3.あてのない旅へ
地獄のような日々に耐えかねた僕は、唐突に旅に出ることにした。
旅という名の現実逃避に。
でも、安心して欲しい。
僕がオファーを受けていた現場は全て幕を開けることができたから迷惑はかからない。
それに、新規で入ってくるオファーは全て断った。
舞台は大好きなのに、この舞台業界に絶望して一刻も早く離れたかった。
舞台まで嫌いにはなりたくなかった。
僕は電車に揺られながら、旅に出る。
どこにいくのかなんて決まっていない。
辿り着いた先に、何か意味があるってそれだけを信じて、電車に揺られ続けた。
電車がたどり着いた場所は、海の音が静かに聞こえる夕暮れ時の江ノ島だった。
江ノ島は、高校生の時によく来ていた思い出がある。
別に青春をしていたわけではないよ。
青春する時間があるならとにかく演劇だったって思っていた高校時代だったからね。
でも何か悔しいことがあるとよくこの海を見に学校終わりに来ていたっけ。
海岸沿いを歩きながら、あの時の自分の面影を追っているようなそんな不思議な気分になった。
でも、あの時の希望に溢れた世界は、僕の目には映らなかった。
今が、秋口ってこともあるかもしれないけど、何か切なく寂しい世界にしか見えなかった。
ふと顔を上げるとそこは見覚えのある建物が聳え立っていた。
江ノ島高等学校。
忘れもしない僕の青春の始まった場所だった。