の人影は、微かに足を引きずってるように見える。多分障害がアルんだわ」
「えっと店長。足が不自由なお客さんに心当たりはアルかな?ちょっち引きずってるとか、足を怪我してるとかだけど」
即答が帰って来る。黒エプロンは伊達じゃナイ。
「実は、ココ数週間、何度か見かけたホームレスの顧客が義足をつけてました」
「人相を教えて下さい」
「喜んで」
僕とラギィは顔を見合わせ微笑む。
第4章 恋するスナイパー
万世橋の捜査本部。全員が集まる。
「容疑者リストを足が不自由な人物に絞る。部分的または全体的に切断。コレで該当者は207人中3人に絞れたわ。エリク・ハワド、リトラ・ヴィス…」
「待って。そのリトラ・ヴィスだ。スタボ店長に描かせた似顔絵は?」
「アイアイ。左右に並べるわ」
リトラと似顔絵は…同一人物だ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「…リトラ・ヴィスは、水陸機動団に入隊後、休暇中にひき逃げされ右足を切断。犯人不明のママ名誉除隊扱いになってます」
「カウンセラーによれば、リトラは鬱状態で、社会を激しく憎んでいたそうです。除隊後は、給料の安い仕事を転々として、メトロポリターナ美術館の警備員とかもやって、その時ペテルツアーノの展示室に良く足を運んでいたそうです。当時の上司によれば…」
「ソコまでで良いわ、エアリ。リトラの写真と経歴を頂戴。1時間以内に秋葉原中がリトラを知るコトになるわ」
モニターの中で息巻くゲイツ司令官。
「ゲイツ司令官、待ってください。ソレは逆に危険なのでは?警察が迫っているとわかれば、彼を次の犯行に走らせる可能性があります」
「リスクは覚悟の上。居場所を知るためにはやむを得ないわ。リトラの家族に関しては?」
「池袋の乙女ロードにお姉さんがいます。連絡を取ってみます」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
池袋の乙女ロード。裏通りのアパート。
「マジで妹なんですか?」
「残念ながら…驚かないんですか?」
「あの事故以来、妹は妙に怒りっぽくて色々助けようとしたけど、私の助けを受け付けなかった。こんな事件を起こすなんて、とても残念です」
首を垂れる姉。
「最後に妹さんと会ったのは?」
「1ヵ月ほど前に私を訪ねて来ました」
「その時、妹は家を失い、私と同居したそうだったけど…子供と住まわせたくなくて」
半泣きになる姉。
「今、彼女は?」
「別れる時に私が乗っていたEVをあげました。型落ちのプリウスダスターです」
「ナンバーを描いてください」
スラスラと数字を描き並べる。スマホが鳴る。
「はい、ラギィ…どこ?直ぐ行くわ」
「どーした、ラギィ?」
「マリレが3件目の狙撃場所を見つけた。すみませんが、コレで失礼します」
姉は、唇を噛む。
「警部さん。妹の罪の重さはわかってるけど、どうか手荒なマネはしないで」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「こんな廃ビル、どうやって見つけたの?」
ライトで闇を照らしながら歩く僕とラギィ。
「タマタマ盗み聞きしたみたい。ほら、ホームレスって誰にも気にせズにベラベラ喋るから」
「マジか?ちょうど良いビルを決めた。後は狙撃ポイントを選定スルだけだってか?」
「さ、紙の人形を探して次の犯行場所を突き止めましょう」
廃墟のような部屋。キッチンシンク、ソファをライトで照らしながら探る。
「あった…ウソだろ」
「次の被害者とかワカル?」
「いや。人数だけど1人じゃないみたいだ」
ズラリと手をつないだ紙人形を広げて見せるw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
大陸と大陸を結ぶ地底超特急の国際的ハブとなったグランド末広町ステーション。
今や国際観光都市へと成長したアキバの表玄関となりインバウンドでごった返す。
「警部。パトロール隊がグランド末広町ステーションの駐車場B-329でリトラの車を見つけました」
「狙撃ライフルはなかったの?」
「はい。トランクは空でした」
またまたモニターから吠えるゲイツ。
「みんな良く聞いて。総力を挙げて捜査に当たるように。リトラ・ヴィスは武装し、無差別に人々を殺そうとしている。最初の3人同様、犯行は朝だと思われる。一方…わ!テリィたん。万世橋じゃなかったの?」
「いや、ゲイツ司令官。直接話しに来た。やっとわかったんだ!」
「元の絵がわかったの?」
僕は今、パーツ通り地下にあるSATO司令部にいる。
「"秋葉原メトロポリターナ美術館"を早く開けてもらって、オマケに貸切にして展示品と見比べてみた。今度の無差別狙撃を予告スル絵画は"サバンナのライオン"だ」
「秋葉原でサバンナと言えば、裏アキバにある芳林パークね?」
「YES。リトラは、既に狙撃位置についてるカモしれません。パークで避難を促せば、インバウンドはパニックを起こし、犯人を刺激スル。避難を始めたヲタクを無差別に撃ち始めるカモ」
目の前のゲイツ司令官が命令を下す。
「ラギィ警部。チームを連れてパークに向かって。
イザとなったら、彼女を抑えられるようにね。ヲタッキーズ、パークに今朝の予定を確認して」
「テリィたん、来るでしょ?現場で合流?」
「僕は、SATO司令部でターゲットを割り出す。パークは任せた」
エレベータードアの閉まり間際にラギィは敬礼してみせる。彼女は大丈夫だ…と、その時は思ったがw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
芳林パークを見下ろす何処か。リトラ・ヴィスは、黒い革の手袋をして、狙撃ライフルを組み立てる。
照準スコープをのぞき、引き金に指をかける。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
パーツ通り地下のSATO司令部。
「芳林パークの大部分は、木が邪魔で満足に射界が取れないわ。オマケにパークの東と西のタワマンにはコンシェルジュがいる」
「つまりパークの南側から撃つしかナイ」
「テリィたん?SATO司令部、聞こえますか?パークと連絡がついたけど、今日の催しは山ほどアルわ」
だろーな。
「不特定の人が集まる奴だけ教えてくれ。ヲタ芸の練習会とかは要らないから」
「え。要らないの?じゃカルチャーセンター主催の自然保護区ツアーと地下アイドル"私の死んだ彼氏"のメジャーデビューを祝う会ね」
え?"死ん彼"メジャーに逝くのか!
「待てょ"私の死んだ彼氏"のメジャーレーベルは確かライヲンレコードだ」
「リトラは、スタボでメジャーデビューの話を聞いたのね。ファンのパークへの移動手段は?」
「ファンクラブの借り上げバスです。現在、パーク到着10分前」
ゲイツが吠える。目の前だと迫力あるなー。
「緊急部隊に連絡して。バスの方にも連絡をして」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
既に貸切バスの中は、ラジカセがフル音量で、全員が半裸、男も女もヲタクも一般人も踊り狂ってる。
バスの運転手は、飛んで来たタオルの下で、自分のスマホが激しく鳴動してるコトに全く気づかない。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の全パトカーが芳林パークに集結だ。次々降り立つ武装警官隊。先頭にラギィ警部アリ。
「グランド末広町ステーション前でバスは停車。ヲタク達は徒歩でパーク入りの予定ょ」
「緊急部隊によれば、この2つのタワマンからが最も狙いやすい。ウチのスナイパーはいつ来るの?」
「10分後よ。周囲のタワーの20階以上を全部調べて。急いで!」
音波銃を抜き、一斉に走り出す武装警官隊。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
バスの中は、相変わらずの乱痴気騒ぎだ。男や女の色とりどりの下着が飛び交い、グルグル振り回されてる。
「早く出て!スマホに出るのょ!」
黒ブラの下で鳴るスマホに誰も気づかない。バスの窓から手足が突き出され、シャツが振り回される。
バスは間も無くセントラル末広町ステーションだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
高層タワマンの中へ音波銃を構えて突入して逝く武装警官隊。
「ラギィ警部に続け!」
「左右に別れろ。1部屋ずつ回ルンだ!」
「コチラ、ラギィ。2421号室の扉が空いてるわ。今から確認するオーバー」
袖口に仕込んだマイクに向かって喋るラギィ。
薄く開いたドアを開け飛び込む。音波銃を構える。昼なお暗い部屋。ソコは空だ。明るい廊下に出る。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
照準スコープのクロスに黄色いバスが入って来る。
引き金に手をかける犯人。運転手に照準をつける…
音もなく部屋に滑り込むラギィ。薄くドアを開け、狙撃ライフルの銃口を確認して、一気に突入スル!
「万世橋警察署!動くな…」
最後まで逝えない。待ち構えてたリトラに殴り倒され、音波銃を取り落とす。遠くに蹴り飛ばされる。
ペタンと尻餅をつき目前に拳銃を突きつけられる。
「リトラ・ヴィス。銃をおろして」
「嫌ょ。コレが私の仕事なの」
「どこが仕事?人を打ち殺してるだけでしょ?」
激しく首を振る元水陸機動団員。
「奴等は"洪水の恵み"を受けている。"洪水"は奴等に与え、私からは奪った。私の足も青春も人生も。不公平だわ。私は秋葉原を出る」
「貴女、洪水教の信徒だったの?人生を憎んでいるのはよくわかる。でも、私の人生も貴女と変わらない」
「なら、貴女も奴等の仲間だわ」
え。違うでしょ?
「私の人生が楽だと思う?」
ラギィは、胸をはだけ谷間についた銃痕を見せる。
「私も狙撃された。焼けた弾丸が私の肉体を貫いて逝く感覚を覚えてる。私の命が萌え尽きて逝く、あの感覚も知ってるわ。貴女にならワカルでしょ?ねぇ誰かに救って欲しくて、紙人形を残したのょね?誰かに他の道を示して欲しかったのでしょ?」
「ま、待って。他に道は無いの。私に救いなんてないのょ」
「いいえ、違う。救いはアルわ。貴女を助けたい。心の痛みを癒す方法を一緒に考えましょう。お願い。銃を下ろして」
ラギィに向けられた銃口がプルプルと震え出す。
「私を見ないで!後ろを向きなさい!」
「嫌ょ。私を撃つなら、私の目を見て撃ちなさい。私は貴女の敵にはなり得ない。なぜなら、貴女と私は似た者同士だから」
「似た者同士?」
微かに銃口が下を向く。ラギィはリトラを直視スル。しかし…
「違うわ。やっぱり私には仕事がある」
再び銃口が上げる。ラギィの眉間に当たる。
「ごめんね。最後ょ」
震える手で拳銃を構えるリトラ。ラギィは薄く微笑み、だが、最後の瞬間までリトラを直視している。
次の瞬間、リトラの胸に着弾。もんどり打って倒れるリトラ。窓の外、隣の高層タワーから狙撃したミユリさんが青空をバックに狙撃ライフルを掲げる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
解散が決まり、後片付けが始まった捜査本部。僕はラギィのデスクに腰掛け、ボンヤリとしている。
「あら、テリィたん。何してるの?」
「スーパーヒロインを待ってたのさ。君も知ってるよね。彼女は、秋葉原の問題を全部背負ってる気になってる。"覚醒"もしてないのに、どんな事件もイチコロで解決、オマケに僕のくだらない冗談にも笑ってくれる」
「そう。そーゆー"元カノ"は大事にしなきゃね」
ふと昔みたいな眼差しをするラギィ。初めて会った彼女が"新橋鮫"と呼ばれてた頃の、あの眼差し。
「まぁね。とにかく!彼女を見かけたら、僕にマチガイダ・サンドウィッチズのホットドッグ100本分の借りがあるハズだと伝えてくれ」
そのママ立ち上がり、立ち去ろうとしたら…
「テリィたん」
呼ぶ声に振り向く。ラギィは笑っている。
「今回もありがとう」
「何が?」
「ただ黙って私が乗り越えるのを見守ってくれた」
うなずく僕。
「当然さ。僕達は…」
「え。何?紀伊半島?」
「違うだろ。キーハンターだ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「リトラ・ヴィスが死んでどんな気持ちだ?」
「ソレが…彼女が死んで事件は解決したんだけど、気持ちが治まるコトはなかった」
「ソレは、自分に起きた問題を未だ君自身が乗り越えていないからだ」
AIと話してるみたいと感じるラギィ。
「いいえ。狙撃される前から感じてた。ずっとそうだったの。あの夜から心の奥底で」
「お母さんが殺された夜のコトかな?」
「YES」
セラピストのロシャの質問は的確だ。
「私は、母の死をバネにして、今の私を作り上げて来た。でも、今は…」
「今は?」
「今の自分以上の存在になりたいと心から願ってる。ソレも母を落胆させるコトなくね」
セラピストは、静かに首を振る。
「ラギィ。亡くなった人は落胆出来ない。君を落胆させたり、失望させたり出来るのは君だけだ。母親の死は、確かに君の1部だ。でも、どこかで心の折り合いをつけなくては。狙撃された時の傷跡と折り合いをつけなくてはいけないのと同じだ。ソレらに囚われる必要は無い」
「…どうすれば、ソレが出来るの?」
「私が手を貸そう。だが、ラギィ。君にその覚悟はアルのか?」
うなずくラギィ。
「あると思う」
おしまい
今回は、海外ドラマによく登場する"連続狙撃"をテーマに、モデルガン以上の存在を知らない異文化の中で苦労しながら描いてみました。オフィスがブラックな分、週末に集中して描くようになりました。いつかタップリ時間をかけて満足の逝く作品をとも思いますが、とりあえず、流行作家を気取って1週1作品の量産体制で逝こうと思います。
さらに、主人公の元カノの狙撃トラウマなどもサイドストーリー的に描いてみました。身近に精神科医を志す人が現れ、ある意味、興味深く描いてみました。
海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、夜までインバウンドで溢れる眠らない観光都市となりつつある秋葉原に当てはめて展開してみました。
秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。