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八章

瑠璃に告白した翌日、今朝も普段通りの時間に起床し、いつも通り学校へ向かう。

昨日の公園で、僕と瑠璃は暫く会話のない状態で、その場に留まっていたのだが、さすがに辺りが暗くなり始めた頃合いで、帰ったほうが良さそうだという話を僕から切り出し、瑠璃を家まで送った。

家に送った後の別れ際に、今日も瑠璃の家に遊びに行く約束をしたので、放課後は瑠璃の家に行く予定だ。

昨日は結局、告白までして、瑠璃から好きみたいなことも言われはしたが、結局、それ以上の話はしなかったし、そもそも、瑠璃が留学するかしないかについての話も、うやむやになってしまった。

一晩経って、僕の心の盛り上がりも落ち着いたので、今日の放課後はもっと、踏み込んだ内容について切り出していこうかと思っている。

そんなことを考えながら歩いていると、間もなく校門が近づいてくる。

普段通り、何も気にせずに門を通ろうとしたところで、向こう側から由奈がやってくるのが見えた。

由奈の顔を見て、昨日の図書館でのことが思い出される。

瑠璃との出来事があったため、あまり思い出さずに済んでいたが、こうして顔を合わせて見ると、想像の何倍も気まずく感じた。

気づいていないフリをしようかとも思ったが、そう思ったときには目が合っていた。

無視することもできないため、気まずいながらも、こちらから挨拶する。

「よ、よう、おはよう。」

緊張のせいか、声の出が悪かった。

由奈の反応が薄かったため、聞こえていないのかと不安になったが、遅れてレスポンスが返ってくる。

「おはよ。」

由奈はそれだけ言うと、これ以上は口を聞きたくないと言いたいかの様に、そそくさと一人で行ってしまう。

向こうも顔を合わせづらいのだろうが、それ以上に怒っている様にも見えた。

とりあえず、今日はそっとしておいた方が良さそうだ。

校門で立ち止まっているわけにもいかないので、前を歩く由奈の背中を目で追いながらも、ゆっくりとした足取りで校舎へ向かった。



放課後


朝の校門での出来事以外、特筆すべきこともない日常が過ぎ去り、気がつけば、もう放課後である。

今日一日は、休み時間でも由奈と会話をすることはなかった。

ついでにいえば、賢人と会話することも無かったが、毎日必ず会話しているというわけではないため、今日が特別、変だというわけでもない。

今日は放課後に用事もないため、帰りのホームルームが終わり次第、帰り支度を始める。

僕は予定通り、そのまま瑠璃の家に行くつもりだ。

帰り支度を終え、席を立ったタイミングで声をかけられる。

「真言、もう帰り?」

声のした方を見ると、仏頂面の由奈がそこに立っていた。

「う、うん。そうだよ。」

今も機嫌が悪そうな顔をしているように見えるので、機嫌が直ったわけではなさそうだ。

正直、機嫌が直るまでは会話しないだろうと思っていたため、寝耳に水だった。

「そう。じゃあ、一緒に帰ろ。」

もっと事務的な理由で話しかけて来たのかと思ったので、尚の事、想定外だった。

反射的に拒否したい思いが湧き上がったが、さすがにここで断ったら、さらに不機嫌になりそうだったので、大人しく付き合っておいた方が良さそうだ。

「う、うん、わかった。」

由奈の帰り支度は済んでいる様で、すぐにでも出られそうだ。

「ほら行くよ。」

そう言って歩き出した由奈の背中を僕は追った。



学校を出てから暫くは、二人共無言だったのだが、流石に無言の時間に耐えかねたのか、由奈の方から切り出してくる。

「瑠璃に、好きだって、言ったんだってね。」

歩きながら由奈が僕に話しかけてくる。

「な、なんで知ってるの?!」

突然の話に、僕は焦りを隠せなかった。

「瑠璃から聞いた。真言に告白されたんだーって。」

まあ、そんなところだろうな、というのは何となく思った。

というか、隠れて見ていたとかでもなければ、そのぐらいしかないだろう。

「・・・」

僕は、言うべき言葉が思いつかなかった。

言い訳や、取り繕う言葉を言ったところで、往生際が悪く見えるだけだ。

由奈の言葉は、責めているわけではないのだろうが、今の僕からすると、責められているかのように感じた。

「・・・なんか、リアクション無いの?」

「・・・なんて言えば良い?」

「問い掛けに問い掛けで、答えないでもらっていい?」

「えっと・・・」

結局、何を言えば良いのか、僕は思いつかなかった。

見かねた由奈から話し始める。

「はぁ・・・。まあ、白黒ついただけ、まだマシだけどね。でも、瑠璃が好きだっていうなら、もっと、はっきりとした態度を取って欲しかった。」

「・・・ごめん。」

「は〜〜〜・・・。ふん!」

思い切り由奈に肩を叩かれる。

「イッタ!ちょ、やめろ!」

「ムシャクシャしたからやった。」

「・・・そうでしょうね。」

「私を振っておいて、その日のうちに、別の女に告白しているし、振った私に対しては、中途半端な態度しか取らないんだから、ムシャクシャもするよ!」

「・・・ごめんて。」

「あーあ、やってらんないわ。こんなのを好きになったとか、マジありえない。」

心の声が駄々洩れである。これほど荒れているのも珍しい。

「まあ、クヨクヨしてらんないけど。こんなのに振られたとか、格好悪いから誰にも知られたくないし!」

「そっか・・・。」

言われていることは悪口だったが、気まずくならない様に、わざと言っているようにも思えた。

由奈なりの気遣いなのかもしれない。

「覚えとけよ。いつか、私を振ったことを後悔する日が絶対来るから!」

「うん、そうだね。そうなると思う。」

実際問題、由奈は十分魅力的な女の子だと思う。瑠璃がいなかったら、僕の想い人は由奈だったかもしれない。

「その余裕ある感じが気に入らないけど・・・。とりあえず今は、瑠璃を悲しませることだけは絶対ダメだからね!そんなことしたら、私、許さないから!」

「もちろん、そのつもりだよ。」

それだけ言うと、由奈の歩く速度が速くなる。

置いていかれないように、由奈の歩く速度に合わせて、僕も歩く速度を上げた。

しばらく歩くと分岐に差し掛かり、一方は瑠璃の家へと続く道で、もう一方は駅へと続く道だ。

由奈が立ち止まったため、僕も足を止めて、由奈に問いかける。

「由奈は今日、瑠璃の家に行くか?」

「いや、今日は行かない。好き合っている男女の中に入っていくほど、もの好きじゃないから。」

「そっ、そうか。」

改めて、面と向かってそんな風に言われると、むず痒い感じがする。

「その照れた感じだけでも嫌気が差すよ。じゃあ、ここで。」

それだけ言い残して、由奈は駅へと続く方向へ去っていった。



由奈と別れたあと、瑠璃の家に向かった。

瑠璃の家に着くと、いつも通り、インターホンを鳴らす。

少しして、家のドアが開き、ドアから瑠璃が出てくる。

「待ってたよー!さ、上がって上がって!」

そう言って出てきた瑠璃の雰囲気は、普段と変わらない様に見えた。

「お邪魔します。」

そう言って、僕は家へと上がった。

心がけたつもりは無かったが、自然と僕の振る舞いも、普段と変わらないものになっていた。

正直、もっと、ぎこちなかったり、落ち着かない感じになるんじゃないかと思っていたが、意外にも、そうはならなかった。

家に上がってからは、普段通り、瑠璃の部屋に通され、ゲームを始める。

ゲームをやり始めても、普段通りの空気感で、まるで昨日のことなどなかったかのようだ。

実は夢だったのではないか?という疑念が思考を支配し始めたタイミングで、瑠璃はゲームの手を止めず、僕に話しかけてくる。

「ねえ、真言。」

「うん?」

「私たちって、付き合ってるの?」

「え・・・?」

先程までの何気ない雰囲気から一転、核心めいた問いかけをしてくる。

思わず瑠璃の顔を見ると、先程までに比べて、少し頬が赤いようにも感じられる。

今日来てからの瑠璃の雰囲気からすると、全くその気が無い様な感じだったのに、急にそんな雰囲気にされると、こちらも思わず緊張してしまう。

どう答えるのが良いか、僕は少し思い悩む。

答え方次第で、空気を和らげるとか、真剣な返答で、こちらの誠意を見せるとか、いろいろできたかもしれない。

けど、僕はそれほどの度胸もなければ、テクニックもなかった。

「僕は・・・、そのつもりだよ。」

何の捻りもなく、それでいて言葉に詰まった様な返答をしてしまう。

もっと気の利いた返事の仕方があったのではないか。自分の発言に少し反省し始めた頃、瑠璃が口を開く。

「ふーん・・・。そうなんだ。」

その後に続く言葉はなく、沈黙が訪れる。

肯定でも否定でもない、その相槌の様な言葉を聞いて、僕は悩んだ。

瑠璃にその気は無かったのだろうか?僕の素っ気無い答えに腹をたてたのだろうか?

沈黙が僕の悩みを重くする。

目はゲーム画面を見つつも、頭の中で凄い悩んでいると、また、瑠璃が口を開く。

「ねえ、ちょっと、外歩かない?」

「え、ああ、いいけど。」

突然の瑠璃の提案に驚きつつも、瑠璃がゲームを辞めて、部屋を出ていったので、僕もその後に続く。

家を出て、目的地もわからずにぶらぶらと瑠璃の少し後ろを付いて歩く。

何を話せば良いかわからず、無言で歩いていたが、話す気になったのか、瑠璃から話しかけてくる。

「そういえば、先生には、留学しないって伝えておいたから。」

瑠璃は何気ない感じで切り出してくる。

が、突然のカミングアウトに、僕は面食らってしまう。

「え、良かったのか?」

「うん、真言の近くにいたいしね。」

「お、おう・・・。」

面と向かって言われると照れるな・・・。

その後、いつもの様に会話が続かず、無言のまましばらく歩いていると、閑散とした公園が右手に見えたところで、瑠璃が僕に話しかけてくる。

「ちょっと公園で休んで良い?」

「え、ああ、良いよ。」

僕の返事を聞くと、瑠璃はその公園に入り、近くにあったベンチに腰掛ける。

「真言も座ったら?」

瑠璃はそう言って、空いている隣の席を軽く手で叩いた。

「ああ、それじゃ、失礼して。」

誘導されるがまま、僕は瑠璃の隣に腰掛けた。

何だか、変な感じだ。

別に、今までも瑠璃の部屋で隣り合って座っていたのだから、

場所が公園のベンチに変わったところで何かが変わるわけではないのだが、変に緊張してしまう。

環境が違うからなのか、いつもと雰囲気が違うからなのか、普段している何気ない会話が思いつかない。

そんな雰囲気の中、瑠璃が口を開く。

「私もね、真言と付き合いたい。・・・いいよね?」

瑠璃の言葉に脳の処理が追いつかず、しばらく無言になってしまう。

が、少しして、何を言われたかを理解する。

「え、あ、ああ!もちろん!」

普段から、脈絡のない話をされることがわりとあるのだが、今の僕では、それを冷静に受け流すことができなかった。

反射的に、隣に座る瑠璃の顔を見たが、僕の挙動不審を気にした様子もなく、静かでいながら、少し嬉しそうな表情をしていた。

その顔を見て理解する。

僕が瑠璃を好きな様に、瑠璃が僕を好きでいてくれているということを。

さっきまでの緊張は薄れ、浮かれた気分になっていく。

そんな僕の心情を知ってか、知らずか、瑠璃は僕から視線を外し、正面に向き直って自分の思いを吐露していく。

「私は前から、真言のことが好きだったんだけど、でも、私は他の子達とは違うから・・・。異性として、見られてないんだと思ってた。」

「いや、そんなことないよ!」

「うん、最近、というか、昨日わかった。異性として、女の子として見てくれてるってことが。今まではどうかわからなかったけど、少なくとも今は、好きでいてくれてるってことが。」

「うん、好きだよ、瑠璃。」

照れくささが無いわけではなかったが、先程までとは違い、つまらずに言うことができた。

清々しい気持ちになり、瑠璃から視線を外して、正面の公園に向き直る。

夕日の赤に照らされて、僕たち以外誰もいない公園の景色が、少し幻想的に映る。

「ねえ、真言、こっち向いて?」

瑠璃の言葉に誘導されて、瑠璃の方に顔を向ける。

「うん?」

目を閉じて、顎を上げた状態で顔をこちらに向ける瑠璃。

「ん!」

これは、キスの催促というやつだろうか・・・?

これ、僕からするのか?

この状態で向こうからしてくることはないだろうから、こちらからするしかないのだろうが・・・。

あまり待たせるわけにもいかないため、僕は意思を固めると、瑠璃の肩に優しく触れ、自分の唇を瑠璃の唇に重ねる。

緊張もあり、数秒だけでその触れさせた唇を瑠璃の唇から離す。

その数秒は、一瞬の様な、永遠の様にも感じるような不思議な感覚だった。

まだ近い距離にある瑠璃の顔が目を開ける。

「不思議。これまで、こんな感覚、味わったことなかった。」

「僕もだよ。でも、キスぐらい、これからは何度だってできるよ。」

「真言から、キスしてくれるの?」

「それは・・・。努力するよ。だから、これからの僕を見てて。」

「うん。見てる。私、ずっと真言の傍にいるから。」

「僕も、ずっと傍にいるよ。」

その言葉の通り、僕は、これからも瑠璃の傍にずっと居続けるだろう。

関係が続くほど、悩んだり、衝突したりすることもあるだろう。

それでも僕は、瑠璃の傍に居続けるのだろう。

それが、僕の願いなのだから。


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